軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

違う話

モンタナが茂みからずるずると獲物を引きずって姿を現す。小さな体といっても、毎日身体強化の訓練をしているおかげで、自分より大きな獲物を運ぶくらいなら訳ない。二倍から三倍の重量があろうかという鹿を引きずって現れたモンタナを見て、その場にいた人たちはたいそう驚いていた。

ハルカはあらかじめ木の下に掘っておいた穴まで、モンタナを案内する。毎日ナギのために肉を取って解体していたせいで、すっかり作業に慣れてしまった。来たばかりの頃、解体現場を見て気持ち悪くなっていたのが嘘のようである。

何も言わなくてもその後をついてくるのは、ユーリとナギだ。はじめのうちは、ユーリには解体現場なんか見せる気はなかったのだが、最近ではハルカの考えも変わってきている。

いつでも自分たちが横にいて、ずっとお世話をしてあげるわけではないのだ。流石に人が死ぬような現場を、嬉々として見せびらかしたりするわけではないが、本人が気になることの邪魔をするべきではないと思っていた。

ハルカがノクトにいろんなことを教わったように、ハルカはユーリにいろんなことを見せてやる義務がある。人を育てるというのは、多分そういうことなのだ。

それにしたって、ユーリの年齢で見る必要のないことはたくさんあるとは思うのだが、他の仲間たちが当たり前のような顔をして何も言わないので、ハルカもそれに倣うことにしていた。

冒険者とはきっとこういうものなのだ。

その考えが、この世界の感覚としてもずれていることは、やはりハルカは気づかない。そもそもこの世界の人口における冒険者の割合は、かなり少ないのだが、界隈で一年以上過ごしてきたせいで、そういった肌感覚がハルカにはなかった。

日暮れまでには解体が間に合った。肉の美味しい部分は切り出して食事の準備をしている人たちへ提供する。残った肉はナギの前に置いておくと、見る見るうちに量が減っていく。

あればあるだけ食べるので、これが適切な量かはわからない。ただ、肥えることなく、すくすく成長をしているところを見ると、間違ってはいなさそうだった。

しばらくして、火を取り囲んで談笑しながら食事をしていると、ナギがもぞもぞと目を半分閉じたまま、ユーリの横に歩いてきた。一瞬チラリとラウドの方を見て、警戒する様子も見せたが、眠気に勝てないのか、その場ですぐにうとうととし始める。

先ほどのことで学んだのか、ラウドもじろじろと観察したり、奇声を上げたりはしなかった。ちらちらと視線を向けることはあるが、それくらいならナギも気にしないことにしたらしい。

話を聞いていると、アイーシャとその仲間たちは、やはり専属の護衛をしているらしい。元々は旅の護衛をしながら世界中を回る、三級冒険者だったそうだ。

「ま、こいつが仕事に失敗して金払いが悪くなったら、冒険者に戻るさ」

「そうだね、それがいい」

アイーシャが冗談めかして減らず口を叩くと、ラウドがやんわりと微笑みながらそれを肯定する。その反応に機嫌を悪くしているところを見ると、アイーシャは、そう簡単にラウドを見捨てられないだろうことが推測できた。

水と油のように見える二人が、一緒に旅をしているのが不思議だ。何か深い理由があるのかもしれないと思ったが、踏み込むような関係でもない。男女であるから、もしかしたらコリンの好きそうな事情でもあるのかもしれない。あまりお上品な想像ができなさそうだと思い、ハルカはそれについて考えるのをやめた。

アイーシャたちから夜は寝ていいと言われたのだが、ハルカはそれを断って、いつも通り自分達からも不寝番をたてた。

コリンからは、すぐに人を信用しなくなって偉い、と褒められたが、そんなつもりではない。ただ他人にだけ負荷をかけるのが嫌だっただけだ。仲間たちも元からそのつもりだったらしく、特に反対意見は出なかった。

天幕にも入らず、焚火の傍で仲間たちが固まって眠る。あちらからも当番を出してくれているので、ハルカたちも一人ずつ順番に起きることにした。いつもよりゆっくりできるので、それだけでもありがたくはある。

三番目の当番になったハルカは、コリンに身体を揺さぶられて目を覚ます。旅をしていると中々熟睡することはないのだが、ハルカの身体はいつでも元気で、覚醒すれば調子が悪いということはない。

ハルカが立ち上がると、コリンは大あくびをして、場所を入れ替わる。

「ハルカが寝てたからあったかーい」

「はいはい、お疲れ様でした」

ふざけながら丸まったコリンの頭を撫でて、焚火の傍に行く。そこにはアイーシャともう一人の護衛に加え、なぜかラウドも座っていた。白湯を差し出されたので、礼を言って受け取り、仲間たちを背にして焚火の前に座る。

ずずっとそれを啜って息を吐いたところで、静かな声でラウドから話しかけられる。

「実は聞いてみたいことがありましてね」

わざわざ夜半に起きてきてまで話すようなことなのか。疑問に思いながらも、ハルカは黙って視線を送り、聞いていますよという姿勢をとった。

「私、三か月ほど前、プレイヌに立ち寄っていたんですが、そこで尋ね人の話を聞いたんですよ」

ラウドの視線は、ハルカの姿を飛び越えて、後ろに向けられているように思えた。何か嫌な感じがして、ハルカは身動ぎする。

「どうも小さな子供がさらわれたという話があるそうで、それが、黒髪黒目の、丁度あなた方が連れているくらいの子らしく……」

話の途中でハルカは目を見開いて、じっとラウドを見つめた。ラウドの口が閉じられて、アイーシャがびくりと体を動かす。

もしやナギの話にかこつけて、最初からこの話をしたかったのか。竜が好きだというのが演技であるようには思えなかったが、淡白な気味の悪さはもしかしたらそこから来ていたのかもしれない。

もしこれが帝国からの諜報員だとしたら、ただそのまま帰すわけにはいかない。少なくとも口封じをする必要がある。どうやってやるのか、思いつかない。思いつかないけれど、やらないわけにはいかない。少なくとも、まず、相手を制圧する必要はある。

争いは好まないが、守るために戦う必要があることをハルカは既に身をもって学んでいた。

ハルカが自らの頭の上に、炎の矢を無数に発現させたのは、アイーシャが得物に手をかけるのと同時だった。

その直後、モンタナがはね起きて、それと同時に剣を抜く。反射的な行動だったらしく、魔法と、ラウドたちの様子をよく観察してから、モンタナはゆっくりとハルカの傍まで歩いてきた。

「……一応、話の続きをどうぞ」

ハルカはモンタナが後ろから歩いてきているのにも気づかない。

じっと正面にいる相手を睨みつけたまま、静かな低い声で続きを促した。