軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

同世代

拠点へ戻ってきてから四ヶ月。

時折雪がちらつくような季節となり、ハルカが来てから三度目の新年を迎えた。

ハルカと仲間たちは訓練するかたわら、その期間、季節ごとの行事を楽しんで過ごしてきた。

子供たちの健やかな成長のため、それから普通の人たちの文化に馴染みのないレジーナやカーミラのためにとハルカが進言したことだった。

みんな酒は飲まないものの、毎回人を呼んだり、ご馳走を作ったりして騒ぐのは実に楽しい。

今日も、新しい年を祝うために、準備をしていると森から中型飛竜たちが編隊を組んで戻ってくる。しかしそこにはいつも先頭にいるはずのナギの姿がなかった。

いつもより乱暴に着地した飛竜たちは、ギャオギャオ騒いでハルカたちがいる方へ向かってくる。誰かが轢かれては大変なので、ハルカが近寄っていくと、その中でも大柄な飛竜が一頭、ふたたびそらをとんで、ハルカの方を何度か振り返った。

言葉はわからなくても何を言いたいのかは、なんとなく察することができる。

ついてこい、だ。

ハルカはすぐさま空へ浮かび上がり、何事かとついてきていたアルベルトへ声をかける。

「ちょっと行ってきます!」

「わかった。おい! ちょっとハルカと出かけてくるからな!!」

みんなに伝えてもらうつもりで言ったハルカだったが、その大きな体相応の大声で仲間たちへ言ったアルベルトは、そのまま残っている中型飛竜の一頭へ飛び乗った。

「よし、追いかけろ!」

アルベルトは普段から飛竜たちと特に仲がいい。乗せてもらって狩りに付き合ったりしているので、ハルカが補助をしなくても振り落とされる心配はない。

小山のようなナギは、森の木が茂っているところに入り込めずに、道や少し開けたところで狩りをすることが多いので、空から見るとすぐに居場所がわかる。

ナギは大人しく身を固めていたが、その目の前には四人の冒険者らしき人物の姿が見えた。全員が武器を構えている。

ハルカは速度を上げて中型飛竜を追い越すと、そのまま急いでナギの前へ着地した。

「武器を納めてください! この竜は、うちの、うちの子なので、噛みついたりしませんから!」

シンと静まり返った空間だったが、金髪をオールバックにした恐ろしい形相をした大男が、大剣を地面に突き刺し、厳しい表情のまま口を開いた。

「良かったな、イェット! 噛んだりしねぇってよ!」

「……じゃあいい」

そう言って、自分の背丈よりも大きなハルバードを肩に担ぐ少女。続いてゆったりとした服を着た女性が、肩をすくめる。

「いやぁ、突然こんなにでっかい竜が出てきて驚いたのぉ」

ハルカがそちらへ目を向けると、一瞬こめかみにピリリとした違和感を覚えた。

何かしらの精神的な魔法を仕掛けられた時に起こる感覚だ。ハルカはほんの少し警戒心をあげる。最後に話した女性の足元が揺らぎ、スカートが膨らんだように見えた。

視界にあり得ないものが映ったが、ハルカは息をのんでそれに言及するのを我慢した。戦いになるかもしれないというのに、そればかり気にしている場合じゃない。

他にもよく見てみれば、大男の陰に一人背の小さな女性がじっとハルカの方を窺っているのがわかる。

三人が気を抜いて武器を下ろしたのに対して、長い白髪をポニーテールにした少年は眉間に皺を寄せて声をあげる。

「なんでもかんでも信じるのはやめてくださいっていつも言ってるじゃないですか!」

少年の剣だけはまっすぐにハルカの方へ向けられたままだ。

ハルカがその時考えていたのは、信じてもらえない焦りや、切先を向けられていることへの警戒ではなく『ああ、この少年きっと苦労しているのだろうな』だった。

「ええ、でもよー、イェット」

大男が呑気にそう言った時、一陣の風が吹き、空から人が降ってきた。

「俺の仲間に」

大剣を振りかぶったアルベルトが降ってくる。

「剣を向けてんじゃねぇ!!」

振り下ろされた大剣は、元々当てるつもりではなかったのだろう。イェットと呼ばれた少年の眼前に振り下ろされて。地面を抉り、石と土を跳ね飛ばしただけだった。

しかしイェットは大きく飛び退いてそれを避けると、スーッと目を細めて剣呑な雰囲気を醸し出す。

「……油断させて不意打ちですか」

大柄の男を除いた二人が再び武器を構えたのに対して、大男だけは「かっけぇー」と呟いている。

「アル! ストップ!」

「なんだよ」

「なんだよじゃありません、いきなり攻撃しないでください」

「だってあいつ武器向けてたじゃねぇか」

「話し合いの途中だったんです」

話しながらハルカは歩み寄って、アルベルトの腕を捕まえて頭を下げる。

確かに戦いになりかけてはいるが、そもそもの発端は上位の冒険者でも敵わないような大型飛竜であるナギが、道の真ん中に居座ったことにある。

拠点が家だと考えれば、知らない人が来たことで番犬のようにお出迎えしたのかもしれないが、これまでそんなことはなかったのだ。

言葉を話せないナギとこの冒険者たちの間で何か行き違いがあったのではないかとハルカは考えていた。

「すみません、本当に危害を加える気はないんです。アルも攻撃を当てる気はありませんでした、ほら、一緒に謝ってください!」

「いや、だって」

アルベルトが言い訳を始めようとすると、後ろではナギがどしんと地面に伏せて「ぐる」と比較的静かに唸った。

「おい、ナギ、謝るなよ」

アルベルトが振り返って言うと、ナギはすっと視線を逸らす。どうやらナギは、ハルカに倣って謝ったようだ。それが相手方に通じているかは別問題であったが。

そんなことをしていると、後ろから軽快な足音が聞こえてきて、金棒を片手に持ったレジーナがハルカの横へやってきて言った。

「あいつらぶっ殺せばいいのか?」

「……えーっと、違いますね。あの、信じてもらえないかもしれませんが、本当に争う気はないんです」

がっしりとレジーナの腕も掴んだハルカがそう言うと、イェットは逡巡した後、ため息をついて肩の力を抜き、構えを解いた。

「おっ、喧嘩するのか?」というワンテンポ遅れた大男の言葉を無視して、イェットはハルカに憐れむような視線を向ける。

「ええ。なんかはい、わかりました。そちらもご苦労されているんですね。お騒がせして申し訳ありません」

「え、もういいの? よかったー、食べられちゃうかと思ったー」

「うお、なんだあいつ、突然出てきたぞ」

よじよじと大男に登り、勝手に肩に座り込んだ少女に、アルベルトが目を見張る。ハルカには見えていたが、なんらかの方法で他の目をくらましていたのがわかる。

その証拠に、魔素が見えているレジーナは初めから少女の方にも目を配っていたし、驚いた様子もなかった。

イェットという少年は、優雅とは言えないまでも落ち着いた余裕のある仕草で頭を下げて、ハルカへ名乗る。

「南方大陸の自由都市同盟所属、イェット=ソードと申します。知人に年の近い有望な冒険者がいると聞き、勝手ながら訪ねてまいりました。竜に警戒していたとはいえ、失礼をいたしました。あなたが、特級冒険者【耽溺の魔女】ハルカ=ヤマギシ様でしょうか?」

「…………あー、はい、確かに私が、はい……、そのヤマギシです」

真正面から二つ名を呼ばれてダメージを受けたハルカは、認めたくはない気持ちを抑えながら、控えめにイェットの質問を肯定するのであった。