軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

鳥だ、飛行機だ

アンデッドの姿さえなければ〈斜陽の森〉はいつもと変わらない景色だ。街から離れるにつれて、木々が自由に育ち、森は徐々に深くなっていく。アンデッドさえいなければ、これから先数百年、その恩恵に与ることができるだろう。

ハルカの右にはナギが飛んでいる。今日は背中にモンタナとコリンを乗せていた。

アンデッドの襲来は差し迫った問題ではあったが、今日明日でどうにかなるものでもない。これから〈忘れ人の墓場〉で戦闘を始めれば、多くのアンデッドの注意を引き受けることができるだろう。もし討伐が上手くいかなくても、やって意味の無いことではない。

ハルカはあまり急いで飛ばなかった。自分がこれから守ろうとしている景色を目に留めておきたい気持ちもあったし、緊張する心を鎮めたい気持ちもあった。

「もっとスピード出していいよ。うん、気に入った。もっともっと速く飛ぼう。僕はこれが終わったら大竜峰に行くぞ。竜の卵を取ってくる」

ハルカの左から声が飛んでくる。やけに浮かれたシャフトだった。

背負ったり抱き上げたりでは文字通り手が足りなくなった時、名案を出してくれたのはユーリだった。

『ベッドみたいなので、みんないっしょにいけないの?』

目から鱗の名案だった。昨日のうちに思い付いていれば、もっと楽に運ぶことができた。あれはあれで悪くなかったが、思いつかなかったこと自体は恥じるべきなのかもしれない。どうにも頭が固いと、ハルカはため息をついた。

そんなわけで、ナギの反対側には、大きなゴンドラのような障壁が浮いている。レジーナとシャフト、それからユーリを抱っこしたアルベルトがその中に待機していた。

シャフトが騒ぎながらしょっちゅう身を乗り出すせいで、ハルカとしてはハラハラしっぱなしだ。落ちたのに気がつかないと大変なことになる。

あと、レジーナがバタバタと移動するシャフトにイライラし始めている気がする。こんなところで喧嘩だけはしないでほしい。

「シャフトさん、落ちると危ないのでお静かにお願いします」

「ん、ああ。年甲斐もなくはしゃいじゃった。いいなぁ、こんなことができるなら、早く君と接触しておくんだった。ラルフが随分評価していたから気になってはいたんだけどね、めんどくさくて」

前に会議していた時もそうだったが、シャフトとラルフはやけに気安い。年齢も割と近いような気がする。シャフトの方がやや年下に見えるが、身体強化を使う冒険者なのだとしたら微妙なところだ。

「ラルフさんとはお知り合いですか?」

「うん、小さな頃から知っているよ。昔は一緒にチームを組んでいたんだけど、途中で抜けちゃった。僕は今もチームに誘ってるんだけどな」

「冒険者歴も同じくらいですか?」

「同期だね」

シャフトの表情がスーッと消える。あまり触れてほしくない話題だったのかもしれない。顔色を窺ってハルカは質問を切り上げた。そんなつもりはなかったのだが、意図せずシャフトを静かにさせてしまった。

ぽつりぽつりと今回の作戦についての相談をしながら、ゆっくりと空の旅を続ける。

やがて太陽が傾き始めた頃、アンデッドの大群の上に辿り着いた。

数を改めて確認しながら、その頭上を通り抜け〈暗闇の森〉側へ向かう。こうしてみると、やはりアンデッドたちは〈斜陽の森〉側に集まっている。この動きには何かしら原因があると考えるべきだろう。

むしろ、今まで暗闇の森から出てこなかったのに、理由があると考えるべきなのかもしれないが。

ハルカは空中に障壁で床を生み出す。ナギが乗っても十分すぎるくらいな広さの真っ黒な障壁だ。全員がそれに乗るのを確認してから、周囲を三重の高い障壁で囲む。空は見えるように開けておいた。

「このまま着陸します」

ハルカの宣言に、全員が黙って頷く。ハルカだけが空を飛び、そのままゆっくり障壁を地面に下ろす。真下にいるアンデッドが数体下敷きになって、そのまま潰れた。

「なんか、なんかすごい変な感触した……」

ハルカが中に着地すると、コリンが自分の体を抱いてブルリと震わせた。

「作戦の確認をしましょうか。メインで戦うのが一人、すぐ傍でのサポートが二人、常に私が空からサポート。緊急事態に備えて、二人は中で休憩しながら待機。私が休むときには全員一度引いて休憩。これでいいですね? 最初はどれくらいで交代するか時間の目安を決めたいのですが、誰が出ますか?」

「あたし」

「僕だね」

「俺」

予想はできていたが、三人が同時に声を上げた。

「僕は一級冒険者だけどね」

「うるせぇよ、引っ込んでろ」

「俺、俺が一番前に出る」

それぞれが勝手な主張をしていて譲る様子は全くない。緊張感の無さが逆に頼りになるような気はした。

ハルカは少しの間苦笑してそれを眺めていたが、きりがなさそうなので間に割って入る。

「決まらなさそうなので、私が決めても?」

「仕方ないな、君がこの作戦の要だからね」

「ハルカが決めんならいいぜ」

「嫌だ。あたしが一番初めについていくって決めたんだから、あたしが最初に戦う」

男二人が譲ったのに、最後まで断ったのはレジーナだった。

「えーっと……、レジーナさんはサポートに回れそうにないので、お二人にサポートしていただいてもいいですか?」

「まあ、俺は良いぜ」

「ものすごいわがままだな、この女。しかしできないのなら仕方ないね、できないのなら」

嫌味っぽく繰り返すシャフトの言葉に乗らずに、レジーナは胸を張って言う。

「やらねぇ。あたしが先頭に出て全員ぶちのめしてくる」

流石のシャフトもこれには閉口だった。変人対決はレジーナの勝利だ。

「レジーナさん、限界が来る前に戻るんですよ。わかってますよね?」

「…………わかってんよ。行こうぜ」

不安だったが、嘘をついたりはしないはずだ。約束はちゃんと守るつもりはある、はずだ。

ハルカは空に飛びあがって進行先を指さす。

「まず私が出て、アンデッドを誘導しいくらか吹き飛ばします。それが終わったら障壁を開けますので、三人で出てきてください。すぐに襲われるようなことはないように準備します」

三人が頷いて障壁の前に待機する。

後方ではコリンがユーリを抱き上げて、ハルカに向けて一緒に手を振った。

「怪我しないようにね!」

「ママがんばって」

呑気な応援だったが、それが心強かった。信頼されている。作戦の成功を疑わないでいてくれる。

ハルカは障壁の上から飛び出し、数百体の目に追いかけられながらアンデッドたちの頭上数メートルを飛行し始めた。