軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

難しいお年頃

「へぇ、 冒険者宿(クラン) か。おもしろそうだね」

「ええ。何が変わるわけではないんですが、拠点を持って気の合う仲間が増えたらいいな、くらいなんでしょうか」

「本来はそういうものじゃなさそうだけどね。必要になってから作るよりはいいのかも」

ハルカの説明に一定の理解を示しながら、イーストンは苦笑した。聞いたことから判断した限り、もっと志向性のある組織として立ち上げるようなものでありそうだと感じたのだ。

ただ、イーストンの知っているハルカ達は、何かを成す、ということより冒険者として活動することと強くなることこそが目的だから、漠然とした目的意識であっても問題はないはずだ。むしろ無理に具体性を出して気の合わないものが増えてしまっては過ごしづらくなるだろうと思う。

「イースは冒険者になんねぇのかよ」

そわそわとアルベルトが体を揺らす。前に一緒にいたときにも誘われたが、イーストンは答えを曖昧にしていた。一応立場もあるし、個人的にどこかに所属することは難しい。それでもアルベルト達のその気持ちが嬉しくて笑う。

「うーん、ちょっと難しいかなぁ。でも時間があるときはここに来て一緒に過ごせたらとは思うよ。ここなら僕の故郷から竜で行き来しても問題なさそうだしね」

「イースの竜も見たい」

久しぶりに会ったイーストンの隣に座ったユーリは嬉しそうだ。最近は人見知りもあまりしなくなってきたけれど、しばらく一緒に旅をしていたイーストンは少し特別なのかもしれない。

「うん、僕の竜というか、国の竜なんだけど。乗ってくるとしても中型竜かな。ナギよりも小さいよ。ユーリもナギもずいぶん大きくなったね」

「うん。でも早くもっと大きくなりたい」

「気持ちは分かるけど、ゆっくりでもいいと思うよ。急がなくてもみんな待っていてくれるからね」

「んー……」

納得は行かないように声を漏らしているが、ユーリはイーストンの腕に頭を預けて反論はしなかった。

ユーリにとって、イーストンは近所に住むかっこいいお兄さんみたいな感覚だった。ハルカ達は家族みたいに大切なものだとわかっているが、こうして再会するとつい甘えてしまう。

何よりイーストンには欠点らしい欠点がない。子供っぽいところも抜けたところもない。少なくともユーリから見ると、イーストンという人物は憧れの存在でもあった。

他の仲間たちがすっかりイーストンを受け入れる中、レジーナだけがむすっと少し離れた所に座っていた。ぼんやりと日向ぼっこしていたノクトがそれに気がつき、乗っかっていた障壁を動かして近づき声をかける。

「困ってますねぇ」

「困ってない」

「話に入りたいんですか?」

「入んねぇ」

「何を話したらいいかわからない、ではなく?」

寝転がって全身の力を抜いたままのノクトを、レジーナはぎろりと睨みつける。しかしノクトはどこ吹く風で、にこにこと笑っているばかりだ。

「怒らないんですねぇ」

「うるせぇな」

「思ったことは、口にしたほうがいいですよ。言わないと伝わらないこともあります」

「……うるせぇって言ってんだろ。わかんねぇんだよ」

「……あぁ、そうでしたかぁ。多分ねぇ、それは寂しいとかっていう感情かもしれません」

レジーナの唇がぎゅっと結ばれ、眉間に皴がよる。怒っているような表情だったが、ノクトはそれを黙って見つめた。レジーナの感情が大きく揺れ動いていることだけは分かる。それが大切なことであるとノクトは知っていたので、それ以上からかったりはしなかった。

ふいにハルカが振り向いてレジーナを見る。難しい顔をしているのに気付くと、苦笑して手招きをしてきた。気づいてもその場に留まったままのレジーナを見て、ハルカは立ち上がり近寄ってくる。

「どうしましたか、難しい顔をして。師匠に意地悪を言われましたか?」

「なんでも僕のせいにするのはどうかと思いますけどねぇ」

「あ、いえ、冗談ですよ。たまたま隣にいたので。うとうとしていたから声をかけなかったんですが、起きたなら師匠も来てください。ほら、イースさんですよ」

「はいはい、行きますよぉ」

だらりとした姿勢のまま話の輪の方へ向かうノクトを見送り、ハルカはレジーナにもう一度声をかける。

「レジーナさんも一緒に行きましょう。イースさん、怖い人じゃないですよ」

「元から怖くねぇよ」

レジーナの返答に、ハルカは首を傾げた。自分でもなぜ『怖い人じゃない』という表現を使ったのか分からなかったからだ。なんとなくレジーナが不安を感じているような気がして、無意識のうちに選んでしまった言葉だった。

「……それは、失礼しました。えっと、とにかく、向こうに行きましょう。イースさんをちゃんと紹介したいんです」

「別にいい」

「えーっと……。イースさんも結構強いですよ? きっと訓練のいい相手になってくれるはずです」

レジーナの眉がピクリと動く。ハルカはイーストンに余計な面倒ごとを増やしてしまったと、心の中で謝罪する。でも彼ならきっとうまいことやってくれるのではないかという期待も少しあった。

見た目も男らしいタイプのイケメンではないし、成人男性が得意でないレジーナでも、接しやすいのではないかとも思う。

座っているレジーナに手を差し出して、更にもう一度声をかける。

「さ、行きましょう」

レジーナはその手を見て、結局掴まずに立ち上がると「わかった」と小さな声で言って、ハルカが動き出すのを待った。

仲間内では不和を起こしたくない。しばらくの間は積極的に二人の緩衝材になろうと考えながら、ハルカは仲間たちの方へと向かった。