軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

確認作業

大竜峰の麓にある都市だから、街の中にも竜を連れて歩いている人がいるのではないかとハルカは期待していた。

しかし実際にプレイヌの大通りを歩いてみると、大型飛竜はおろか、中型飛竜を連れている者の姿もない。空を中型飛竜が飛び交っているのが見えるが、どれも決まった場所から離陸し、決まった場所へと降りていく。

きっとそこが飛竜便の本部ということになるのだろう。

当然ナギとともに歩くハルカ達は注目されはするものの、誰一人として近づいてくるものはいない。ナギは人が寄ってこない方が快適そうだが、これでは宿の期待もできなさそうだ。

イーサンがハルカ達がいることに気がついて接触をしにきてくれるような人物なら目立つことも一つの手だが、そんな期待はできないだろう。仕事をさぼって遺跡に籠るような人物が、噂を聞いてわざわざ会いに来るはずがない。

「とりあえず、ヘボンさんの家を訪ねて、飛竜便の本部にナギと一緒に泊まれるような場所がないか聞いてみましょう」

「それから冒険者ギルドに行って、遺跡のことと支部長の所在確認かなー」

「あたしたち、なんで同行させられてんの?」

今日の予定を確認していると、ジョゼから至極当然の質問を投げかけられる。今まで尋ねなかったのが偉いくらいだ。

「いいから冒険者ギルドに行くくらいまでは付き合いなさいよ。どうせ行くんでしょ?」

「ま、いいか。俺たちも初めて来る街だしな」

ヒエロは街並みを眺めながらのんびりと答える。近くにいるナギのことも、お金を巻き上げられたことも、殴られて気絶したことも、もはやあまり気にしていなさそうな雰囲気だった。ふざけた男だが、これで案外器は大きいのかもしれない。

ヘボンの宿を目指して大通りから一本逸れると道がやや狭くなる。ナギがいても、何とかすれ違うことくらいはできるが、大概の人が通り過ぎるまで壁に張り付いて息を殺しており、なんだかハルカは段々申し訳ない気分になってきた。

早く目的地を確認して大通りに戻ろうと考えながら、もう一本道を折れたところで、ざりざりと音がしてナギが動きを止めた。見ると翼が両側の屋根のひさしに引っかかっている。

「……俺、大通りでナギと待ってるわ。ナギ、ユーリ、行くぞ」

「すみません、お願いします」

くるりと踵を返したアルベルト。ナギはのしのしと慎重に後ろ向き歩きをしてから、少し広い道まで戻って向きを変える。

「その辺ぶらぶらするかもしれねぇけど、ナギの行った方聞けばすぐ見つけられるだろ。早く戻ってこいよ」

そう言ってアルベルトが数歩先に進んだところで、ナギの上にいたユーリが声をあげる。

「アル、道違うよ」

「……俺もナギに乗るか」

「うん、そうして」

ゆっくりと離れていくアルたちの後姿を眺めながらモンタナが呟く。

「ユーリの方がちゃんとしてるです」

「……迷子の心配はなさそうだよね」

同意しないまでも、イーストンもまた同じことを思っているようだった。

ヘボンの実家は、確かにあまり高級な宿ではなさそうだった。ただ客入りが悪いということもなく、それなりに冒険者が出入りしている大きな宿だった。安宿と言うのは少し謙遜のしすぎだ。

