軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

横入り

野営をするつもりで準備を進めていたハルカだったが、仲間たちは意外と早く帰ってきた。時間にしてほんの一時間。本当に行って帰ってくらいの時間だ。

「なんかねー、〈ディグランド〉に行ってた兵士さんが門番してて、話聞けたんだよね。辺境伯、今はちゃんとフォルスに戻ってるって。ちょっと前になんか連絡が来て、まっすぐ戻ったらしいよ」

「……連絡をするまでもなく、周辺の動きを察したのかもしれないね。間にいくつか領地を挟んでいるとはいえ、同じ王国東部の勢力なわけだし。……できたら、早めにその辺境伯に会いたいのだけれど、すぐ出発してもらうことはできないかな?」

ヴェルネリ辺境伯は効率的に街や領土を発展させることを考える人柄だ。王国東部が荒れることをあらかじめ察知した場合、有利な方について早めに動き出すことが考えられる。

女王側が動いていることと、ハルカたちの持っている情報を伝えさえすれば間違った選択はしないはずだが、得ている情報によっては公爵領と手を組んで、バルバロ侯爵を挟撃することも考えられた。

そうした場合は王国東部の覇権は完全にマグナス公爵側に握られることになる。

バルバロ侯爵と友人関係にあるイーストンとしては、あまり気持ちが休まらないだろう。

「あまり野心があるタイプの人には見えませんでしたから、大丈夫だとは思いますが……。何かあると嫌ですからね」

「ま、他にも急がなきゃならねぇ依頼もあるしな、おーい、ナギ、起きろ起きろ」

一緒に眠っていたユーリとナギが目を覚ますと、ハルカたちも荷物をまとめて、焚火に砂をかける。

「随分慌ただしいこと」

大した荷物も持っていないカーミラは一人傘を差しながら、ぽつりと呟いた。少し不安そうな表情に見えるのは、争いの気配を肌で感じているからかもしれない。

全員がナギの背に乗り込んで一息つきながら先のことを相談する。

「そっか、ヴェルネリ辺境伯って、味方とは限らないのかー。なんかあの人は、敵側にならない気がしてたけど」

一緒に仕事をしていたコリンとしては複雑な思いがあるようだ。ハルカたちだってここに来るまでその可能性を考えたことはなかった。手紙さえ届ければ自動的にエリザヴェータ側につくものだろうと思っていたのだ。

「何か特別事情がなければ、味方側になると思うですけど」

「特別って?」

「大事な人が人質に取られるような、です」

コリンがうーんと顎に指をあてて考えてから、ゆっくり首を左右に振った。

「いなさそうじゃない? なんか、人質にされた奴が悪い、とか言いそうな気がするんだけど」

「そもそも有用な人物は皆手元に置いておきそうですよね。人手が足りていなさそうでしたし」

ハルカが続けると、モンタナも頷いて答える。

「だから、敵に回っている可能性は低いと思うですよ、イースさん」

「……ふぅん、そんな人なんだね」

平静を装っているイーストンだが、それを聞いてようやくその場に腰を下ろした。日中はいつもだらりと座っていることが多いのに、ここまでずっと立ったまま外の景色を見ていたのだ。

「ま、心配すんなよ」

「別に、そういうんじゃないけどね」

アルベルトにまで声をかけられて、イーストンは釈然としない様子で顔をそらした。イーストンは冷たそうな、感情の薄そうな見た目をしておいて、案外情に厚い。

この辺りもハルカとはよく似ていて、この世界の冒険者たちからするとお上品さが拭えない。他のチームと一緒にいると上手くいかなさそうなそれも、ハルカの甘さにすっかり慣れてしまったこのチームにいると、浮くことがないようだった。

