軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

譲歩

「お礼は、言ってくれましたよ」

「そうですの。お支払いはどうしたらいいのかしら?」

「あー……、ちょっとどういう扱いになるのかわからないので、あとで相談しましょう」

支払いは結構ですと言いかけて、ハルカの脳内に、コリンの顔が浮かんだ。無難な対応が思いつかなかったので先延ばしにしておく。ヴィーチェはしゃべりながら少しずつアルビナに近づいて、横に並んだ。

「また落ち込んでますの?」

「落ち込んでないです」

「そうかしら?」

本人はそう言っているけれど、先ほどのセリフといい、今の佇まいといい、落ち込んでいるのは間違いない。

何か励ましてあげたい気もしたが、アルビナという人間にあまり関わりがないため、対応がしづらかった。

そもそもあまり情報がないのだ。ヴィーチェのことでたまに絡んでくる子。短気で、多分格闘家。エリと同じチームで三級冒険者。年はきっと自分達と同じくらい。

「私、言いましたわよね? 冒険者は横のつながりが大事だと。一生懸命なのはわかりますが、アルビナも少しずつ大人にならないと駄目ですわよ?」

「あたしは! 別に先輩に認められればそれでいい!」

「私はあなたが頑張ってると思ってますけれど、それではあなたが生きづらいと言っているんです」

「強くなって、誰にも文句言わせなければいい」

「それならなおさら、もっと視野を広く持つべきですわ。今回だって、ハルカさんが親切な人でなかったら、どうなっていたと思ってますの? あなた、冒険者生命を断たれていたのかもしれませんのよ」

「それは! それは……、そうだけど……」

「その上で、私はちゃんとお礼を言ったかしら、と聞いているんです」

アルビナは視線を彷徨わせたあと、上目遣いでハルカの方を見た。涙目になっていて、意地悪したような気分になる。背が小さくて、若く見える子なので、余計に居心地が悪い。

「……いつもごめんなさい。今日はありがとうございました」

「……いえ、どういたしまして」

ただ気まずい。先生に仲介されて仲直りした同級生みたいな気分だ。もし友人同士だったとしても、この後仲良くし続けるのは難しい気がする。きゅっと口を結んでいるのが、怒りからではないことをハルカは祈った。

ヴィーチェがハルカに気を使えば使うほど、アルビナの目つきがきつくなる。アルビナが本心から反省している様子がないのを見て、ヴィーチェは溜め息をついた。

「アルビナ、今日はもう休みなさい」

「……はい」

とぼとぼと去っていくアルビナの背を見送る。できればハルカももう休んでしまいたいくらいの気持ちだったが、行って良しと言われないので、その場に棒立ちしていた。

姿が見えなくなったところでぽつりとヴィーチェが口を開く。

「いつもご迷惑をおかけしますわ」

ハルカはご迷惑具合で言うと、ヴィーチェがセクハラをしてくるのとトントンくらいだと思った。しかし今は真面目な場面なので、余計なことを言わずに黙って頷く。

「あの子、かなり小さな頃から冒険者をしていたんですの。それで天狗になっていたんでしょうね。自分より才能のある者を見て、どうしたらいいかわからなくなっているんだと思いますわ」

「はぁ……。まだ若いんですねぇ」

そんなことを言われてもハルカには関係のない話だ。一方的に絡まれ続けているので、好き嫌い云々はともかく、どうしても苦手意識は持ってしまっている。

「ええ、まだ十四歳になったところなんですの」

「……十四歳ですか? なったばかり、ということは、私にはじめて会った時は、十二歳? たしかあの時は既に三級冒険者でしたよね?」

「ええ。でも、今回のことでハルカさんやコリンちゃん達にもランク抜かれてしまったでしょう? それで変に焦っているのかもしれませんわね」

子供っぽい見た目と思っていたが、ぽい、ではなく本当に若かったらしい。先輩冒険者だったから、年齢は変わらないと勝手に思っていたのだが、アルベルトより年下とは思わなかった。

それが分かると、あの態度もちょっと納得できる。しかしその年齢の子を、親の監督なしで、危険な任務に就かせるのはどうなのだろうとも思ってしまう。

そのことについて尋ねようとして、アルベルト達も、出会った当初十四歳であったことを思い出した。今のアルビナと大して変わらない。一緒に旅をしていて、同じ目線で暮らしてきたせいで、どうにもそんなに若いとは思えないのだ。

最初期の頃は、三十も年下の子たちの足を引っ張って、落ち込んでいた記憶まで、ついでに思い出してしまった。そういえば、アルベルトを怒らせて、パーティから脱退しようと思ったこともあったくらいだ。

もしかして、今回こそハルカから積極的に話を聞いてやるべきだったのではないかと、今更になって心配になってきてしまう。

「ま、そんなことはハルカさんには関係ありませんわね。私も今日はもう休みますわ。おやすみなさいませ、ハルカさん」

「え、ええ、おやすみなさい」

ハルカはどうもすっきりしないまま、仲間たちのもとへ戻ろうと歩き出す。少し離れたところで、モンタナとコリンがじっと自分のことを見ているのに、そのとき気がついた。

「えーっと、どうしましたか?」

「別にー。ハルカが困ってそうだったから、見てただけー」

「です」

十代半ばの子たちとは思えない気の利きようだ。

恵まれた仲間たちに感謝をして、ハルカは表情を緩めた。

「大丈夫ですよ。二人を見たら元気になりました」

コリンとモンタナは互いに顔を見合わせた。

そうしてコリンが右側についてハルカの腕を取り、モンタナが左に並ぶ。

「じゃあもっと元気出してね、くっついてあげるから。今日は助けに来てくれてありがと、ハルカ!」

「ちょっと困ってたですから、ありがとです」

「怒られなくてよかったですよ」

「怒られる? なんで?」

「アルだったら、俺のこと信用してないのか、とか言いそうじゃないですか」

「あれはー、アルがハルカに認められたいって気持ちで言ってるだけだから、気にしないで助けに来ていいの。男の子の見栄っ張りだよね、モン君」

「そうです。お子様ですから」

「はいはい、じゃあ何かあったら助けに行くことにしますね」

わいわいとナギのもとに戻ると、アルベルトだけが一瞬薄目を開けて、すぐにまた眠った。眠りながらもちゃんと警戒していたらしい。文句を言わないところを見ると、ハルカ達の話は聞いていなかったようだ。

ハルカ達はそれぞれ適当にナギの周りに集まって、寝転がる。

あまり良いことではないのだろうけど、やはり仲間たちとだけいるときが一番落ち着く。

ハルカは目を閉じて、先ほどのヴィーチェのセリフをぼんやりと思い出す。

『冒険者は横の繋がりが大事』

明日は、ちょっと勇気を出して、自分からアルビナに話しかけてみようかなと、ハルカはうとうとしながら考えるのだった。