軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

蚊帳の外

遠くから時折大きな音がする。

魔法の着弾音か、あるいは門が破られた音か。

門のない場所に待機しているせいか、逃げ出してくる人を見ることはなかった。

様子を見に行っても参加できるわけではないけれど、状況がどうなっているかは気になる。ハルカは戦いの場であろう北門方向をぼんやり見つめていた。

横に一緒になってナギが並び、キリッとした顔をして同じ方向を見ている。ハルカもはたから見ると凛々しい表情をしているので、絵にはなっているのだが、内心を考えるとそれ程かっこいいものではない。

「気になるなら行けばいいのにな」

「あんたと違ってハルカは繊細なの」

だらっと足を伸ばして寛いでいるアルベルトが呟くと、コリンが突っ込みを入れる。

「繊細というか、背負いすぎだよね」

イーストンが続ける。

「あれって人が死なないかとか、女王様が大丈夫かとか、街の人が犠牲にならないかとか、そんなこと考えてるんだろうね。気持ちはわかるけど、ハルカさんが気にすることではないかな」

「イースさんもそういうタイプじゃないです?」

「……僕はほら、割り切ってこうして座っているじゃない」

「気持ちが分かる時点で似たようなもんだけどな」

アルベルトに言われて、珍しくイーストンが黙り込んだ。この二人はどちらかと言えば心配性で色んなことに思い悩むが、残りの三人は思いきりがいい。ちなみにうとうとしているカーミラも深くものを考えずに動くタイプだ。

カーミラの抱き枕のようにされているユーリも、実は身内以外にはドライなタイプだったりする。

ハルカ以外は基本的に城の方を注視していたが、今のところ飛竜が出てくるのは見えなかった。そうなるとナギが出動していく必要もない。

そうしているうちにやがて人が叫ぶ声や指示を飛ばす声が近づいてきて、街に女王側の兵士がなだれ込んできたことが分かった。ぶつかってしまえばあっけないものだ。

公爵側が脆かったわけではなく、圧倒的な戦力差を築き上げたエリザヴェータが巧みであっただけだ。だがきっと後世には公爵は暗愚として名前を残すことになるだろう。

ハルカが息を吐いて振り返ると、縦に積み上げられた七体の中型飛竜と目が合う。ナギが怖いのか静かに障壁の中でうずくまっている姿は、憐れみを誘うものがあった。

気を失った男はまだ目を覚まさない。障壁の中で休んでいるが、うなされているのか時折小さく唸っていた。気を失う前の出来事が衝撃的だったので仕方がない。

「お、行った方がいいか?」

立ち上がったアルベルトの視界の先には、十体以上の中型飛竜が城から飛び出す姿が映っていた。

「行きましょう! ええっと、先に行くのでナギと一緒に来てください」

「な、な、なに、なにかしら?」

ハルカが珍しく大きな声を上げて先に出発したのに、うつらうつらしていたカーミラが慌てて飛び起きる。しかしその時にはハルカはもう空の上だ。中型飛竜たちも急に箱が動き出したせいで驚いて、一瞬じたばたとしたがすぐに大人しくなった。

中型飛竜たちはナギだけを恐れていたわけではない。この不思議な閉じ込める箱を作っている人物であるハルカのこともまた、恐ろしい存在であると認知していた。

ハルカが先行して飛んだしばらく後から、ナギが飛んで追いついてくる。

視界の先で爆発音がして、城から飛び立った飛竜の三体に魔法が直撃して撃ち落とされる。

エリザヴェータが対応できると言っていたのは強がりではないということだろう。飛竜たちの行き先が東の海の方角であるから、これは戦うためではなく逃げ出すための出動なのだろう。

また魔法が空にきらめき今度は四体の飛竜が撃ち落とされる。中型にしては大きな飛竜が大きく身をよじって魔法を避けたせいで、背中から何かが落ちていくのが見えた。

人だったら助からないだろう。

七体の飛竜を犠牲にして、残り六体の飛竜が海へと向かう。陸からの攻撃が難しくなって飛竜たちが速度を緩めたところで、今度は海から一斉に魔法が放たれた。

海にはバルバロ侯爵の船が連なって浮かんでいる。そこから放たれた魔法は、一撃で中型飛竜を撃墜するほどの威力はなかったが、満遍なく飛竜たちを傷つける。ぐるりと旋回した飛竜のうち二体は海に落ち、残る四体が陸地に戻った。

あのまま飛んでもやがて海に落ちてしまうという判断だろう。

きっと生き残った飛竜のどれかに、あの公爵が乗っているのだ。

ハルカは空に停止すると、追いかけてくるナギを待つ。

あっけないものだ。結果が出てしまえば、公爵側の惨敗である。

実際に会って話した限り、ハルカから見て公爵はそれなりの人物に見えた。もちろん好人物ではなかったが、愚かではないようだったし、度胸もあるように見えた。

その公爵が、こうしてあっさりと負けることが信じられない。

何かあるのではないかと思いつつも、ハルカはナギが追い付いたところで反転する。

「戻りましょう。私たちの出る幕はないようです」

空を飛んでいると、城から 鬨(とき) の声が上がる。

占領しての勝鬨という奴だろうか。

街はいくらか荒れてはいるが、壊滅的な打撃を受けているようには見えない。きっとそう時間をかけずとも経済活動を再開できることだろう。

「ハルカー! このあとどうするのー?」

ナギの上からコリンに尋ねられる。

「リーサの下へ行きましょう! 捕まえた人を届けないといけませんから!」

答えて障壁の箱の方を見ると、男が目を覚まし不安そうな顔で眼下を見つめていた。