夜の空をナギが真っすぐに飛び、日が昇るころにはヴェルネリ辺境伯領の都、フォルスが見えてくる。

フォルスの街の南門には、遠目からでもわかるほどたくさんの人間が並んでいるのが見えた。

朝日を受けてキラキラと光を反射するその集団の多くは、鎧を身に纏い、長い槍を手に持っている。

旗がたなびき、かすかに聞こえる角笛のような音を合図に少しずつ前に動き始めたその集団は、どう見ても出陣していく兵士たちだ。

「おいおい、マジで出発しそうだぞ、どうする!?」

やや焦った声を出すアルベルトと、厳しい視線でそれを見やるイーストン。

「……このままナギと一緒に兵士の前に行くですか」

落ち着いた様子でとんでもない提案をしてきたのはモンタナだった。

そんなことをすれば間違いなく矢の雨が飛んでくるはずだ。あちらは大型飛竜であるナギの上にハルカたちが乗っていることなど知らないのだ。

「障壁を張って着陸して、こちらの姿を見れば話し合う余地はできるでしょうか?」

「敵対してるなら邪魔するですし、そうでないのなら、味方に大型飛竜がいるのは心強いはずです」

「その子かわいい顔して、いつも一番怖いことするわね」

くるっとモンタナがカーミラを見ると、カーミラはすっと目をそらす。最初に不意打ちをされたことを思い出したのかもしれない。

ハルカはぐるっと空を回るナギに向かって大きな声で話しかける。

「あそこにいっぱい人がいるでしょう。その前に降りてください! 攻撃されてもちゃんと守りますから、やり返さないでくださいね!」

ナギはハルカの言葉を聞くと、スピードを上げて目的の場所へ急降下していく。

すぐにそれに気がついた兵士たちは、動揺しながらも、角笛の合図に任せて弓や槍を構えた。

珍しく低く長い咆哮をあげながら数本の木をなぎ倒して着地したナギに、短槍と矢の雨が降る。

それらのすべてが、見えない壁に阻まれ、ナギに刺さる前に地面に落ちた。

それとほぼ同時に雄叫びと共に一人の人物が飛び出し、長い得物を振り回す。障壁が割れて、ナギに襲い掛かるそのひと振りを、飛び出したアルベルトが大剣をぶつけて止めた。

得物をぶつけ合わせた二人が、一瞬の鍔迫り合いの後に互いに弾けるように距離を取る。

「……あ? なんだ、アルベルトじゃねぇか! おぉい、旦那!! いつかの冒険者たちだぞ!!!」

ヴェルネリ辺境伯の下で働いていた槍使いのウー・フェイだ。相変わらず声がでかい上に雇い主の辺境伯に対しても遠慮のない言葉遣いをしている。

兵士の道が開き、馬に乗った顔色の悪い男性がゆっくりと現れて、言葉を発する前にまずため息をついた。

「はぁ……。指揮官の居場所を安易にばらすな。久しぶりだな、冒険者たちよ。今日は仕官に来たのか、それとも私の寝不足を解消しに? どちらであれ歓迎するが、まさか、私の行く手を阻むために現れたのではあるまいな」

クマのできた目元はあまり人相がいいとはいえず、それに見つめられるとあまり居心地は良くない。ど突き合いが強いわけでもないのに、妙に威圧感のある人物である。ハルカはごくりと唾をのんでから背筋を伸ばして声を張った。

「女王陛下より手紙を預かって参りました。受け取っていただけますか?」

「……なるほど、大型飛竜を駆る冒険者を使者に立てるか。私のような凡人には思いつかない策だな。話は行軍しながらでも?」

「はい。……あと、閣下、また随分と無理をされているように見えるのですが」

「…………案外いい時に再会できたかもしれんな」

「そうそう、その睡眠不足なんとかしてもらった方がいいぜ、旦那」

側近らしき人物にいくつか指示を出したヴェルネリ辺境伯は、ウーと一緒にハルカたちの方へ歩いてきて、ナギを見上げて尋ねる。

「……これは、乗れるのか?」

「ええ、ナギといいます。いつも背に乗せてもらってますよ」

「乗せてもらっても?」

「怖くないですか?」

そう尋ねてから随分と失礼なことを聞いたと思ったハルカだったが、ヴェルネリ辺境伯はムスッとした顔をしたまま答える。

「怖がってどうなるものでもあるまい。それよりも、大型飛竜というのがどういったものなのか興味がある」

「えーっと……、なら、是非、はい、上へどうぞ」

驚くでも怖がるでも喜ぶでもない、ヴェルネリ辺境伯らしい淡白で無駄のない反応に、ハルカは拍子抜けしながら障壁で階段を作ってやるのであった。