軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

たらいまわし

ハルカからの説明を黙って聞いていたイーサンは話が終わった後もしばらく腕を組んで黙り込んでいた。

ラルフのように驚いたり焦ったりしないところは流石だが、相談した方からすると逆にちゃんと聞いていたのか心配になるような反応だった。

「リザードマンの方は、そっちでいいようにしてくれ。特にこちらでできることもないからな。偵察の兵士に関しては……、国の問題だな。街に一度戻って、冒険者ギルドのギルド長に会って指示を仰いでくれ。どうせ本部でぐーたらしているはずだ」

「ぐーたらってなんだよ? 普通偉いと忙しくないか?」

アルベルトが素直に疑問を口にすると、イーサンはすでに視線を本に戻して、元のページを開いていた。

「やる気のない人なんだ。……今回の依頼料は常識的な範囲内で自由に決めてくれ。どうせそっから先は国からの依頼になるから、金額がさらに跳ね上がるはずだ」

「えー、でもわざわざ他の街まで来たんですよ?」

イーサンはコリンの抗議に顔も上げずに答える。

「〈オランズ〉支部からあまりむしり取らないように。この先の面倒ごとがあっても手を貸せなくなるぞ」

「はぁい」

唇を尖らせたコリンが渋々同意すると、遺跡内には沈黙が広がる。これだけで終わりなのかと拍子抜けしたハルカは、躊躇いながらもイーサンに尋ねた。

「……あの、支部長は一緒に来てくれないんですか?」

「……あぁ、そうか」

イーサンは懐からメモ帳を取り出すと何かを殴り書きして破き、重ねた本の山の頂上にそっと置いた。

「それを受付に見せれば案内してくれるはずだ。用事はもうないな? なければ俺は読書に戻る」

「…………あの、いつまで〈オランズ〉に戻らないんです?」

「読み終わるまで、と言いたいところだが、もう二週間もしたら一度戻る」

「一度?」

「……とにかく戻る。ほら、さっさと行け。あちこち触るとやかましい小人族に怒られるから、触らないように」

本を読んでいるせいで口を滑らせたのか、イーサンは一瞬顔を顰めたが、すぐにそれを誤魔化すようにハルカ達を追い出しにかかった。

ちょうどその時、入口の方から声がかかる。

「おい、話は終わったか? 入るぞ、入るからな、ダメならダメって言えよな?」

大きな声がだんだんと近づいてくると、イーサンがポツリと呟く。

「ほらきたぞ、やかましいのが」

「ダメじゃないなら誰かいいよって言えよ!」

「ヨン、突っかかるな」

姿を現したヨンが妙な言いがかりをつけると、それを宥めるようにジーグムンドが頭を押さえ付ける。

ヨンはそれを思い切り振り払おうとするが、ジーグムンドの腕はびくともしない。

「俺の頭はお前の手を置く場所じゃない!」

「そんなことはわかっている。ピリピリしていないで客人を外まで案内してくれ。俺は奥の瓦礫を除けてくる」

ジーグムンドが広い遺跡を小さな灯り一つだけ持って奥へ進んでいくと、ヨンが鼻を鳴らしてからハルカ達を手招きした。

「ほら、用が終わったんなら外に出るぞ。あ、あちこち触るなよ?」

「何度も言わなくてもわかったっての」

アルベルトのぼやきにヨンがキッと目つきを鋭くして振り向いたが、本当に遺跡に興味がなさそうなアルベルトは、ぼんやりと壁にかけられた照明を眺めていて気づかなかった。

ヨンは先頭を歩きながら小さな声で、まったく、とかこれだから、などと呟いていたが、遺跡から外に出る頃にはその怒りも収まったようであった。

瞬間的に腹を立てるが、それが継続するタイプでもないらしい。太陽の下に出るとケロッとした顔で、出発準備をするハルカ達に話しかけてくる。

「あ、それとお前ら結構強そうだから言っとくけど、もしどっかで遺跡っぽいの見つけたら、自分達でいじくりまわさないで俺たちを呼べよな! 調査する権利譲ってくれれば、後でちゃんとその分の金は払うから」

「どれくらい?」

コリンがすぐさま問い返すと、ヨンは慣れた様子で答える。

「規模による。でも遺跡関係の話で金銭誤魔化したりはしないから、そこは信用してくれよ。お前らにとっては子供みたいに見えるかもしれないけど、俺だって二級冒険者だぜ」

「ふーん……、みんなで話し合って決めるけど、覚えておくわ」

「よし、そんくらいだな。クエンティンのやつはウルセェから薪集めに行かせといた。今のうちにさっさと帰りな」

姿が見えないと思ったら、気を使ってくれていたらしい。何かひどく悪いことをされたわけではないが、やや面倒だと思っていたので助かった。

ナギの方へ歩いていくと、ヒエロとジョゼが何か暗い表情で話をしている。すっかり慣れたのかナギの顔の前に座りこみ、怖がるどころか、むしろ話しかけているようにも見える。ナギの「ぎゃう」という相槌の声も聞こえてきた。

「えーっと、街に戻りますよ」

少し離れたところから声をかけると、二人は慌てて立ち上がり、ハルカ達の方へ駆け寄ってきた。

「……ナギと仲良くなったんですか?」

「え、ああ、なんか二人で話してたら、間に首伸ばしてきてな」

「そうそう、びっくりしたんだけど、話聞いてくれてるみたいに声を出すから、ついつい」

ナギにはいい退屈凌ぎになったのかもしれない。ハルカが「構ってもらえてよかったですね」と声をかけると、ナギはやっぱり「ぎゃう」とちゃんと返事をするのだった。

街へ戻りギルド本部の受付に、イーサンのメモを手渡す。仲良くなったらしいので、ヒエロとジョゼにはナギと一緒に外で待っていてもらう。

ナギが目立つので、そんな中二人を攫いにくるようなものもいないだろうという考えだ。

だらけた態度で菓子を貪っていた受付嬢は、メモを受け取ると、めんどくさそうな顔をして「どうぞー」と建物の中を案内してくれた。

長い廊下を歩きたどり着いた豪勢な扉を、受付嬢は拳で何度も叩きながら部屋の中に声をかける。あまりに乱暴なやり方に、見ているハルカの方がヒヤヒヤしてしまった。

「ギルド長、シルキー様、お客さんです。イーサン支部長の紹介です、いいですか、あけますからね」

返事を待たずに開け放たれた扉を、押さえながらその受付嬢はハルカ達を顎で中に入るよう促す。文化の違いなのかと思ったが、アルベルトとイーストンが若干引いているので、恐らくこの受付嬢が異常なだけであるとわかり、ハルカは少しホッとした。

「中へどうぞ。それじゃあ私はこれで」

彼女が手を離すと、扉がゆっくりと閉まっていく。

扉が音を立てて閉まってから、ハルカがようやく部屋の中に目を向けると、そこにはまた妙な光景が広がっていた。

広いソファに腰掛ける、黒いドレスを身に纏った美しい女性と、その太ももを枕にして寝転がる獣人の少女がいた。

「あら、いらっしゃい」

黒いドレスの女性は、少女の耳を愛おし気に撫でながら、ハルカ達に蠱惑的な笑みを向けた。