軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

心配事がたくさん

宿に泊まっている間は夜の訓練を見せることがなかったのだが、野宿になってからはあまり離れるのも危ないということで、ハルカ達は見える場所で訓練をしていた。

ハルカは特別隠すようなことではないと思っていたのだが、訓練を終えた時のサラたちの顔を見て、まずいことをしたかもなと思った。

サラは真剣な面持ちで、両親は不安そうな表情をしていた。だというのに何か言ってくるわけでもなく、平静を装って普通に床についたのが余計に心配だった。

アルベルトたちが訓練をするぐらいならばともかく、魔法使いである自分が参加したせいで、サラもいずれはこの訓練に参加しなければいけないと思われたのだとハルカは思う。

実際のところそういった懸念もダスティンたちにはあった。しかしそれ以上に、衝撃を受けたのはその訓練内容だった。

怪我を伴う訓練と、すぐに治して再開する異常さを肌で感じて、冒険者という仕事の過酷さについて考えさせられていたのだ。

ダスティン達の知っているヴィスタの街にいる冒険者達は、肉体労働をしながらその日暮らしをしている者達だ。昔革職人をしていたダスティンは、何度か冒険者に依頼を出したことがあったが、その多くが刹那的で、その日稼いだ金をすべて酒にかえてしまうような連中だった。

そんなガタイこそいいが鍛え抜かれたとは程遠い体つきの者たちと、目の前で訓練をしている者たちが同じ冒険者であるとは俄には信じられないくらいだった。

背が高くぶっきらぼうだった青年はともかくとして、歳若く見えた少年も、愛想のいい少女も、線の細い青年も、穏やかだった美女も、それぞれが軽く人を殺しうる動きをしている。

挙句娘と同じ魔法使いであるはずのハルカが、攻撃をくらっても平気な顔で動き続けるのを見て、ダスティンは頭がおかしくなりそうだった。

ダスティン達一家は、一足早く眠る準備に入ったが、とても眠れそうにはなかった。

火の燃える音と、小さな話し声。時折薪の爆ぜる音が聞こえてくる。ダスティンは目を閉じて眠る努力をしたが、やはり一向に眠気が訪れない。

ゴロリと寝転がると、焚き火を囲んで女性が二人話をしているのが見えた。

眠らないのだろうかと不思議に思い、それを尋ねるということを言い訳にダスティンは体を起こした。

動き出した段階で、コリンが気がつき振り返る。それを見たハルカも振り返ってダスティンが起きたことを確認した。

二人とは少し離れてダスティンが腰を下ろし尋ねる。

「まだ寝ないのか……、いや、寝ないんですか?」

どうしても歳が若く見えるので、意識をしていないと雑な口調になってしまう。ダスティンはこれから雇い主になるのだからと口調を改めた。

ハルカはうっすらと微笑んで答える。

「楽な口調でいいですよ、息が詰まりますからね。野宿をするときは見張りが必要なんです。何かが襲ってくるかもしれませんから」

「いや、口調については気をつけるようにします。そんなに頻繁に襲われるんですか?」

「いいえ、しかし襲われてからでは遅いですから」

「眠らないのでは明日に響くでしょう」

「途中でアル達と交代するので大丈夫ですよ」

「では俺もどこかで役を担いましょう」

「お気になさらずに」

「しかし」

真面目なダスティンは食い下がるが、ハルカは首を横に振る。素人が夜の番をしたところで、最初の犠牲になるのがオチだ。近づかれてからでないと気がつかないようでは番をしている意味がない。

ハルカだって気配の察知が得意なわけではないが、以前よりは少しはわかるようになってきている。

それに番をしているときには四方に障壁を張ったままにしているので、気がつかなくてもそこで襲撃は食い止められる。

「皆さんにばかり負担をかけるわけには」

「やる気なのはいいんだけどねー」

コリンは可愛らしく小首を傾げて口を挟んだ。

「でもね、ダスティンさんは襲われるのを事前に察知できないからさ。それじゃ仲間が危険に晒されるからダメなの。ただ起きて火が消えないように見てるだけじゃダメなんですよー。ハルカもさ、ちゃんと伝えないとわからないこともあるよ」

「断るのが申し訳なくて。でもそうですね……、例えばサラさんだったら、これから冒険者になるので一緒に見張りをしてコツを知るのはいいかもしれません。しかしダスティンさんには拠点の管理をお願いする予定ですから」

ハルカは突き放すように聞こえないかと心配していたが、ダスティンが気にしたのはそこではなかった。

「……冒険者というのは、毎日あれほど危険な訓練をするのでしょうか?」

「夜のでしたら、魔法使いはあまりああいう肉弾戦の訓練はしません。えーっと、私が特殊なだけですね」

「そうそう、どっちかっていうと魔法を撃てる回数を増やす訓練をしたりすることが多いんじゃないかな。私たちはあまりわからないけど、拠点とか街に行けば専門家もいるからそっちに教わるといいよ。ノクトさんと……、あとエリさんとかも教えてくれるよね」

「そうですね。学園とはちょっと違うかもしれませんが、訓練する方法は心得ていると思います。なのでそんなに心配しないでください」

「今日みたいな訓練はね、他の冒険者だってしてないんじゃないかな。うちは治癒魔法が使えるハルカがいるから特別!」

心配ばかりしていたダスティンだったが、一から十まで説明をしてもらえてほっとする。特級冒険者というのはもっと恐ろしい存在だと聞いていたけれど、話してみればなんとも常識的で頼りになる。

「ご丁寧にありがとうございます」

「いいえ、休めそうですか?」

「はい、おかげさまで」

ダスティンは丁寧に頭を下げて家族の下に戻る。これまで持っていたイメージを更新し、冒険者達に対する認識を改めなければならないと思っていた。

その認識はこれからまた変わっていくことになるのだが、今日のところは穏やかな気持ちで目を閉じることのできたダスティンであった。