軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

飛竜便屋さん

恐慌状態に陥りそうな中型飛竜達を見ながら、ハルカはおそらく目的を達することができないだろうと予測していた。

元々ナギと一緒に泊まれる場所があればと思って訪ねてきたのだ。姿を見ただけでこれだけ怖がられているのだ。場所を借りたりしたら、ストレスでどうなってしまうかわからない。

何かを期待しているナギには申し訳ないが、やはり泊まるのは街の外になりそうだ。

「ここに泊めてもらうのは無理そうですね」

「トーチはナギがいても気にしないのにな」

「小さい頃から知ってるからでしょ。じゃ、諦めて冒険者ギルド行く?」

「です。お友達はまた他で作るですよ」

「じゃあナギ、ちょっと戻ってギルドへ行きましょう、あっちですよ」

声をかけて進行方向を指差すと、ナギはちょっと項垂れてのそりと方向転換した。それを見るとかわいそうで、遊び相手を探してやりたくもなるが、相手が怖がっているのだから仕方がない。

いつの日か、大竜峰に連れていって、真竜にでも遊んでもらうのがいいのかもしれない。

ハルカが振り返って大竜峰を見ていると、建物から初老の男性が出てきた。背が低く頭のてっぺんが光るその男性は、ハット帽を持った手を大きく振って声を上げる。

「おぉぉい! ちょっと待ってくれ、そのこは大型飛竜だろう? おーい、ちょっと、ちょっと待ってくれ!」

声が聞こえてもう一度反転したナギが、走ってきたその男性に顔を寄せる。自分に近づいてくる人間が珍しいので興味が湧いたのだろう。

怖がらせてしまうのではないかと、ハルカは少しヒヤリとしたが、男性は逃げ出したりせずにその場で止まった。

「おお、賢そうな顔をしてる! この竜の主人と話がしたいんだ! 私はスコット=ドラグナム。良ければ空いている牧場へ案内するがどうだろうか?」

「話なら伺いますが、そちらの竜達の迷惑にはなりませんか?」

「大丈夫だ、うちの子達はみんな移動させた!」

「わかりました。お邪魔しますので先導をお願いします」

「そうこなくちゃなぁ!」

パチンと指を鳴らした男性は、飛び跳ねるようにして振り返り、片腕を大きく振ってナギを先導する。五十代くらいの見た目の割に、動きが若々しく、少し落ち着きがないくらいだ。

「……ドラグナムって、飛竜便の商会長の家名ね」

「そんなに偉い人がなんの用事でしょうね?」

中型飛竜が怯えて言うことを聞かなくなってしまったから、賠償金を払えとか言われはしないだろうかと、ハルカはやや不安顔だ。

偉い偉くないで言うのなら、特級冒険者だって十分に雲の上の存在なのだけれど。

そう思いながらも、コリンは勝手に悪い想像をして眉尻を下げているハルカの顔を横目で観察していた。どうせすぐに解ける誤解だし、言ったところでハルカがその自覚を持つとは思えなかった。

「改めてご挨拶を。私はスコット=ドラグナム。ドラグナム商会、いや飛竜便屋と言った方がわかりやすいですかな。そこの責任者を務めております。どうぞお見知り置きを」

被っていた帽子をまた手に持って、頭に光を反射させながら、スコットは丁寧に頭を下げた。

「ご丁寧にありがとうございます。〈オランズ〉の冒険者をしております」

「ハルカ」

「……特級冒険者のハルカ=ヤマギシです」

途中でコリンに腕をつつかれて名を呼ばれ、ハルカは自己紹介を訂正する。

「やはりそうでしたか」

「やはりです?」

言葉に素早く対応したのはモンタナだった。あらかじめ自分達のことを知って声をかけてきたのだとしたら、警戒が必要だと思ったのだ。

「あぁ、いえいえ、別に何を企んでいるわけではなく。飛竜便として各街に飛ぶもの達に、それぞれ情報収集をさせているんですよ。ダークエルフと大型飛竜となれば、特級冒険者のハルカさんだろうと当たりをつけていたわけです。皆さんの名前も知っていますよ。……数名わからない方もいらっしゃいますが」

最後にイーストンとヒエロ・ジョゼを見てスコットは帽子を被り直した。不正な手段で得た情報ではないとわかり、モンタナもそれ以上の追及を避け、腕を登っていくトーチに目を落とす。

「さて、皆さんどうぞ腰を下ろしてください。お話というのは、そちらの大型飛竜のことなんです」

青空の下に用意されたテーブルセットに腰を下ろし、スコットはハルカ達にも着席をすすめる。汚れた様子もないので、きっとわざわざこのためにどこからか出してきたものなのだろう。

「ナギのことで何か?」

少し緊張した面持ちと硬い口調でハルカが答える。

「ご存知の通り、我が商会は先々代から飛竜便なるものをやらさせていただいております。これが大変好評でして、各地に支部を広げているのですが……」

そこまで話してスコットはナギに目を向けて、ほーっと感心したように長い息を吐く。

「そろそろ新しい商売を始めたいと思っておりまして。つまりですね、情報だけでなく荷物や人を最速で届ける飛竜便を展開したいのですよ。中型飛竜では乗れて二人まで。荷物は紙の束と、乗務員の旅支度で精一杯です」

立ち上がったスコットはゆっくりと歩き出し、ナギの前に着くと両手を上げる。

「しかし大型飛竜ならどうです!? 旅の安全、時間の短縮、街同士の交流が今より活発に行われるようになります! 夢が広がるとは思いませんか?」

手を上げたスコットに、撫でてくれるのかとナギが顔を寄せる。スコットは穏やかに微笑んで手を伸ばそうとしてから、振り返りハルカに尋ねる。

「撫でても?」

「ええ、どうぞ」

スコットはゆっくりとナギの鼻先を撫でながら話す。

「おお、賢くて凛々しい。うちの中型飛竜達もいい子だが、この子はこんなに大きいのに優しい顔をしているなぁ」

わかる人にはわかるのだ。

ハルカはスコットの言葉に、満足そうに大きく頷いた。