作品タイトル不明
発展していく
「君もここで働いているのかな?」
「働いているとはちょっと違うんですけどねぇ」
「なるほど、遊びに来てるってところか。さっきの子といい、小さな子を見かけると安心するね。ここは結構安全なんだろう」
「いやぁ、小さな子って年でもないんですよねぇ」
「そうなのかい? それは悪かった、はっはっは」
ハルカ達が荷ほどきから戻ってくると、ダスティンとノクトが噛み合わない会話を繰り広げていた。決定的に誤解を解かないあたりをみると、ノクトはこの会話を楽しんでいるように見える。あまり趣味が良くない。
「……ただいま戻りました」
「はいはぁい、ハルカさんおかえりなさい。皆さんもお元気そうでぇ」
実害の出るようなことではないので、仕方なくハルカは成り行きにあわせて師匠と呼ぶのを控えた。振り返ったノクトはにんまりと嬉しそうだ。そのちょっと天然パーマの桃色の髪に、寝癖がついているのを見てアルベルトが尋ねる。
「また夕方まで昼寝してたのかよ」
「いやぁ、ここは日当たりもいいし、川の傍で目を閉じているとすぐに眠れて気持ちいいんですよねぇ。最近では草も生えてきて、虫なんかも飛んできてます。平和でいいですねぇ」
「あんまり寛いでばかりいるとボケるんじゃねぇの……」
「寝る子は育つと言いますからぁ」
「育つような年じゃないです」
ぼそりとモンタナが呟いた突っ込みはダスティンには聞こえていない。
「いやしかし、街の外だというのに人手がたくさんあって、小さな子ものんびりできる。安全そうでほっとしました。これだけ一面を見渡せる平地で川も流れていると、大きな街があってもよさそうなくらいです」
「でしょー、拠点ができたら案外色んな人が移り住んできたりして」
コリンは調子よくそんなことを言っているが、ハルカはそっと目を逸らした。川はつい先日無理やり土を掘り進めて開通したものだったし、その前はゾンビで溢れた場所だったなんてとても言い出せない。あっちの地面の下には数万体のゾンビが埋まっていますよ、なんて言った日にはダスティンが卒倒するのではないかと思えた。
しかしこうして見渡してみると、〈忘れ人の墓場〉は随分と様変わりしている。ノクトの言う通り、あちこちに草花が生えはじめ、虫が行き交い始めたのを見ると、元々は豊かな土地であっただろうことが想像できる。
ぐるりと辺りを見て、ふとハルカは見慣れない小屋ができていることに気がついた。
出かけたときには無かったはずなのだが、なぜか屋根と壁のある小屋ができている。あんなところに何かを建てる計画は無かったはずなので、何か理由があって建てられたはずだ。
「あの、あそこの小屋、何かしまってあるんですか?」
「はい、しまってありますよぉ。夕飯を食べ終えたら見に行きましょうねぇ。ちょっと変わったものが入ってるので、楽しみにしていてください」
「そうなんですか。気になりますね」
楽しそうなノクトの言葉に、何か良いものでも入っているのだろうと予測したハルカは、もう一度だけそちらに目をやって微笑む。もしかしたら何か珍味とかを保存しているのかもしれない。ほんの少し期待しているハルカに対して、仲間たちはノクトの方をジトっと見つめた。
モンタナにいたってはゆるりと首を横に何度か振っている。警戒していないのはハルカだけだ。
コリンがダリアとサラに、こういった設備の整っていない場所での料理法を教えている間、ダスティンは干された動物たちの皮を見ていた。
熱心にあれこれ見ているのでハルカは声をかけてみる。
「気になりますか?」
「ええ、俺は元々革職人ですからね。ちょっと鞣しが甘いですが、立派な熊皮です。敷物にするくらいなら使えますね。何かに使う予定でも?」
「いいえ、特には。多分ナギのご飯を取ってきたときに一応剥がしておいただけだと思いますが」
「なるほど、もったいないですね。薬剤と場所さえ用意してもらえれば、俺が加工しますよ。服でも靴でも、皮で作った財布なんかもヴィスタじゃ売れてましたね」
「へぇ、それはありがたいですね。今まではまとめて売りに行くくらいしかしていなかったので。旅の途中だとかさばる分は捨ててしまったりしてましたし」
その後もダスティンから、皮のなめし方はどう、薬品はこんなものを、丈夫な針と糸を、なんて話を聞いているうちに時間は過ぎていく。この話をし始めてからダスティンは随分と生き生きしていた。きっと元々革職人の仕事が性に合っていたところを、無理に教会に勤めていたんだろうなとハルカは察した。
大都会からこんな辺境へ連れてきてしまったが、案外サラのためだけではなく、ダスティンのためにもなっていたのではないかと思うと、少し肩の力が抜ける。
知らないことを知るのは楽しい。ダスティンの話を黙ってふんふんと聞いているうちに、夕食の準備ができたようで、コリンに呼び出された。
「はーるかー、ご飯できたよー」
「今行きます!」
ハルカが返事をすると、ダスティンはバツの悪そうな表情で頬をかく。
「ちょっと一人で盛り上がりすぎました。面白くない話だったでしょう」
「ああ、いえいえ。知らないことだったのでとても興味深く伺っていました。またそのうちお話を聞かせてください。お食事できたみたいなので行きましょうか」
「……あなたを見ていると冒険者のイメージが変わりますね」
「そうですか? 結構、いや……、割と……うーん、たまに穏やかな冒険者もいますよ」
ハルカは自分で言っていて駄目だこりゃと思ったが、一応最後まで言い切った。ダスティンはハルカの言葉に笑う。
「そうですか、たまにですか。では俺たちは運が良かったということですね」
期待を裏切りたくないところだ。できるだけ妙なことをしないで、信頼を保っていきたいなぁ、とぼんやりハルカは思った。
夕食後、さっそく訳の分からない状況に巻き込まれることを、ハルカはまだ知らない。