軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

大将

圧倒的チンピラ感は、かわいらしい動物の耳や尻尾を持っても相殺されないことをハルカは身をもって学んでいた。

面接が後になればなるほど、威圧的であったり、何かを企んでいそうな人が増えてくる。稀に普通の人が混じっているので、途中で打ち切るわけにもいかず、面接は日が暮れるまで続いた。

ノクトは結局一度も怒り出すことなく、かといって相手に決定的な暴力行動をとらすこともなく、面接を終えた。矢面に立っていないハルカでさえ、嫌な気分になったというのに、ノクトは平然とした表情を崩すことがなかった。

面接をしながらとったメモをまとめて、合否を分ける作業をはじめると、ダグラスが軽食をもって部屋に戻ってきた。毛むくじゃらなせいで、表情は分かりにくいのだが、どうも怒っているらしいことは分かる。

ノクトが資料に目を落として作業を進めていると、デスクの上にバスケットを置いたダグラスが、口を開いた。

「ここ数年、ああいった輩が増えてのう。実際に大将に見てもらってから方針を決めようと思っておったんじゃ。だから加入を保留しておったんじゃが……。大将が中々帰ってこんせいで、きちんとした子らまで待たせてしまったのは反省じゃな」

「いやぁ、完全に舐められてましたねぇ」

ノクトが笑いながら言うと、ダグラスが丈夫そうなデスクを平手でたたいた。

「笑い事か! 儂はうちが馬鹿にされるのも、大将を馬鹿にされるのも我慢ならんぞ。どう対処する気じゃ」

ダグラスの言うこともわからないでもない。

仮にも自分の師匠に対して、馬鹿にしたような態度をとる人たちには、ハルカも嫌悪感を覚えていた。確かに頼りなさそうに見えるかもしれないけれど、中身は立派な、尊敬すべき冒険者なのだ。これから所属しようという組織の長を、見た目だけで見下すような人たちとは、意見が合うとは思えなかった。

そのうち何かしてくれるだろうと思っていたのに、何も起こらないまま面接が終わってしまって、ハルカも拍子抜けだった。

「さて、どうしましょうかねぇ。とりあえず厳正な審査をしてから考えようと思ってますよぉ」

むむっと難しい顔をしたダグラスは、腕を組んで考え込む。ノクトはさらに笑いながら続ける。

「ダグラスは変わりませんねぇ」

「大将はちょっと変わった」

「そうですかねぇ。根っこの部分はそう変わっていないと思いますが」

「そうでなきゃ困る。とにかく、何も考えがないわけではないんじゃな?」

「ええ、もちろん」

「なら信じる。……ハルカさんは今日の奴らを見てどう思った?」

秘書のように黙って佇むハルカに向かって、ダグラスが問いかける。責めるような雰囲気はなく、単純な好奇心からの質問であるように思えた。

ハルカは下手に言葉を誤魔化さずに素直に答えた。

「師匠のことを馬鹿にした雰囲気があったので、気分は良くなかったですね。もどかしく思いました。失礼と思われるかもしれませんが、ダグラスさんと近い感情を覚えたかと」

「ふむ……、ふむ!」

何かを納得した様子で差し出された手を握ると、ダグラスはそれをぶんぶんと振るった。それ以上の言葉はなかったが通じ合うものはあった気がした。

「僕を差し置いて、何を二人で分かり合ってるんですかねぇ」

「大将は儂らの期待に応える義務があるんじゃ。ずいぶん待ったんじゃからな」

そう言って部屋から出ていったダグラスは、もう機嫌が直っているように見えた。真面目そうで、老獪そうに見えたダグラスも、結局のところ心根は冒険者なのだ。

きっとノクトという人にあこがれを持って、この世界で生きてきたのだろう。最後に残された言葉が、それを証明していた。年の離れた同志が見つかったような気がして、ハルカは嬉しかった。きっとダグラスも同じ気持ちだったに違いない。

しばらくしてメモを分け終えたノクトは顔を上げて、背もたれに寄りかかった。

「さて、明日には公表しましょう。はい、見ていいですよ、受かった人と落ちた人」

ずずいと二つの紙束が前に差し出されたので、ぺらぺらとめくってみる。大体は想像通りの合否となっていた。偶に真面目そうに見えた人が落ちているのが気になったが、その基準はノクトに任されてるから、ハルカからは何も言わない。

ただその名前を見ているときに、一瞬動きが止まったのに気付いたのか、声をかけられる。

「その人はねぇ、多分他の人たちの仲間ですよ。うまく装っていましたけど、落とされたときに中に潜り込むための要員です。意外と本気で組織に入り込む気でいたみたいですねぇ。まさか獣人以外とも協力しているとは思いませんでした」

「……なぜそうまでして 宿(クラン) に入りたがるんです? 彼らは街では顔役なんでしょう?」

「欲が出たからでしょうねぇ。この国には大きな街が少ないんですよ。それに、国内では一番外への窓口が開かれています。どちらかといえば、獣人たちより、ハルカさんが目を止めていた、その人間の方がくせ者かもしれません。それらしいことを言っていましたが、恐らく王国の人間でしょう」

ノクトは立ち上がり、ハルカの横まで歩いてきて悪戯っぽく微笑んだ。

「ハルカさんは、もうちょっと人を見る目を養いましょうねぇ。モン君に頼ってばかりじゃいけませんよ」

「うっ……。はい……、気を付けます」

「よろしい。ダグラスは僕に何か行動を起こしてほしそうでしたが、何もしなくても勝手にあちらが動き出しますよ。僕らがやるのは、それまでに彼らの正確な素性を調べておくくらいです。……懐に入り込まれて、土産もなく返すわけにはいきませんからねぇ」

口元の緩みが消えたノクトの表情は、冷たく、歴戦の冒険者というにふさわしいものに変わっていた。