軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

忍び込む

「なぁ、イースって指名手配されてんだろ? 街入ったらバレるんじゃねぇの?」

「……そういえばそうだったね」

「逃げた吸血鬼ってこの街にいるんでしょ? ハルカも顔割れてるじゃない?」

「……そうなりますね」

「忍び込むしかないです」

こうなると街の入り口から堂々と入ることはできない。地図で示された店と近い場所から壁を越えて、そこに匿ってもらうことになるだろう。

「できるだけ遠くで降りて歩いて向かいましょう。夜の間に障壁で階段を作って壁を乗り越えたいところですが、見張りが吸血鬼とかだと困りますね」

夜の闇の中でこそ真価を発揮する吸血鬼だ。街を支配しており、それなりの数がいるとするのならば、警備に幾人か回っていてもおかしくない。

ハルカの疑問にイーストンはゆっくりと首を振って答える。

「いや、それはないかな。吸血鬼の多くはプライドが高いし、他のものが自分のために働くことを当然と思ってる。警備に出ていることは考えにくいよ」

「ふーん、じゃあ入るのは簡単だね。街に入るときはハルカもイースさんもフードで顔を隠す。街の調査する時も留守番かなー」

「え」

「しょうがないじゃん、顔バレてるかもしれないんだから」

「それはそうですが……。モンタナ、よろしくお願いしますね。地図のおさらいをしておきましょう」

ハルカがモンタナの前に地図を広げると、横からコリンが首を突っ込んでハルカの顔を覗き込む。

「ハルカ? 私も街の地図くらい読めるようになったんだけど?」

「そうなんですが……、それは地図と道を見比べながらでしょう?」

「うん」

「街に探りを入れるときに、地図と睨めっこしながらだと見落としも増えます」

「……まぁ、そうだけどー」

「適材適所ですよ。むくれないでください」

ぽんぽんと軽く頭を撫でられると、コリンは静かになってそのまま一緒に地図を眺める。

一方、そもそも地図の確認は自分の仕事ではないと割り切っているアルベルトは、知らん顔で素振りを続けていた。

山の中で一泊して、翌日の昼頃、ナギに声をかけて森の切れ目に降りる。

緑の多い湖のほとりは、ナギが数日過ごすのに十分な環境であるように思えた。

「いいですか、ナギ。私たちは今から街に向かいます。ナギはここでお留守番していてください。五日以内に戻ります。できますか?」

「がう」

「ご飯は自分でとって食べるんですよ。五日っていうのは、太陽があの位置に来るのを五回繰り返した時です。それでも戻ってこなかったら、一度お家に帰って待っててください。おうち、わかりますか? レジーナや師匠がいる場所です」

「ぎゃう」

真面目に聞いて返事をしているが、ハルカはやっぱり心配で何度も説明を繰り返す。同じようなことを何度もしているうちに、すでに準備を終えていたアルベルトが呆れた顔をして声をかけてきた。

「おい、ナギが大丈夫だって返事してんだからもう行くぞ」

「でも、ナギはまだ一歳にもなっていませんし……」

「ああもう。おい、ナギ、大丈夫だな!?」

問いかけにナギが元気に返事をすると、アルベルトはそのままハルカを置いて歩き出す。コリンがそれに続いたところで、ハルカも仕方なく歩き出してから、ぐるっと周囲を見て立ち止まる。

「アル」

「なんだよ、もう行くぞ」

「進む方向はあっちです。それだと北東に向かっています。私たちが向かうのは南です」

「……早く先に行けよ」

立ち止まったアルベルトは仏頂面で腕を組んだ。

険しい森を越えて街道に出ると後は道なりだ。日が暮れる頃に街が見えてくると、ハルカ達は道からそれて街の側面へと回り込む。

街の外にも人がいないわけではないのだが、入り口から遠ざかるほどに人気は無くなっていく。

そうしてゆっくり周囲を回っているうちに、気づけば頭上には月が浮かび、辺りはすっかり暗くなっていた。

ちょうど地図で印がつけられている場所の近くにくると、ハルカは周囲に人がいないことを確認して、街を囲む壁を見上げる。

壁の上には等間隔で火が灯っているが、巡回の兵士はそれほど頻繁に行き来はしていないようだった。

一度兵士が通り過ぎるのを待ってから、ハルカはすぐに壁に沿うように階段を作った。

全員で一斉にあがり、すぐに街の中へ下り階段を作る。急いで降りていくと、ゴミ箱を漁っていた猫が驚いて逃げていったが、幸い人に見られることはなかった。

先頭をモンタナが歩き、ハルカとイーストンは深くフードを被って一番後ろをついていく。ハルカに抱き抱えられているだけのユーリも、潜入している緊張感からかキョロキョロしたりせず静かにしていた。

路地を進んで街の中心部に寄っていくにつれて、辺りが賑やかになってきて、たまにふと、酒やタバコの香りが漂ってくる。

モンタナが古びた看板を下げた店のドアをくぐると、カウンターの中にいた大男が、じろりと探るような視線を向けてくる。

「ガキの来る店じゃねぇぞ」

ポツリポツリとしか客がいないのに、大した接客態度だ。モンタナは動じずに大男を見上げた。

「豆のミルク煮はあるです?」

「……そんなものは置いてないね」

ピクリと反応した店主がすげなく返すと、モンタナはさらに続ける。

「じゃ、一番高いお酒でいいです」

「金はあるんだろうな?」

「……お財布忘れたです」

「ちっ、冷やかしか。さっさと帰りな。ああ、そうだ」

ブツクサ言いながらしゃがみ込んだ店主は、名刺のようなものを取り出してモンタナに差し出す。

「豆のミルク煮が食いたいならここにいけ。あんなもん食いたがるやつの気がしれん」

「ありがとです」

それを受け取ったモンタナは素直に外に出て、ハルカに受け取った紙を差し出した。

ハルカはゆっくりと歩きながら示された場所を地図で確認し、モンタナに場所を告げた。

真っ直ぐそちらに向かって歩いていくと、徐々に街の雰囲気が変わってくる。

やけに扇情的な格好をした女性が多く、香水の匂いが強く漂う通りだ。強い匂いにモンタナが顔を顰めながら進んでいくと、やがてその中でも一際立派な建物にたどり着いた。

男性が女性の腰を抱いてそこへ入っていくのを見送って、ハルカたちは顔を見合わせる。

「……ハルカ、地図、合ってる?」

「えーっと……、合っている、はずですが」

たどり着いたそこは、どう見ても娼館だ。

「あんたら、何してんねや。そんなとこ突っ立ってると邪魔やで」

カウンターから身を乗り出した女性が、口から煙を吐きながら、まごつくハルカたちを睨みつけていた。