軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

うまいはなし

「なるほど、拠点の建築中なのか。それは完成が楽しみだね」

「はい。それでですね、実はまだ相談したいことがあります」

「なんだい? 今更何を言われてもあまり驚かないと思うよ」

「ちょっと地図を見てください。私たちが拠点を作っているのが〈忘れ人の墓場〉。ここからさらに混沌領側に〈暗闇の森〉。元々この暗闇の森にいたアンデッドが、何者かによってオランズ側に引っ張り出されました」

「人為的なものなのかい?」

「はい、そうであると考えています」

目を見つめて答えると、コーディは指の先でテーブルを叩きながら考え始める。腕を伸ばすとまず最初にヴィスタを指差す。

「当然、うちの仕業ではない。【プレイヌ】に混乱が起こっても、我々にはなんの得も無いからね」

「そうでしょうね」

つつっと地図を指でなぞり、今度は【ドットハルト公国】の上で止める。

「公国でもないだろうね。ドットハルト公は、帝国との二正面作戦をするほど愚かじゃない。とすると……」

指は地図上をさらに滑り、王国の上でぴたりと止まった。

「王国の、【プレイヌ】をよく思わない勢力、あるいは、混沌領の 破壊者(ルインズ) か。王国の事情にはあまり詳しくないのだけれど、内部で落ち着きなくいがみ合っているのは知っているよ。現政権とは比較的良好な関係を築いているから、ひっくり返られちゃ困るんだけどね」

コーディの目は常にハルカの表情を窺っている。情報を少しでも引き出そうという魂胆だ。ハルカから憶測を口にするのは障りがあるが、コーディが勝手に推測するのは構わない。

これはそんな交渉であった。

と、コーディは思っているが、ハルカはそうでもない。大したことは話していないのによくわかるものだと感心していたくらいのものだった。

そんな状態だったから、ハルカはコーディの予測を聞いてもそのまま話を続ける。

「どこがっていう確信までは無いですけれどね。この後が本題です。アンデッドを討伐した結果、私たちは暗闇の森より奥に住む 破壊者(ルインズ) と接触することになりました」

「……今日は盛りだくさんだね。そこでイーストンさんに会った、というわけでもなさそうだ」

「はい。私たちが出会ったのは、リザードマンです。彼らは誇りを重んじ、強い相手に敬意を払います。言うなれば彼らもまた、コーディさんの求める交渉の余地がある相手に違いないでしょう」

「……これから先、〈オランズ〉に送る教会の人間は、私の息のかかったものだけにしよう。やれやれ……、当たれば儲け物、くらいの気持ちでハルカさんに依頼したのに、収穫が多すぎて困ることになるとは思わなかった」

「伝えなければいけないことはこれくらいです」

「君たちからあらかじめ情報を得られてよかったよ。頭の固い連中に先んずることができる。とは言っても、 破壊者(ルインズ) と交流があることを大っぴらにしてはいけないよ。それを押し通すのには、まだ私の力が不足している。なに、そろそろ上のポストが一つ、空席になりそうだからね。またできることも増えていくさ」

コーディは組織にとらわれることを好まないけれど、目的のために努力するのは苦でないタイプだ。不敵な笑いは頼りになるが、そこにはハルカでは出せない凄みがあった。

「さて、あとは君たちの冒険についての話でも聞こうかな。知っているだろう? 私は、旅の話が好きなんだ。あ、もちろんユーリ君の話も詳細にだ。ああ、その前に食べ物と飲み物を用意させるよ」

コーディが席を外して部屋から出ていくのを見て、イーストンが体の力を抜いて息を吐いた。

「身分のある人と話をするのって緊張するね」

「えー、イースさん王子様でしょ。慣れてるんじゃない?」

「国同士の付き合いなんかはないから。腹の探り合いもそんなに好きじゃない」

「それにしては堂に入ってましたけど」

「そりゃあ長く生きてればね。でも会っといてよかったかも。曲者っぽい人を味方にしておくのは大事だもの。モンタナ、彼は嘘つきじゃないんでしょう?」

モンタナは削り切った宝石をあちこちから覗き込んで様子を見ている。質問されたことには気がついていないのか、たまにゆらりと尻尾を揺らしていた。

「モンタナ、聞こえていないかな?」

「…………聞こえてるですよ」

宝石を紙に包み、そっと袖の中に仕舞い込んでから、モンタナはイーストンの方を向いて答えた。

「イースさんは人間に、コーディさんは 破壊者(ルインズ) に興味があるです。似たもの同士仲良くするといいですよ」

「僕あんなに胡散臭い?」

「イースは顔が良いぶん得してるだけだろ」

「え、本当に?」

アルベルトがしれっとそう言うと、意外なことにイーストンは結構ショックを受けたような顔をしていた。女誑しだなんだとコリンからも言われていたはずだが、本気で言われているとは思っていなかったのかもしれない。

コーディが戻ってくると、次々に食事や飲み物が運ばれてくる。それらをつまみながら、ハルカ達は王国を旅した時の話をした。

コーディは聞くたびに大きなリアクションをして、的確なツッコミを入れてくるので、話している方も楽しくなる。

楽しい時間はあっという間に流れていく。旅の話が大まかに終わった頃には、すっかり夜も更けて、モンタナなんかはうとうとし始めていた。聞いてばかりで語ることも無いから、眠たくなってしまったのだろう。

ワイングラスを揺らしながら、コーディはすっかりくつろいだ様子で笑う。

「聞けば聞くほど、とんでもなく濃い冒険をしている。いったい何をしてそんなに階級を上げたのかと思ったけど、それだけのことは立派にこなしてきたわけだ。次に君たちを雇おうとしたら、莫大な依頼料がかかりそうだ」

「そこは少しくらいまけますよー?」

にまーっと笑うコリンを見て、コーディはいよいよ声を出して笑った。

「はっはは。ちょっと怖いから、交渉はハルカさんとさせてもらおうかな」

うつらうつらとしているモンタナを見ていたハルカは「そうですねぇ」とそれに適当な相槌を打った。

失礼なことを言われたと気づいたのは、話題がすっかり別のものになってからだった。

突っ込む機会を失ったハルカは、変な顔をしながらテーブルの上のチーズに手を伸ばす。この濃厚なチーズは、ここヴィスタでしか食べられない。

やや納得いかないことがありながらも、美味しいものを食べているので、ハルカは大まかには幸せな気分だった。