軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

通行許可

空を飛ばなくても目立つものは目立つ。

イーストンの言う通りで、翌日道を歩き出して間もなくして騎士と遭遇。言葉を交わす間もなく撤退した騎士たちの背中に、「あの……」という呼びかけと共に、ハルカの手が虚しく伸ばされた。

「追うか?」

「いや、今追いかけたら絶対戦闘になるよ」

アルベルトの提案をイーストンが却下する。

大型飛竜が地面を走って追いかけてきたら、それはそれで怖い。

「そのうち向こうからまた来てくれるです」

「戦闘準備してたけどねー、ま、気にしない気にしない」

特に気にした様子もなく笑うコリン。

会話する余地くらいはあると思っていたハルカは、伸ばした手を引っ込めて、まだ自分の考えが甘かったことを反省する。

次は白旗でもあげながら進んでみようかと、ナギを見上げた。ナギの背では、ユーリが立ち上がって去っていった騎士を見ている。

見えなくなるとナギの背中を手で叩きながら一言。

「ナギはいい子なのにね」

常識からずれた感性を持ったものたちに育てられると、いくら落ち着いた子でも当たり前の感覚を身に着けることは難しいようだった。

フル装備の騎士団に襲われることも想定しながらゆっくりと先に進んでいると、見覚えのある騎士が一人、馬に乗ってやってくるのが見えた。少し手前で止まると馬から降りて、ゆっくりと歩み寄りながらフルフェイスの兜を外す。

見覚えのある騎士。ハルカたちが以前空を飛んでいた時にも世話になった、大隊長のグレイルだった。

「あなた方だと思いましたよ……。今度は大型飛竜ですか」

ナギを見上げるグレイルは、恐れを持っているようには見えないが、いつでも動き出せるように体を緊張させているようではあった。

「それにしても、大きい。大型飛竜を見るのは初めてです」

「ナギといいます。空を飛んで入るよりはいいかと思って歩いてきたのですが、お騒がせして申し訳ありません」

「そこの配慮ができるのであれば、もう一歩進めて考えていただけると助かるのですが、ははは……」

冗談めかして言ってはいるが、それがグレイルの本音だろう。

それを十分に感じ取ったハルカであるが、卵から育ててきたナギだけを留守番させるのは、どうしても気が引けてしまう。

ただの我がままであった。

仲間たちもまた、できれば連れていってあげたいという考えを持っている。皆で話し合うと、様々な問題を考慮したうえでも、結局連れていくという結論にたどりついてしまうのであった。

「車を引く地竜や、飛竜便で使われるような大きさであれば、そこまで大騒ぎはしないのですけどね……。今回の目的地もヴィスタですか?」

「ええ、そうなりますね」

「流石に街中に入ることは難しいでしょうが、戦闘配備をしないよう通達は出しておきましょう。五日時間をください。そのまま道を歩かれては、すれ違ったものが皆逃げ出してしまい、交易などに支障が出ます。五日後には空を飛んで、ヴィスタまで向かって構いません。ただ、それまでは道から外れた場所で待機していただけませんか?」

「五日でいいんですね。わかりました」

「注文ばかり付けるようで申し訳ありませんが、そちらの竜はヴィスタ付近には着陸させないでください。どこかの丘や森などの、人が通らない場所に待機させて、そこから歩いてきてくださると助かります」

当然の申し出ではあったが、グレイルはあくまでお願いとしての形を崩さない。彼自身実力と身分のある騎士であったが、特級冒険者への対応が非常に繊細なものであると理解しての態度だった。

「ご迷惑おかけします、その通りにしますので」

「ご協力感謝いたします。次回以降も竜に乗っていらっしゃるのであれば、予めコーディ殿とご相談の上、やり方を定めていただければ幸いです。何かご質問等ございますか?」

「えーっと……、山の方に戻って待機したほうがいいですよね?」

「そうしていただけるのであれば、お願いします」

「あ、はい、そうします」

グレイルはハルカたちの顔を順々に見て質問を待ってから、ややあって軽く頭を下げた。

「では、よろしくお願いいたします」

「重ね重ね、失礼いたしました」

「……いえ、これは内密にしていただきたいのですが」

グレイルは妙な顔をして視線をそらしながら続ける。

「一部の特級冒険者の方は、しれっと街に入り込んで問題を起こすことがあります。こちらの警告を聞いてくださらないことも多い。それを考えればハルカ殿はこうして話し合う機会を設けていただけるだけありがたいですね。これからも治安の維持にご協力いただけると助かります」

そう言って立ち去っていくグレイルを見送って、ハルカたちはナギの背に上がる。

ハルカの感覚からすると、冒険者の半分以上は攻撃的なものが多い。そもそも職業として戦いを前提にしているため、階級が上がるほどそういうものが多いのは当然のことではある。

それを思うと、その頂にいる特級冒険者が特別に攻撃的な性格をしているというのは想像するに難くなかった。

そう思えば、今までハルカたちが出会ってきた特級冒険者というのは比較的理性的だった。やや理解をしがたい感覚を持っているユエルであっても、意味もなく一般人を傷つけて回るようなタイプではない。

これから向かうのは戦いの多い南方大陸だ。

きっと今まで以上に攻撃的な人物が多くなっていくはずだ。

それこそ初めて出会った頃のレジーナのような。

そんなことを考えながらハルカがナギの背に登ると、ずっとユーリの横で腕を組んで立っていたレジーナが、難しい顔をして口を開いた。

「おい、さっきの騎士ぶっ飛ばさなくて良かったのか?」

「あ、敵じゃなくて、色々と手続きをしてくれる方なので」

「ふーん……。一人旅の時より襲われねぇから、なんだか退屈だな」

「つまらないですか?」

「…………いや、別に」

レジーナはやはり顔をしかめ、しばらく首をひねって考えた姿勢のまま、ぶっきらぼうにそう答えるのであった。