軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

それぞれのお仕事

「別に頭抱えてくれててもいいけどさ、こっちの件の方が重要だと思うんだよね、私」

コリンが背もたれに体を預けながら言うと、ラルフは顔を上げコリンを見る。今の時点で十分自分の処理能力を超えているから、何をどうしたらいいのかわからないが、コリンがそれより重要だというのだから聞かないわけにいかない。

本当は耳を塞いでしまいたかったが、ハルカ達のチームの中で一番世間の利害に聡いのがコリンであることをラルフはよく理解していた。

「聞かせてくれ」

「私達の拠点にマグナス公爵領の兵士が中型飛竜に乗って偵察に来たわ。その兵士は今拠点にいる」

「捕まえたと?」

「捕まえたけど、今はうちで雇うことにしたの。捨て駒らしいから帰る場所がないんだって」

「……内情を探るための方便では?」

「嘘でないという裏が取れてるから雇うことにしたの。偽名で冒険者登録させてもらおうかなって」

「……別に君たちが雇っているのなら、登録する必要ないのでは?」

「身分証がないから不便かと思ったんだけど」

「それもそうか……。先日のアンデッドの件がマグナス公爵による仕業だという証拠、になるのか」

そこまで話されてもラルフにはあまりピンと来ていない。ついこの間まで一冒険者であったラルフは、情報に敏い方であったが、それは飽くまで自分の周囲や仕事に関係することに関するものだ。国家間の関係や王族の事情なんて、地方で働く冒険者が考慮するようなことではない。

コリンの言っていることは分かるのだが、その情報で情勢がどう動くかまで想定しろというのは難しい注文だった。

どちらかと言えばハルカがいつの間にか 破壊者(ルインズ) であるリザードマンの王に収まっていることの方が衝撃が大きい。いったいどんな交渉をしたらそんなことになるのかと考えをめぐらしてから、ラルフは一人で納得した。

初めて出会った時の衝撃を思えば、それくらいのことになったってなにもおかしくない。

「どちらの話も今の俺では手に負えない。申し訳ないけれど、プレイヌに出向いてイーサン支部長に相談をしてくれ。これはギルドからの依頼にする。依頼料は多少吹っ掛けてくれ、支部長がいないのが悪いんだから」

考えたって何も解決しない。世の中には足掻いたってどうにもならないことがあるのをラルフはよく知っていた。そして自分に求められていることもよく理解している。それは人の力を的確に見抜き、誰かに問題を解決してもらうよう努めることだ。

「わかった、プレイヌに行ってイーサン支部長を見つけ、今回のことを報告するって依頼でいい?」

「それでいい。精々支部長を困らせてやってくれ」

ラルフは冒険者らしく皮肉に笑った。今のラルフにできることは、ハルカ達の報告を聞いて忙しくなるイーサンを想像しながら、机に重なった書類を片付けることくらいだ。

街を歩きながらあちこちで必要な物を買って、障壁で作った籠に放り込んでいく。顔を知られているおかげで貰い物が多い。街で雑用係をしている時からの知り合いもたくさんいるので、商店を営む人たちからは評判がいい。

彼らにしても上級冒険者と顔なじみであるという事実は、それだけでお守りのようなものだ。最初は遠慮していたハルカだったが、あちらこちらでそんな説明をされた今では頂き物を断らなくなっていた。

だから代わりに、街で管を巻くようなものがいれば、積極的に介入するように心がけている。この街に来たばかりのことを考えると随分な変わりようだ。

「だぁからよぅ! えらい美人のダークエルフがいるって聞いて、えっちらおちらやってきたってのに、どいつもこいつも居場所を教えやしねぇ。悪いことなんか企んでねぇって言ってんだろ、此畜生!」

雑言まじりの唾を飛ばすような話し方だ。店の陰になって見えないが、内容からハルカを探しているらしいことがわかる。

ハルカ達は顔を見合わせてトラブルを収めるためにそちらへ足先を向けた。

「し、知らない。そんな人この街にはいないぞ。他所をあたってくれ」

「見てわかる噓ばっかつきやがって、そんなに俺ぁトンマにみえるってか、ええおい!? あん人が特級に上がったって聞いて、会いに来ただけだっていってんだろが!」

「し、知らないもんは、知らないんだ」

今にも胸ぐらを掴みそうな顔の寄せ方だ。喚き散らしている男の後姿を確認して、ハルカは声をかける。

「探し人なら、恐らく私のことだと思いますが」

「ああ?」

勢いよく振り返った男は目を大きく見開いてから、威嚇するような顔をして振り返りがなる。

「やっぱいるじゃねぇか、このほら吹き野郎が!」

「シュオさん、やめてください」

「おう、やめるとも。久しぶりだな、変わらず別嬪じゃねぇか、ちょっと待てよおい、昇級したって聞いて飛んできたぜ」

武闘祭で知り合った格闘家の男、シュオ=ランは当時より一回り大きくなった体を小さく縮めてずだ袋を漁り、その場で店開きを始めた。

「耳が早いですね」

「いやいや、たまたま噂を聞いてよ。そんであちこちで話を聞きながら歩いててピンと来たぜ、北方大陸のダークエルフで特級冒険者っていえば、あんたしかいねぇってな」

次々と道を埋めていく荷物。ハルカはシュオの言葉に少し照れて頬をかきながら答える。

「ま、まぁ、積もる話は後にしましょう。折角来てくれたんですから、拠点まで案内しますよ。いいですよね、コリン」

「いいんじゃない? 武闘祭の人でしょ、私も覚えてる」

「ん、お? ああ、ハルカさんと一緒にいた嬢ちゃんか。あんたも相変わらずかわいらしいじゃねぇか、あの生意気そうな小僧とちみっこい獣人も一緒にいるのかよ?」

「うん、シュオさんわかってるじゃん! いるいる、懐かしい顔もいるから是非いこう、一緒に行こうね!」

「それから……、なんだ、子供?」

「あ、ほら、ユーリ」

ハルカが地面に下ろしてやると、しゃがみ込んでいたシュオとユーリの目が合った。

シュオは体が大きく動きも粗雑で口も悪い。普通の子供ならすぐにでも泣き出すところだろうが、ユーリはハルカの方を一度見上げるとすました顔をして頭を下げた。

「ユーリです、よろしくおねがいします」

「ほーぅ」

顔を寄せたシュオに、流石のユーリも一歩引く。

「おうおう、糞度胸だな。このシュオ=ラン様とにらみ合いなんて、そこらの冒険者でもできやしないぜ。さっすがハルカさんとこの子供だ、おめぇも強くなるぜ、おい」

ぐしゃぐしゃとユーリの頭をかき交ぜて、汚れも気にせずにずだ袋に荷物を放り込んだシュオは立ち上がり胸を張った。

「そんじゃあ案内してくれよ、拠点とやらに。酒なら山ほど買ってきてんぜ」

ハルカはユーリの髪を整えてやってから抱き上げて答える。

「はい、それじゃあ行きましょうか。あ、拠点は街の外にあるので案内しますね」

街の外で空を飛んだシュオの叫び声が聞こえたのは、このほんの少し後の話。