軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

サプライズ

「見てください、ほら!」

ハルカが戻ってくるのを建物の前で待っていたサラは、姿を見るや否や成果を見てほしいと言って、詠唱をせずに空中に障壁を生み出した。

「おー、詠唱せずに魔法が使えるようになったんですね」

「はい! ノクト先生がいつも詠唱していなかったので! ……他の魔法は今まで通りですけど」

「以前レオに聞きましたよ。詠唱をしないというのは相当な高等技術なんでしょう? 短い期間でよくできるようになりましたね」

「えへへ……。でもえっと、すぐ壊れちゃうんですけど」

サラがツンと指先で障壁をつつくと、ずぶりと穴があく。耐久度は濡れた紙くらいしかなさそうだ。実戦ではあまり役立ちそうにない。

「それでも成長していることには違いありませんから。あなたが真面目に訓練した証拠です」

褒められたサラが照れながら笑っていると、家の中から声がかかる。

「サラ、ご飯の準備手伝ってちょうだい」

「はーい! それじゃあ、手伝ってきます」

母親との関係も良好なようだ。

それを見てハルカはほっとする。

のびのびと、家族仲良く暮らせているのなら、ここに連れてきて良かったと思えた。

「えっと、後でお話聞かせてください。それから、そっちのお姉さんも! 私サラ=コートです、よろしくお願いします!」

「あ、うん、カーミラよ」

「じゃあ、カーミラさんも後で!」

健康そうで年相応に元気で、随分と明るい雰囲気を纏うようになった。あんまりはきはきしているので、カーミラなんかは押され気味なくらいだ。

「とりあえず家の中に荷物を置いてきましょうか。部屋はまだ余ってますし、案内しますよ」

「う、うん、入っていいのかしら?」

「え、はい、もちろんどうぞ」

遠慮がちに玄関をくぐり、中をぐるりと見まわしながらカーミラがついてくる。小さな部屋をいくつも作った建物だから、部屋はまだまだ余っている。この間まで使っていなかった部屋に案内しようとすると、そこにはシュオの表札が入っている。

もしかしたらこれからもここにいるつもりなのかもしれない。

そこからもう一つ奥まで行って、使っていない部屋の扉を開けてカーミラを中へ案内する。

「はい、この部屋を使ってください。……掃除も換気もちゃんとしてくれているみたいですね」

流石にベッドにシーツまでは張られていなかったが、ほこりが積もっていることも、空気が淀んでいることもない。サラの母であるダリアが、毎日この建物を整備してくれているということなのだろう。

もし引っ越してきてもらっていなければ、まず掃除から始めなければいけなかったかもしれない。

片手で持てる程度の荷物しか持っていないカーミラは、それをポンとおいて部屋を見まわした。城に比べたら質素な生活になるが、それでもカーミラはこの部屋が好きになれそうだった。

「お姉様、改めてありがとうございます」

「……えーっと、どうしました?」

「多分今って、私たちと人はかなり仲が悪いんでしょう?」

「……まぁ、そうですね。そういう考え方が主流です。だから、カーミラのことを話す相手は選ばないといけません。この拠点だと……、レジーナには話すつもりです」

「だ、大丈夫かしら?」

「大丈夫です。彼女は種族云々ではなくて、敵か味方かが判断基準ですから。サラさん一家は……信用できないわけではないんですが、刺激が強すぎるので、追々にしましょう。フロスさんも同様ですね。それで大丈夫ですか?」

「うん、任せるわ」

「嫌だったら言っていいんですよ?」

「いいの。賑やかな場所で暮らせるんだって思うと、不安もあるけどそれより楽しみなことの方が多いわ」

カーミラはずっと友人もなく、隣人もなく生きてきた。

昔は両親と自分、それから使用人。

それからたまに来る犬と呼んだ人々。

この間までの犬たちと、ぎすぎすした同じ吸血鬼たちとの暮らし。

そのどれもが対等な立場の隣人というものが存在しなかった。千年も生きてきて、コミュニティの一員として普通に暮らすというのがカーミラにとっては初めての体験なのだ。

「そうですね、きっと楽しいですよ」

気合を入れるカーミラを見て、ハルカも微笑んで答えた。

この世界にきて初めて、気を許せる友人ができて、冒険者として挑戦し続けたハルカだったからこそ、カーミラのその気持ちがよくわかった。

居場所のない人が暮らせる場所を、いつか作れたらいい。

そんなことを随分前に思ったことがあったが、レジーナやカーミラを見ていると、少しずつそれが現実のものになってきている気がして、ハルカはとても嬉しかった。

二人で連れ立って屋敷の外へ出ていくと、コリンが囲いの周りをぐるりと回り、扉の前で首をかしげている。塀からは煙突のようなものが覗いており、火を焚くような施設であることが分かった。

「どうしました?」

「ん、これ何かなーって。出かける前はなかったでしょ?」

「んー……、なんでしょうね。中を見てみましょうか」

そう言って扉を開けたハルカは、その場で固まった。ひょこっと後ろから覗き込んだコリンが呟く。

「なにこれ、桶のお化け?」

コリンの言う通りだった。

円形の大きな桶がでんと真ん中に置いてあり、その端に仕切りがあってそこから煙突が飛び出ている。煙突から繋がる金属製の部分は、囲いの外へと続いているようだ。

ハルカには一目でそれが何かわかった。

風呂だ。露天風呂である。

拠点を作り始めた頃にクダンが、風呂を作ってくれると約束していた。短い期間で作られていたこと、そして思っていた以上に立派であったことにハルカはたいそう驚いて言葉を失っていた。

「あ、お帰りなさい皆さん。これ、お風呂らしいですよ。怖い顔をした人が来て作ってくれたんですよ。水を張って外から火を焚くと温かくなるんです。使い方を教えてもらいました」

「フロスさん、ただいま帰りました。その、ク、クダンさんはどちらに?」

「えーっと、これを作り終わってしばらくして、南に行くと言っていなくなってしまいました。つい先日のことですけれど……、お引止めしておいた方がよかったですか? そのうちまた来ると言ってましたが」

「お礼を言いそびれました……」

「ね、ハルカ、なにこれ?」

「えーっと、お風呂といって……。湯に浸かってのんびりするものなのですが……」

「へぇええ、なんか贅沢だね。街だとさー、川から勝手に水持ってきたりしたら怒られるし。あとで使ってみよーっと」

次に会った時には深くお礼を言うことを心に決めて、ハルカは木でできた大きな浴槽をペタペタと触ってみるのであった。