軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

むかつく

「レジーナさんは報酬についての不満とかはないですか?」

「別にねぇよ」

「交渉に参加しなくても?」

「やることやって金が貰えりゃいい」

冒険者にもいくつかのタイプがいる。レジーナは分かりやすく、生きる手段として冒険者をしているタイプだ。冒険者を続けた結果得られるものには、あまり興味がないのだろう。

「でも、あたしだったらあいつらは潰してる。ハルカはなんでやらねぇんだ」

「彼らも街の住人ですし。誰が誰と繋がっていて、どんなところで迷惑がかかるかわかりませんから。個人の感情で済む範囲であれば、見なかったこと、聞かなかったことにすればいいかなと」

「よくわかんね」

お気に召さなかったらしく、一刀両断に切り捨てられた。

「ハルカはあんまり自分のことを大事にしないですから」

「みたいだな」

まさか反対側からもそんな言葉が飛んでくると思わず驚く。モンタナとレジーナで結託されてしまった。ハルカは耳に着けたカフスを指先でいじりながら考える。

言われてみれば自分のことを大事に、という感覚はあまりない。最低限身を守りたいという気持ちはあるが、それは漠然とした恐れから来るものでしかなかった。

「良いことじゃないです。いくら身体が丈夫でも、心まで守ってくれるわけじゃないですから」

「……すみません」

「謝ることではないです。でももっと自分のために悲しんだり怒ったりしてもいいと思うです。今は代わりに僕たちが怒ってあげるですけど」

思ったよりずっと長文で忠告を受けて、ハルカは体を小さくした。レジーナが興味深そうにそれを見ていて恥ずかしい。

「今だって気が進まないことをしようとしてるです。……ハルカらしいですけど」

「お節介ってことだろ」

「そうです。レジーナさんのこともお節介です。でも僕はそれが間違ってるとは言ってないです」

肩身の狭くなったハルカを間において、モンタナとレジーナが目を合わせる。喧嘩でも始めそうな雰囲気があったが、先にレジーナが目をそらした。

「わかってんだよ」

「そうですね」

一人だけ話についていけていなかったが、ハルカはハルカで、モンタナに言われたことをぐるぐると考えていた。

嫌だとか、腹が立つとか思うことが無いわけでもない。それでもその感情が湧くと、瞬間的に心の中にブレーキがかかってしまう。ハルカはそれが普通だと思っていたし、これでもそれについては改善された方だと思っていた。

変わるのは難しい。

ふと疑問がわいてモンタナに尋ねる。

「モンタナもあまり感情を表に出しませんが、我慢したりしていないんですか?」

「してないです。したいことをして、話したいときに話してるです」

「つまりモンタナは心根からいい子ってことなのかもしれませんね」

モンタナは結構勝手な行動も多いし、言うことははっきりと言っている。つまらない話を聞けば寝てしまうし、聞きたくない話は無視している。トラブルになりかねない行動も多いのだが、ハルカ達はモンタナのそういった面を気にすることがない。

モンタナにはその自覚があったから、ハルカに変に褒められて、気恥ずかしくなってしまい黙り込んだ。モンタナから返事が戻ってこないのはそう珍しいことでもないので、ハルカも気にしない。

木々の間に、アルビナたちの姿が見えた。交戦している様子もないし、それ以上森の奥に進んでいくわけでもなさそうだ。

近づいていくと、あちらもハルカ達の姿に気がついたようで、エリが手を振った。

「どうしたの。話し合いしてたんじゃないの?」

「報酬の話になったのでうちの専門家に任せてきました。森に入っていくのが見えたので、どうしたのかなと」

「んー、アルビナが拗ねちゃって」

「拗ねてない! 訓練しようと思っただけ!」

「危ないからわざわざ離れた場所でするのやめなさいよ」

呆れ顔のエリと、おろおろしているだけのカオル。それでも一緒にいるのは仲が良いからなのか、パーティを組んでいるからなのか。

「あたしはもっと頑張って強くなんないと駄目なの!」

「ゆっくりでいいでしょ。一緒に強くなれば」

「それじゃダメなの! もっと遠征とかして! 危険な依頼も受けて! こいつらみたいに!」

「じゃあ訓練してやるよ」

「……え?」

金棒を振り上げたレジーナが突然話に入り込んだ。

エリ達が固まり、モンタナは傍観し、ハルカは慌ててレジーナの身体を引っ張った。レジーナは大きく体のバランスを崩し、振り下ろされた金棒は地面をかすっただけに終わる。

念のため障壁をアルビナの側面に張ったので、もし当たっていても大丈夫だったとは思うが、ハルカの心臓はドキドキと跳ね踊っていた。

「なにを……、何をしてるんですか」

「訓練。強くなりてぇんだろ、そいつ」

「だからって急に攻撃していいわけないでしょう」

大きな声を出しそうなのを抑えて、ハルカは努めて冷静に話す。レジーナは舌打ちをして、そっぽを向いた。

「手加減してたから死にやしねぇよ」

「そういう問題じゃないです。なんで先に話をしないんですか。急な暴力はダメだって言ったはずですけど」

「わかんねぇよ! なんかムカつくんだよそいつ!」

ぎゅっと眉間に皴が寄り、レジーナの目が吊り上がり、表情が一気に険しいものになる。レジーナの行動を咎めていたはずなのに、ハルカにはその表情が、今にも泣きだしそうな子供のように見えてしまった。

「レジーナさん、何か……」

「うるせぇ、いてぇよ、離せ!」

ハルカが掴んでいた腕を無理やり振りほどき、レジーナは一人で森の奥に進んでいく。

振り払われた手を見つめてから、ハルカは三人に頭を下げた。

「すみません、ご迷惑をおかけしました」

「……よくわかんないけど、無事だからいいんじゃないかしら。アルビナも、あんまり迂闊なこと言うのやめなさいよね。街の外にはあんなのがたくさんいるのよ。今だってハルカがいなかったら、誰も助けられなかったんだから」

「それは……」

「いいから追いかけたら? あの人、怪我してたわよ」

被害者であるアルビナをこれ以上責めるのは違うのではないかと、口を挟もうとしたところで、言葉が遮られる。アルビナも地面にへたり込んだまま、下を向いていて反論はしてこない。

「怪我?」

「ハルカが引っ張ったから、肩外れてるです」

「え、え?」

訓練中の怪我ならともかく、意図しないタイミングで人の肩を外してしまったことにハルカは動揺した。一般的な感覚だと、訓練中でも割と引く行為だが、ハルカの感覚はすっかり狂っている。

まして今の森の中は、安全とは言えない。

「あとで、もう一度お話ししましょう。今は失礼します」

「先導するですよ」

モンタナが駆け足で先に進んでくれたので、ハルカはその後に続く。考えることがたくさんありすぎたので、ついていくだけにしてもらえたのはありがたかった。