軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

苦労性

「さっきも言いましたけどね、人の家のことに口を出さないでください。娘には神子として生きる道が用意されているんです」

「私は彼女の友人の一人として尋ねています。子供がこんな顔で話を聞いてほしいと言っているのに、あなたたちはそのまま出かけるのですか?」

「後で聞くと言ったはずです」

「少しくらい用事を遅らせてもいいじゃないですか。今聞いてあげてください。彼女があなた達と話をするのに、どれだけの勇気を振り絞ったのかもわかりませんか……?」

サラの父親は忌々しげに表情を歪め、母はため息をついた。

「あのね、別に私達だってサラの話を聞きたくないわけじゃないの。今は忙しいと言っているのよ」

「……サラさんは、あなた達に怒られるようなことはしない子のはずです。そんな子が、今聞いてほしいと言っているんです!」

「……お前に任せる。間に合わなくなってしまうから、とにかく話は後だ。あなた達も変に娘にまとわりつくのはやめてくれ」

そう言ってサラの父は、結局話を聞かないまま踵を返した。

ハルカはその背中によくない言葉を投げかけそうになって、ぐっと飲み込んだ。

「アル、ちょっと、何しに行くの」

「ぶん殴って連れ戻す」

片腕を掴んでいるイーストンをずるずると引きずって、アルベルトがハルカの横を通り過ぎる。

「ああ、もう、落ち着きなってば。そんなことして話聞かせても意味ないから」

「話とかどうでもいいわ、なんかあいつムカつく」

「あのねぇ、一級冒険者がそんな衝動的に一般人殴ろうとするのやめようよ。だめだ、ハルカさんちょっと手伝って」

「アル」

ハルカが声をかけると、アルベルトがバツが悪そうな表情で振り返る。

「なんだよ。ハルカだってそんな顔してんじゃねぇか。ああいうのは一発殴った方が早いんだよ」

「……そうかもしれませんね」

「ちょっと、ハルカさん、やめてよね? 悪いけど僕君のことは止められないよ」

「わかってます、やめときましょう。それにこれは、サラさんの問題です。サラさんはどうしますか?」

「私は……」

玄関のドアが開いて、準備を終えたサラの母親が出てくる。

「あら、話がついたのかしら?」

「いいえ、とにかく夜にと言っていなくなってしまいました。お母さんは今時間をとってくれませんか?」

「ちょっと難しいわね。……あなた達からどう見えるか知らないけれどね、私達は神子であるサラにふさわしくあろうと努力しているだけよ。これもサラのためよ」

「そう思うのなら、優先順位が違うんじゃありませんか?」

「はぁ……。外野は勝手なことが言えていいわね。サラ、お父さんみたいに厳しいこと言うつもりはないけれど、あんまり遊び歩いてばかりじゃダメよ」

「……はい」

小さく萎れてしまったサラは、聞こえるかわからないくらいの声で返事をした。そのままサラの母親も出かけてしまう。残されたサラの後ろ姿はひどく寂しい。

「あーあ、もうさー、ハルカ。このまま連れて帰っちゃおうよ」

コリンがわざとらしく明るい声を出して、サラを正面から抱きしめた。頭を撫でてやると、サラは体を震わせて、声も出さずに泣き出してしまう。

「いい子だしさ、頑張れるし、常識あるし、逸材だよ。連れて帰ろうよー」

「気持ちはわかりますけど、それじゃあ人攫いですよ」

「いいよもうー、あの人達より私の方がサラのこと可愛がれるし、多分その方が幸せだよ」

「そうですね、そうかもしれないですけど……。場所を変えましょう。今日は学園を休んで、ゆっくりこれからのことを考えませんか?」

小さく頷いたサラを見て、ハルカも小さくため息をつく。

具合が悪くなりそうなくらい嫌な雰囲気だった。ハルカは今回のような諍いの場が苦手なのだけれど、それでも口を挟んでしまうくらいには心が揺れ動いていた。

サラの手をとってコリンが歩き出す。俯いてまだ泣いているのが見えて、ハルカも力無く下を向いた。

手に何かが触れて、そちらを見ると、モンタナの長い尻尾がハルカの左手周りを行き来している。すこし視線をずらすと、心配そうに自分を見上げるモンタナと目があった。

空元気を見せても仕方ないと思い苦笑する。モンタナは何を言ってくるわけでもなく、ピッタリと横について歩く。

慰めようとしてくれてるのがわかったので、その気持ちが嬉しく、また、少し恥ずかしかった。

「君たちってさ、本当に情に厚いというか、なんというか……」

一番後ろでイーストンが呟く。

「……見張ってなくてももういかねぇよ」

「どうだか。アルは直情型だからね。まだ間に合うと思ったら絶対行くでしょ」

「…………行かないからどけってば」

「どかないよ」

アルベルトが振り返って文句を言うが、イーストンはどこ吹く風だ。こんな役割のために連れてきたわけではなかったが、今回は大人の余裕を見せて、しっかりとアルの制御をしてくれている。

ハルカはあまり元気が出なかったので、大助かりだ。

いなかったら今頃顔を腫らしたサラの父が連れ戻されてきていたかもしれない。

「おい、サラ。お前の親父どこに勤めてんだよ」

「教えちゃダメだからね」

まだ諦めていなかったらしいアルベルトと、すぐにそれを邪魔するイーストン。サラがそれを聞いて小さく笑ってしまう。

笑われたアルベルトは変な顔をして黙り込んだ。意図せずサラの機嫌をとれてしまい、どう反応していいのか分からなかったらしい。

ぶすっとした表情を浮かべたアルベルトは、それきり黙ってハルカ達についてくるようになる。

「あの子連れてこなくてよかったね……」

イーストンはレジーナの顔を思い浮かべて、しみじみと呟いたのだった。