軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

大人の贅肉

座り込んだリルを全員で囲い込み見下ろす。

どこかに武器を隠している可能性も考慮してか、仲間たちは武器を構えたままだ。

リルとの距離はハルカが一番近い。一番丈夫なので、その立ち位置に否やはなかったが、魔法使いとしてどうなのだろうという疑問はあった。

「事情を聴きます。話してください」

場慣れしているであろう相手に対して、言葉を弄したくはなかった。どこからこちらの事情を悟られるかわからない。できるだけシンプルに、相手の話の真偽を確認するつもりでいた。

そもそもノクトがいて、女王たちがどうにかなるとも思えない。万が一ということもある。どちらかといえば、自分たちが騙されて足を引っ張るようなことになることを避けたかった。

「俺は、女王陛下の裏の耳であり手足だ。今回は陛下からいただいた任務でここに来た。その協力者として、お前らがふさわしいかどうか試させてもらった。これは陛下や、ノクト様から言われたことではなく、俺から提案したことだ」

「お二人はなんと?」

「任せる、油断はするなと。とはいえ、四級冒険者相手に、まさか自分の擬態が見破られるとは思っていなかった。油断もしたつもりはなかった。少し前に戻れるのなら、最初から協力を仰いでるんだがな」

「嘘はないです」

「……どういう原理なんだ、それは。そんなのあったら俺たちみたいな裏の住人は商売あがったりだぞ」

眉を顰めてリルは唸った。

フードを取るまでは、ハルカだってすっかり騙されていたのだ。モンタナの能力が、いかに得難いものかがよくわかる。

「依頼の内容を聞きましょう。ここから先も常にあなたは試されていると思って発言してください」

リルは小さなため息とともに、肩を竦めて首を振った。

「肝に銘じておくさ。もうお前らをその辺の冒険者だとは思っちゃいないからな。依頼内容はこうだ」

リルは淀みなく依頼内容について語る。ハルカたちから質問が入る前に、先回りして補足を入れてくるところを見るに、コミュニケーション能力の高さがうかがえた。

能力に鑑みると、普段から変装して潜り込むような任務をしているだろうから、当然ではあった。

依頼内容はそれほど難しくない。シンプルに言えば、偽女王の護衛をして、あぶり出された敵対勢力を殲滅しろだ。エリザヴェータは、ハルカたちのことをきちんと冒険者として扱っており、報酬もたんまり用意されている。この依頼人を信じることさえできるのなら、断る理由はない。

ノクトが戻ってくるのに少し時間がかかっているのは、王城内で、敵を油断させるために工作をしていたからだという。つまり、女王様ときゃっきゃと楽しく遊んで、美味しいものを食べて、仕事をさぼっているらしい。

その流れで油断しきった女王が、ノクトの知り合いであるぽっと出の冒険者たちだけを護衛にして、街の外へ出かけるというストーリーらしい。

一見詰めが甘いようにも思えるが、手の打ちようがなくなって潜っている勢力からしたら、チャンスに見えるだろう。

そういう頭の回りきらない、いつ暴走するかわからない状況下にいるネズミたちを排除するための作戦なのだという。

仲間たちが、各々依頼内容について考えを巡らせる中、ハルカは王城での食事について思いをはせる。すると沈黙を避けたかったらしいリルが、自分の事情について語りだした。

「お前らが頼りにならなかったら、部下たちとおびき出した奴を囲む手筈になっていた。だから一応そいつらにも、遠巻きに待機していてもらうつもりだ。そもそも俺の擬態さえばれなければ、その方がいいと思ってたんだ。本物を守ってると思ったほうが、お前らも自然な動きができるし、やる気も出るだろう? これでも今まで様々な困難な任務をこなしてきたんだ。まさか若い冒険者なんかに見破られるとは思わないだろ?」

「嘘じゃないですけど、冷静を装ってるです。失態を少しでも取り戻そうとしてるです」

「おい! こいつちょっとやめさせてくんねぇかな!? マジでやりにくいんだけど!」

「大きな声出して誤魔化そうとしてるです」

追撃されて黙り込んだリルに、ハルカは少し同情した。大人にはいろいろあるのだ。本音だけ話して生きていくのは難しい。彼の語る言葉に対して、既に嫌悪感は持っていなかった。

大人らしい見栄やプライド。それに確実に任務をこなそうという意思。失敗したときに、現実をきちんと認識しなおして、それ以上に墓穴を掘らずにいられる。

総合的に見れば、優秀な大人であるように思えた。

少なくとも、チャレンジも提案もしない、淡々と毎日を過ごしていた当時のハルカよりはましだ。彼の生き方には、誇りと情熱がある。

だからといって、手心を加えるかと言うとそれはまた別の話。最後にもう一度、彼の人柄を確認しておくことにした。

「リルさん。あなたはリーサの部下ですよね。なぜ彼女に仕えているんですか?」

「恩があるからだ。尊敬しているからだ。俺は女王陛下のために殺せるし、死ねる。彼女に惜しまれて死ぬのなら、それ以上の名誉はない」

「……本当です」

その答えは、今までのどんな言葉より、まっすぐで迷いがないように聞こえた。

「……コリン、報酬がいいですね」

「そうねー、それに王国に対して恩が売れる!」

「戦えそうだし、いいんじゃねぇの」

「この人面白いです」

ハルカの声かけに、何を言いたいか察した仲間たちが、それらしい言葉を返してくれる。ハルカはリルに会ってから初めて表情を柔らかくして告げた。

「いいですよ。依頼お受けしましょう」