軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

潜在能力

「まぁ、本人の言ってる通りだよ。人からの吸血をしないと、能力は少しずつ弱くなる。本人の資質に応じて下限はあるみたいだけどね。千年も生きてるんだから下限の状態でも相当強いはずだけど……」

イーストンがちらりとカーミラの方を見ると、真面目な顔をして手を忙しなく動かしている。親に怒られている子供のような仕草に、思わずイーストンは笑った。

「でも、いいんじゃない。別に死ぬわけでもないし、吸血したほうが魅了は通りやすい。少なくともあの男よりはカーミラの方が信用できる。今更裏切るようなことをするとも思えないし」

「なによ、わかってるじゃない」

安心して強気に出てきたカーミラを、イーストンは呆れたように見つめる。調子に乗りやすい性格は変わらないようだ。

「問題があるとすれば、吸血したことがバレると、あの男にカーミラが吸血鬼であると悟られることだね。やるならバレないようにやるんだね」

「確かにバレるのはまずいよねー」

うんうんと頷くコリン。結局男を引き渡すことになった時に、取り調べをする人たちの前で余計なことを暴露されても困る。

仲間たちに反対意見はなさそうだ。

ハルカは捕まえている人の血を吸うというのは、あまり良くないのではないだろうかと思う。しかしハルカ側としても命を狙われたわけであるし、それくらいしてもいいのではないかという気持ちもあった。

一般常識と冒険者の常識がせめぎ合った結果、ハルカは一つ答えを出す。

「もし本音を話してもらった結果、事情があるようでしたらここで逃してあげることにしましょうか。どちらにしてもリーサの方でも公爵側にいた人を捕まえているでしょうし、無理にあの人を連れていく必要もないですから」

「別にいいんじゃね」

アルベルトが欠伸をしながらそう答える。良い悪いというより、どうでも良いというのがアルベルトの内心である。

「それじゃあ食事を持っていって、こっそり血を吸うとしようかしら」

「一緒に行きます。障壁を解かなければいけませんし」

機嫌よく夕食を取り分けたカーミラの後にハルカは続く。仲間たちはそれぞれ片付けをしたり、訓練しに行ったりと、あまり男には興味がなさそうだ。

「僕も行こうかな」

くつろいでいたイーストンが立ち上がって、横に並ぶ。

「信用できなさそうな奴なら、そのまま女王の下へ送り届けちゃっても良いと思うけどね」

「何かしらの事情があるかもしれませんし……」

「そのために血を吸われても良いかっていうと、ほとんどの人は拒否するんじゃない?」

「そう思います?」

「死ぬわけではありませんし、大切なもののためならそれくらいは……」

「それはハルカさんが知っているからだと思うけど。ま、ものは試しだからね」

先頭を歩くカーミラが障壁の前にたどり着いたところで、男が顔を上げる。

「お腹が空いたでしょ、食事を持ってきたわ」

「ありがてぇ……。でも壁があって……」

ちらちらと卑屈な表情でハルカの方を窺う男。

「お姉様、お願いします」

ハルカは頷いて障壁を消す。

カーミラが夕食を差し出すと、男はそれを受け取るそぶりを見せ、そして突然身を翻した。

夕食を振り払いカーミラの後ろに回り込み、首に腕をかける。

ハルカは驚いて目を見開き、イーストンは眉を顰め、カーミラは無表情に落ちた夕食を見つめた。

男は捕まえたままにしていたので武装の解除もしていない。片手で腰に下げられた剣を抜いた男は、その刃をカーミラの首元へ寄せる。

「バカが、油断しやがったな。動くんじゃねぇぞ」

ずりずりとその姿勢のまま下がっていく男。そのまま逃走しようという魂胆だろう。

「そうまでして帰らなければならない事情がありますか」

「んなもんねぇよ。でもこの女はもらっていくぜ。逃して追いかけられちゃたまらねぇからな」

「……まぁ、こういうこともあるか」

イーストンがそう言って空を見上げる。

雲ひとつない空に丸い月が浮かんでいた。吸血鬼の時間だ。

「……かわいくない」

「ん、おい、抵抗するな殺すぞ」

カーミラに剣を突きつけたままずるずると下がっていた男の足が止まる。カーミラの腕がゆらりと動き、喉元に突きつけられた剣の腹に指をかける。

「おい、抵抗するなって……」

男は再度カーミラに警告しようとして気づく。剣がぴくりとも動かない。

「私はただ、ご飯をあげて、ちょっとお話を聞いてあげようと思っただけなのに。お姉様とあなたのために、機会を作ってあげようと思ったのに。……かわいくないわ」

空いた手が、首元にかかっていた男の手首にかかる。力を入れた様子もないのに、拘束が外されていく。抗いようのないその怪力に、男は息を呑むような悲鳴をあげた。

締め付けられる手首に、男が剣を手放して全身を引いて逃げようとしたところで、パッと手が離される。カーミラは尻餅をついた男に顔を寄せた。

作り物のように端正なその顔も、不気味な怪力を見せられた後では恐ろしく見える。

「躾けないとダメかしら……」

バタバタと逃げ出した男をハルカが障壁で囲い込む。妙な雰囲気にちょっとドキドキしてしまっていた。

「はい、そこまでにしましょう」

「お姉様、躾が必要よ。食事は無駄にするし、女性の扱いはひどいし、碌でもない犬だわ」

「犬じゃありません、人です」

囲った男を、空に浮かしてそのまま元の位置に戻す。

「……残念です。やはりあなたはリーサの下へ届けることにしましょう。さ、カーミラも戻りますよ、ほら」

「え、お姉様、まだ……」

「はいはい、戻りましょうね」

「あの、血が……」

「はい、その話はまた後で。危なかったら頑張って守ってあげるので、今回は我慢してください」

ハルカたちが戻っていくのを見ながら、イーストンが地面に落ちた剣を拾う。

その腹にはきっちりとカーミラの指跡が残っており、それは、彼女がどれだけの力を有しているかを示していた。

「……いらないでしょ、血とか」

そう呟くと、イーストンは剣を男の障壁の上へ放り投げて、ハルカたちの後を追いかけた。