宿の前を箒で掃く老婆がいたので、従業員だろうと当たりを付けたコリンが声をかける。

「すいませーん、ヘボンさんってここの宿の人ですよね?」

その老婆は掃除をする手を止めて、顔を顰めてコリンの方を見る。変なものを見るような無遠慮な視線だった。

「えっとー、門の外で別れたんですけど、もう帰ってきてますか?」

「……そらまぁ、ヘボンならあたしのことだけど」

「ああ、じゃなくって、息子さんなのかな?」

にこやかに声をかけているコリンに対して、老婆は不機嫌そうに掃除を再開しながら答える。

「息子なら……、十年前に〈オランズ〉に行ったきり帰ってきてないよ。きっともう生きちゃいないさ」

ハルカ達がやっぱりと顔を見合わせる中、ヒエロが何の気なしに呟く。

「へぇ、あの人そんなに長いこと帰ってなかったんだ」

「……なんだって? まるで生きてるみたいな……?」

またも手を止めた老婆は、箒を捨ててヒエロに詰め寄る。

「あんた、カティスのことを知ってるのかい? てっきり賊か魔物にでもやられちまったと思ってたんだ。あの子はどこにいるんだい、この街に帰ってきたって本当かい?」

「いや、だ、だからさっき門のところまでは一緒に来たんだぜ。俺たちが護衛して」

「そ、そう、生きてたのかい……!」

どうも話がすれ違っているように見える。ハルカ達の聞いた話では、ヘボンがこの街を離れていたのはほんの数週間の話だ。何年も行方不明になっていたはずはない。

「あのバカ息子、いったいどれだけ心配させりゃ気がすむんだい。帰ってきたら一発ひっぱたいてやらなきゃいけないね」

「……すみません。カティスさんというのは、僕と同じくらいの体格と背丈をしていますか?」

「おや、かっこいいお兄さんだね。いーや、うちのバカ息子はあたしに似てもっとちんちくりんだよ。一度だって宿の手伝いをしないで、外で働いては酒ばかり飲んでてね。あんたみたいなのと比べちゃ失礼ってなもんだよ」

「ありがとうございます。では、僕たちは他にも用事があるので、また時間があれば立ち寄らせていただきます」

思い浮かべてみても、老婆の語るカティスは、ハルカ達の知っているヘボンとはだいぶ容姿が違うように思えた。完全に偽物であることを確認したコリンは、イーストンの言葉にあわせてその場を後にしようとする。

余計なことを言いそうだったジョゼとヒエロの腕をつかみ、さっさと元来た道を戻り始めた。イーストンとモンタナがそれに続いたが、ハルカだけはその場から足を動かせなかった。

結果的に嘘を教えられた形になる老婆をその場において立ち去るのが、あまりに酷なことのように思えてしまったのだ。

諦めていた息子の帰還に期待し、帰ってこない時間にじれ、徐々に不安を覚える。そしていつかまたやってくる喪失感。多少嫌な思いをしても、ここで本当のことを伝えておくべきなのではないかと、ハルカは悩んでいた。

「どうしたんだい、あんた」

「ハルカ、いこ」

老婆とコリンが声をかけるのは同時だった。

「ちょっとだけ待ってください」

コリンに答えたハルカは、老婆に真っすぐ向き合った。

「息子さんは、帰ってこないかもしれません」

「なんだって?」

「……門の外で別れた後、街とは別の方向へ行くのが見えました。世話になったのでちゃんと礼をしたかったのですが」

「……なんだ、そうかい」

がっくりと肩を落とす老婆に、心がチクチクと痛む。

「……あたしが厳しく色々言いすぎたのがいけなかったのかねぇ」

「すみません、期待をさせてしまったようで」

ハルカが軽く頭を下げると、老婆は箒を片手に持って、空いた手を振った。

「いいさいいさ。勝手にあたしがぬか喜びしただけだからね」

「もしまた出会えたら、あなたが心配していたと伝えておきます」

「怒ってないからさっさと帰ってこいとも言っといておくれ」

「はい、それでは」

噓がばれないようにと、表情を固めたまま早足で仲間たちの下に戻る。

「何してたの?」

「……いえ、息子さんが戻ってくることはないかもしれないと。ちょっと嘘をついてしまいました」

「あー、だからそんな顔してるんだ」

「撫でてもいいですよ」

コリンが顔を覗きこみ、モンタナが勝手にハルカの手を取って自分の頭の上に乗せる。ハルカはため息をついてから、モンタナの頭を撫でながら歩く。サラサラの耳が指に触れるたび、心が少し穏やかになった。

「偽物、何が目的だったんだろうね」

イーストンが独り言のように言うと、コリンがへっぽこ冒険者二人の腕をつかんだまま答える。

「それ、知りたいよね。ってことで、ヒエロさんとジョゼさん、あなた達の素性、教えてもらえるよね?」

最初から逃がすつもりはなかったのだろう。しっかりと確保されていた二人は、コリンの笑顔を見て表情を引きつらせた。