軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

夜を越すために

元いた場所へ戻ると、ちょうどコリンとイーストンが捕まえていたはずの追手たちを穴の中に放り込んでいるところだった。

驚いて目を丸くするハルカにコリンが慌てて言い訳をする。

「……いや、違うよー、殺してないよー? なんか口の中に毒薬仕込んでたみたいで、みんな自分で死んじゃったの」

何があったのだろうかと驚いただけだったのに、慌てて言い訳をするコリンにハルカは苦笑する。怒っているようにでも見えたのだろうか。

「疑ってませんよ、何があったのかと思っただけで。じゃあ燃やしてしまった方がいいですね」

ハルカは思ったよりも心が乱れていない自分に少し感心しつつ、コリンの頭に一度ぽんと手を置いて答えた。

穴の中を覗き込むと追手たちの仮面が外されており、その痛ましい鼻の削がれた顔が露わになっていた。

夢に見そうなそれと、捕まったら自害をするという選択に、ハルカは追手たちに並々ならぬ組織力や覚悟を感じる。

「証拠になるようなものは何も持っていなかったよ」

「そうですか、ありがとうございます」

イーストンの報告に応えて、ハルカはすぐに魔法で火を放つ。あまり長いこと見つめていたい光景ではなかった。

自分たちの個性を潰し、命を顧みずに任務に臨む姿は、正直なところ少し恐ろしいと思っていた。

子爵夫妻とその子供たちの感動の再会に、ユーリは目を覚ました。騒ぎがあってハルカたちが対応していることに気づき、足を引っ張らないよう静かにしているうち、再び眠りに落ちてしまっていたらしい。

明るい炎の光が見えて、目を擦りながらもハルカのそばまで歩いていき、ふと足を止めた。

燃えているのが何者かの死体であることはすぐにわかったが、怖いとはちっとも思わなかった。

ハルカたちとその仲間の力が、意味もなく自分に対して振るわれることなどないと、根拠もなく思えていた。

顔のない死体が炎の中で体を折り曲げながら姿をなくしていくのを見ながら、ほんの少しその生き様に共感を覚える。

きっと彼らもこの世界に来る前の自分のように、誰かの道具でしかなかったのだろうと同情した。

ユーリは思う。

もしも何かしらの理由でハルカたちに置いていかれたとして。たとえば殺されるようなことがあったとして。もう十分に幸せな時間をもらったので、満足してしまいそうだと。

優しい家族に囲まれて暮らすという、夢のような日々。ユーリは幸せであることに慣れていないせいで、それがずっと続くものだと信じられずにいた。

いや、信じた後に失うことが怖くて、時折自分に言い聞かせるように、そう思っていた。

不意にユーリの体が後ろから持ち上げられた。

小さな体はここにいる誰にだって簡単に持ち上げられるが、前に回された手を見れば、それが誰だかはすぐにわかる。

難しいことを考えていると、大抵この小さくて優しい寡黙な獣人が邪魔をしにくる。

ユーリはモンタナが何かしらの魔法を使って心を読んでいるのではないかと疑っているくらいだった。

「モン君……」

「嫌な夢見たですか?」

「みてない」

「そですか」

わかっていそうなのに、モンタナは核心をついた質問をいつもしてこない。

会話に気づいたハルカが振り返る。緊張していた顔が崩れて、気が抜けたように目が三日月型に細められた。

「起こしちゃいましたか。眠たくなるまで、あっちで一緒にお話でもしましょう」

ハルカはユーリから死体を隠すように体をずらして、モンタナに移動するように促す。

ユーリは死体が怖いなんて思っていない。でもハルカのそんな気遣いと甘やかしが嬉しかったから、そのことは口に出さずに、モンタナに運ばれるがまま素直に焚き火まで戻るのだった。

できればこんな幸せがずっと続いたらいい。無くなっても仕方ないと思いつつも、ユーリはへにゃりと表情を緩めて、へへっと笑った。

いつの間にか起き出していたユーリを死体から離すことができて、ハルカはふーっと息を吐いた。モンタナが脱力したユーリを持ち上げている姿はとても可愛らしかったが、まだ小さいユーリに、こんな恐ろしい形相の死体を見せたくはなかった。

怖がっている様子もなかったので、うまくいったのだろうと思いつつ、ハルカは火葬に専念する。

さほど時間をかけずにそれを終えると、周囲に盛られていた土を、障壁を動かして穴に落としていく。

拠点の周囲を整えるときに、あれこれと試していたので、これくらいの土いじりはお手のものだ。人生何が功を奏すかわからないものである。

焚き火の周りに戻ってモンタナのそばに腰を下ろすと、並んで座っていたユーリが立ち上がって寄ってきたので、膝の上へ乗せてやった。

子爵夫人とその子供たちは、疲れてしまったのか、その場でまた休むことにしたようだ。三人で寄り添って地面に寝転がっているのが見えた。

身分を考えれば天幕なり、敷物なりを用意してあげたいところだが、生憎のところ持ち合わせがない。

ウォルトだけがハルカより先に焚き火の向かい側に座って、話をしようと待っていたようだった。

ハルカが腰を下ろすのと同時に、隣まで寄ってきたコリンが耳打ちをしてくる。

「えーっと、子爵のイングラムさん、だよね? 襲われてたのこの人たちだったの?」

「はい、そのようです。心当たりがないので、ネアクアまで行って女王へ直接話を持っていきたいと、護衛を依頼されています。奥さんはデルマン侯爵のお子さんらしいですよ」

「偶然ってあるんだねー、うん、お金持ちっぽいし受けようねー」

案の定コリンは乗り気のようだった。お金を持っていそうだからなのか、それとも知り合いのピンチに力を貸そうという気持ちからなのか。控えめに考えても前者の説が有力そうである。

コリンは姿勢を正して、かしこまった口調で告げる。

「お久しぶりです、イングラム閣下。護衛の依頼、お受けできます。緊急なので依頼書は王都についてから作成し完遂の報告をしていただければ構いません」

「ありがたい。私としても一刻も早く何が起こったのか確認したい。それにまた襲われないとも限らないから、情けない話だが王城で家族の保護も頼みたいと思っているんだ」

「はい、心中お察しいたします。王都まであと数日あればお送りできますから、安心してください!」

「数日?」

「はい。ほら、あそこにいるナギで送っていきますから」

コリンが示した方を見て、ウォルトは「うわっ」と声を上げてから、慌てて平静を装った。表情はやや引き攣っている。

「気が付かなかった……。巨大な岩だとばかり思っていた」

子供たちの無事を確認するのに手一杯だったのかもしれない。自分が注目されていることに気がついたナギが『動いていいのかな?』とでもいうように、そろーっと首をもたげた。

「で、でかいな」

「大人しいしいい子なので安心してください」

「はは……、そうであることを願うよ」

言葉の保証だけではまだ不安が残っていそうだが、それも当然のことだろう。

むしろ無理やり笑みを作ってハルカに応えたその姿勢は、評価に値するべきものであったと言えるだろう。