軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

失敗報告

二日かけてエリザヴェータの軍と合流することができた。

夕暮れ時を狙っていったので、兵士たちは今回も野営準備をしている。

わざと兵士たちの頭上を飛び越え少し先に降りると、前回と同じ兵士が迎えに出てきてくれた。学習したのか今回は馬に乗っていない。

「えーっと、じゃあ私と……」

ハルカがちらっとカーミラを見ると、難しい顔をしてぶんぶんと首を横に振られた。先ほどのこともあるし、ハルカだけでなく仲間たちも別にいいんじゃないかという空気があった。

イーストンが頷いてくれたのを確認して、ハルカは笑う。

「じゃあ、カーミラは今回留守番にしましょう。誰か一緒に行きますか?」

「じゃ、私行こうかな」

コリンが名乗り出ると、モンタナも黙ってハルカの隣に並ぶ。

歩き出してからハルカがモンタナに声をかける。

「いつもすみません」

「役割分担です」

「そだねー。ハルカがリーダー、私がお金管理、モン君は交渉の補助と索敵、アルは突撃隊長!」

「私リーダーなんですか?」

「あれ、前そんな話しなかったっけ?」

「アルの方が良くないですか?」

「アルはさー、自由にやってるくらいでちょうどいいと思うんだよね。ハルカの方が皆のこと気にしてくれるし」

確かに後ろを振り返って仲間の様子を窺うアルベルトの姿はあまり想像できない。それだったらなんだかんだと一番年上の自分がまとめ役くらいはやったほうがいいのかもしれないとハルカは思う。

大事なことはどうせ話し合って決めるのだ。

というか、それくらいしないとバランスが悪いような気がしてくるので、どうも断りづらいのだった。

「イースさんはー、相談役! 落ち着いてるからね」

「……私もそれが良かったかもしれません」

両サイドの2人が一瞬黙り込んでハルカの顔を見る。

「あ、うん、まあでもハルカはリーダーだから」

「ですですです」

相談役にするには少し頼りない。そんな言葉は誰も言わないけれど、ほんの少しの間が言葉より雄弁にそのことを物語っていた。

久しぶりに聞いたモンタナの適当な相槌も、中々の威力をもってハルカに突き刺さる。この相槌は何も言うことが思いつかなかったときのやつだ。

「まぁ……、いいんですけど」

「違う違う、ちゃんと頼りにしてるってば、ね、モン君」

「です。耳撫でてもいいですよ?」

腕を取るコリンと、手を取って頭に乗せるモンタナ。

明らかにごまかそうとしているのに気づきながらも、ハルカは笑ってそれに甘えることにした。

「なるほどな【 致命的自己(フェイタルアクシデント) 】か……、いつまでうちの国にいるんだ? ああいうのがうろうろしていると先が読みにくくて面倒なんだがな」

頬杖をついたエリザヴェータは珍しくため息交じりで愚痴を吐く。

「リーサでもそうですか」

「当たり前だ。爺から聞いた限り、理詰めでどうにかなる相手じゃない。あの仲間たちは全員くせ者だが、きっとあのエルフが一番話が通じない」

「仲間って、クダンさんのですよね?」

「そうだ。ハルカも一人を除いては会ってるはずだ。……まぁいい。人質が無事なのだからな。むしろこちらの陣営に入りこまれなかっただけましだと考えるべきか。御しきれない戦力などいらん」

「よくマグナス公爵はそんな人を雇いましたね」

「叔父上は冒険者に詳しくない。見下しているからな。大方顔や噂を知らなかったのだろう。お陰で強そうな駒も離脱したようだし、良い方向に転がったと言えるだろうな。ま、成果は十分だ」

「……人質を連れて帰れなかったのは申し訳ありませんでした」

それでも予定通りでないことを、ハルカは改めて謝罪する。結果が上手くいっても仕事としては上手くいったとはいえない。

エリザヴェータはそんなハルカを、呆れたような顔をして指さした。

「いいか、ハルカ、姉弟子として忠告しておくぞ。交渉の場で付け込まれるようなことをわざわざ言うな。私があえてそのことを不問にしようとしているのだから、それに乗ったらいいのだ。今は人払いをしてるからいいものの、そちらから言われてしまっては、知らないふりをしようとした私だって困る。誠実であることは立派だが、それだけでは生きていくのに苦労をするぞ。仲間に迷惑はかけたくないだろう?」

「……仰る通りですね。ありがとうございます」

「それから、もっと肩の力を抜け。人払いをしているということは、今私はリーサとしてハルカと話しているということだ」

「結構抜いてるつもりです。これが通常なのでこれ以上は難しいかと」

「真面目な奴め。それからもう一つ。知らなかったとはいえ危険な特級冒険者がいるような場所に向かわせて悪かったな。誰も欠けずに戻ってきたようで良かった」

本人が言うように、今はリーサとしてハルカに向き合っているということだろう。馴染みのある妹弟子と、共に楽しい時間を過ごすことができるその仲間たちを失うのは、エリザヴェータにとってもマイナスでしかない。

状況を考えれば無事に戻ってきたことを本心から喜んでいるのだろう。

それがハルカにも何となく伝わってきて、表情が僅かにほころぶ。

「ユエルさんが手加減をしてくれたからです」

「そうだな。……私の部下が向かっていたらと思うとぞっとする」

「いや、それは……」

反射的に否定しようとして、ハルカは言葉に詰まった。

わからない。交渉が上手くいかず、それでも無理に人質を助けようとしたら。そこで争うことになっていたら。ユエルは手心を加えることはなかっただろう。

「そういう意味でも助かった。だからあまり気に病むな」

優しく笑いかけるエリザヴェータは確かに今、女王ではなくハルカの姉弟子としてその場にいた。ハルカもゆっくりと息を吐いてから肩の力を抜いて笑う。

「そうですね、お役に立てたなら良かったです」