軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

蜥蜴の人

姿も見えず声も聞こえない状態では、敵か味方かもわからない。しかし〈暗闇の森〉から忍び寄ってきている時点で、人族でない可能性が高い。

焚火を水で消して、暗闇に目を慣らす。今日の月明かりはやや心もとない。

ハルカはナギとユーリを障壁で囲んで、モンタナの示す方向をじっと見つめた。

茂みが揺れて、ぬるりと二足歩行の影が姿を現した。

頭部がつるっと丸く、手には長柄の武器を携えている。アンデッドではなさそうだ。焚火の臭いをかぎ取ったのか、出てきた五人は、全員ハルカ達の方を向いていた。

武器を打ち合わせるどころか、互いの姿をしっかりと認識するのにもまだ遠い。飛び道具を持っていないのか、その影はじりじりと距離を詰めてきている。後ろに長い尻尾を引きずっているのが見えた。

恐らくリザードマンと呼ばれる 破壊者(ルインズ) だ。アンデッドの中にも混じっていたので、間違いないだろう。しかし、生きているものを見るのは初めてであった。

「人間か」

シュルシュルと空気の漏れるような声で話しかけられる。しかし、何を言っているのかははっきりと分かった。

「そちらはリザードマンですね」

「死にぞこない共の群れはどうした」

「ほぼ殲滅しました」

リザードマンたちに動揺が走ったのが分かった。話しているもの以外が息をのみ、互いの顔を見つめ合う。そんな反応は人と大して変わらない。 破壊者(ルインズ) にも、話せるものがいるのは既に知っている。しかし、巨人たちのように人間を喰らう者もいる。

リザードマンたちがどちらなのかは、しっかり見極めなければいけない。

「何が目的だ。侵略か?」

「そちらこそ、今回のアンデッドの大移動について、何かご存知ですか?」

「…………俺たちは何もしていない。〈暗闇の森〉が静かになったから偵察をしに来たのだ」

少しの間が、何かを知っていることを示していた。しかし嘘はつかずに誠実に答えているであろうことも何となくわかる。どうしたものかと考えていると、レジーナが金棒の頭を地面に突き立てた。

「めんどくせえ。なんか知ってんなら言えよ」

「……俺もそう思っていたところだ。俺と戦え。勝てば知ってることは教えてやろう。負ければ知っていることを全て話せ」

「話が分かるじゃねぇか」

レジーナが勝手に話をすすめて、金棒を担いだまま距離を詰める。話していたリザードマンも槍をぐるぐるとまわしながら前に進む。二人は互いの武器が触れ合うぎりぎりの距離につくと、ぴたりと動きを止めた。

話すも何も、こちらは完全に空手形だ。負けたときに話すことなど何もない。口を挟む間もなかったが、仲間たちは静観している。

「良いと思うです」

ハルカが動揺していることに気がついたのか、モンタナが呟く。

「あの人、嘘ついてないですし、この方が手っ取り早いです」

「ま、冒険者なんてこんなもんよね。互いに納得してるならもういいんじゃないの」

コリンまでそんなことを言いだした。数日間殺伐として過ごしていたせいで、少し投げやりになっている感は否めない。

リザードマンの陣営からも声援のようなものが飛んできている。きっと彼らの中でもこんな光景が日常的なのであろうことも察せられた。

ハルカはため息をついて頬をかいた。いつの間にかナギとユーリも目を覚ましていて、障壁にべたッとくっついて状況を見守っている。

「心配すんなよ。あいつ強いし負けねーだろ」

ハルカだってそんなことは心配していない。心配事はそこではないのだ。

「レジーナさん、殺しは無しですからね!」

「情報聞くのに殺すわけねぇだろ」

返答したタイミングで、槍が鋭く繰り出された。こういう決闘は用意ドンで始まるようなものではない。ハルカは自分のせいで戦いが不利になったのではないかと、一瞬ひやりとする。

しかしそんな心配は無用だった。

金棒の頭で槍を受けたレジーナは、それをそのまま上方向にいなす。今まで見たことあるのとは違った、少し柔らかい動きだった。

槍の柄がしなり、二人は距離を少し離す。

「不意打ち失敗だな」

「……驚いた。人間は数が多いだけで軟弱だと聞いていた」

「そうかよ……っ」

言葉と共に横薙ぎにされた金棒を、リザードマンは後ろに飛んで避ける。そうして、振り切ったところにまた槍が突き出された。細かく刻むように突き出されたそれを、レジーナは体勢を崩しながらも金棒ではじき続ける。つまらなさそうな表情を見る限り、まだ余裕があるのかもしれない。

やがてレジーナは片手で繰り出された槍の柄を掴んだ。

「終わりだな」

片手で思いきり金棒を振り上げた瞬間、リザードマンは槍から手を離し、素早く体を一回転させる。体の動きに少し遅れて、太くたくましい尻尾が、レジーナの胴にもろにぶつかった。

肉のぶつかり合う鈍い音がして、リザードマンは舌を出して勝利を確信した。然しその直後、脇腹に衝撃が走り、強烈な痛みに襲われる。何が起こったのかわからないまま、地面を二転三転する。

土埃が舞い、リザードマンたちが完全に沈黙したところで、レジーナが片手に持った槍を投げ捨てた。

「武器から手を離してんじゃねぇよ」

「やっぱつええよな」

何かを言おうとしているのか、地面に倒れたリザードマンが口から血を吐いている。感心しているアルベルトを置いて、ハルカは慌ててリザードマンのもとへ走った。

それに一拍遅れて、観客をしていたリザードマンたちも武器を持ってハルカの方へ駆け寄ってくる。

「隊長に触るな!」

「治すだけです、邪魔をしないでください」

一歩早く怪我人のもとに辿り着いたハルカは、すぐに治癒魔法を使い、倒れたリザードマンの怪我を治療する。武器を突き付けられているが、そんなことは後回しだ。

倒れていたリザードマンが、血をいくらか吐き出して、腕で口元を拭いながら上体を起こす。

「隊長、大丈夫ですか!」

「……大丈夫だ。治していただいたこと感謝する。俺の負けだ。なんでも聞け」

ハルカは感心してしまった。

負けて血を吐いた直後だというのに、冷静に約束を守ろうとしている。ある種の尊敬の念すら抱いてしまった。

きっと生真面目で、嘘をつかない人、もといリザードマンなのだ。このリザードマンのことは、なんとなく信用をしてもいいような気がしていた。