軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

迂闊

ハルカが二人の怪我を治している間に、ニルの周りには里の者たちが集まって、里長の復帰を喜んでいる。

それをかき分けていくのも大変そうに見えて、ハルカは少し離れたところから、ニルに声をかけた。

「ニルさんはお怪我ありませんか?」

久々の実戦で思わぬ場所を捻ったり痛めている可能性はある。

「いや大丈夫だ。腰も好調だし、体も温まった。このままガ族の里へ向かうとするか! ほれ、どいたどいた」

リザードマン達に道を空けるように言って、ニルは輪の中から出てくる。その間にアルベルトとレジーナもハルカの傍まで戻ってきていたが、レジーナの立ち位置はいつもよりほんの少し離れている。まだ気持ちの整理がついていないのかもしれない。

「儂はこのままガ族の里へ向かうが、ハルカさん達はどうする? 別に儂が王になってからまた訪ねてきてくれても良いのだが……」

「行くぜ。強いやつの戦い方見るのも大事だからな。レジーナも行くだろ?」

相手を認めて素直になれるのがアルベルトのいいところだろう。話を振られたレジーナは、腕を組んだままむすっとした表情のまま短く「行く」と答えた。

金棒は背中のホルスターに仕舞っているから、戦う気はもうなさそうだ。アルベルトほど素直ではないが、レジーナも強くなろうという気は人一倍ある。ここで拗ねて帰るという選択は取らない。

「私達と出会ったことで起こる争いです。丸投げするわけにはいかないでしょう。……勝てるんですよね?」

「おう、儂が勝つ」

人間との付き合いを慎重に検討する王だ。ただ慎重なだけなら良いけれど、人と争う姿勢なのだとしたら、ハルカ達に危害を加えかねない。

リザードマン達との最前線に拠点を構えたのだから、彼らの全体の方針を把握するのも今回の目的だ。

できれば全てのリザードマンがニル達のように好意的でいてほしいものだが、種族全ての意見が一致することは難しいのではないかとハルカは思っていた。

「では安心してついていくことにします」

「はっはっは、大船に乗ったつもりでいるといい! イル、留守を頼む」

「父上、ご武運を」

「祈られんでも勝ってやるさ。馳走の準備でもしておけ」

そう言って豪快に笑うニルの姿は、確かに王の器を持った強者であるように思えた。

太陽がゆっくりと傾き始めてしばらくした頃、ハルカ達はガ族の里に到着していた。ハ族の里と同様に高い壁に囲まれており、見張り台にはリザードマンが立っていた。

遠くからでも見えるニルの姿を確認した見張り役は、目を何度か擦ってから慌てて見張り台を駆け降りて門を開ける。

「ニル殿、よく来られましたな、こ、腰は……?」

「治った! 今日は客人を連れている。ドル=ガのもとへ行くぞ。儂は王になるための決闘を申し込む!」

「な、治った!? 決闘!? わ、わかりましたすぐに準備を……、おい、伝えてこい」

後ろにいたリザードマンに伝言を頼んだその見張りは、ニルの後ろにいるハルカ達を気にしながらニルに尋ねる。

「それで、その、客人というのは……?」

「見てわかるだろう、人の冒険者三人だ。先の話し合いでイルから報告したはずだが?」

「そ、その件については保留しており、まだ交流を持つかどうか決めていないのでは……?」

「ええい、うじうじと。いいから中へ案内せんか。話はお前とでなくドルの奴と直接する」

「い、いくらニル殿とはいえ了承するわけにはいきません。他種族を簡単に門の中に入れるなど……!」

「頭の固い奴め。ガ族は大体そうだから困る。仕方ない、儂らはここで待つことにするぞ。すまんな、ハルカさん」

「いえ、お気になさらず」

これは思ったよりも手強そうだぞというのがハルカの印象だった。

ハ族の里では珍しいものに対する好奇心や恐れのようなものを感じていたが、あまり敵意は感じなかった。

一方でガ族の里の門番から向けられる視線はあまり好意的ではないように思う。どちらかといえば、犯罪者やならず者に向けるような警戒を感じた。

そういう感情に敏感なレジーナは、既に片手に金棒をぶら下げているが、喧嘩を売っていくわけではないのでひとまず対応は保留だ。

実力者であるニルと里の決まりとの間に挟まれた見張り番が、気まずそうに門の外で待機している。中間管理職の悲哀のようなものを感じて、ハルカは心の中で見張り番に同情した。

一時間ほどその場で待っていると、門の内側からガヤガヤと声がし始めて、見張り役がほっと息を吐いた。

大きな門が開き、背の高いリザードマンを先頭に、幾人かの武装したリザードマンが姿を現した。

先頭にいるリザードマンは上背はニルに近いくらいにあるのだが、線は細く、恐竜というよりはちゃんとトカゲっぽさが残っている。

それでも目は細く鋭く、その場にいる全員の姿を素早く見渡して、あからさまなため息をついた。

「ニル様、これはどういう騒ぎですか?」

「伝わっていないのか、ドルよ。王に返り咲くべくお前に決闘を申し込みにきたんだ」

その背の高いリザードマンであり、現王であるドルはこめかみを指先で押さえてまたため息をつき、はっきりと言い切った。

「お断りいたします」

「なんと! 戦士たるものが臆したか!!」

雷のような怒号を上げたニルにリザードマン達の兵士は恐れ身を引いたが、ドルだけは態度を変えずに淡々と応える。

「ニル様は昔から変わりませんね。臆したわけではありません、これは決まりです。王に決闘を申し込めるのは一生に一度と掟で決まっています」

「ど、どこにそんな決まりが……!」

「そう言うと思っていましたから引っ張り出してきましたよ、掟書きを」

傍にいた兵士から巻物を受け取ったドルは、ニルの傍まで歩み寄ってきてそれを手渡す。

「ニル様は王位にいた時から面倒ごとを避けて、細かいことを私に全部投げていたでしょう。だからこんな当たり前のルールも知らないんです。……あと、里を移動するときはせめて先に一報ください。仮にも前王なのですから」

巻物を開いたまま動かなくなってしまったニルを見ながら、ハルカは耳についたカフスを撫でる。面倒なことになりそうな予感がして、口の立つ仲間を連れてくればよかったと後悔し始めていた。