軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

強くなる方法

宿に戻ってみると、二人は裏庭で唸っていた。

ハルカは訓練の邪魔にならないように、庭の端によって腰を下ろした。ベッドの中ではユーリが、卵の頭をじーっと見つめている。前より幾分かひびが広がっているように見えた。

イーストンから貰った指南書によれば、大型飛竜の赤ん坊は生まれたときから肉を食べるそうだ。強い生き物だから、食べてはいけないものもないそうで、栄養さえ与えとけば育つという。

成長も早く、一年もすれば中型の飛竜くらいの大きさになる。自然界ではのんびりと成長している時間もないのだろう。早く大きく強くなることこそが、野生で生き残る最適な手段だったに違いない。

そこまで大きくなると、そこからの成長はゆっくりで、十年ほどかけて大型飛竜くらいの大きさになる。楽しみではあるが、食費は随分かかりそうだ。しっかりお金を稼がなければ破産しかねないだろう。

ユーリがこっそりとひびの入っている部分をつついたり、軽くたたいたりしているのを見て、ハルカは微笑んだ。

卵に夢中になっているユーリから目を離し、訓練を続ける二人の方に視線を戻す。モンタナがハルカの隣に座って、短剣とその鞘を手に持ち、それらをじっと見つめている。ハルカには見ることができないが、モンタナには魔素で作られた、抜き身の剣が見えているはずだ。

見られていることに気付いたモンタナは、剣をしまってハルカの方を見た。

「二人も成長するみたいですから、僕もちょっと新しいことを本格的に試してるですよ」

「この間成長を見せてもらったばかりですよ?」

見えない剣。

それは相手にとって脅威であるし、奥の手というにふさわしい技であるように思えた。それでもなお立ち止まろうとしないモンタナの姿に、ハルカは感心する。

モンタナはおっとりとした見た目で、背も小さく可愛らしいが、内に秘めた情熱で言えばアルベルトに勝るとも劣らないものを持っている。その証拠に、アルベルトと二人で勝った負けたと言いあっているときに、モンタナが譲る姿を見たことは一度もない。

「立ち止まっている暇はないです。僕もアルも、身近に追いつかなきゃいけない相手がいるですから」

ハルカが何の話かと首をかしげると、モンタナはうっすらと笑い立ち上がる。

「頼りにならないと、また泣いちゃうですからね。ちょっと買い物行くです、新しく作りたいものができたですから」

モンタナが裏庭から姿を消すころには、ハルカも何を言われたのか察して、どこに向けていいかわからない羞恥心を覚えた。中々涙など流さないのだが、前の一件では自分が駄々っ子のように暴れた自覚もあった。

事情が事情だったので、違う対応ができたとも思えない。だからってこうして蒸し返されると恥ずかしくはあった。

ハルカが一人悶えていると、モンタナがひょっこりと裏庭に戻ってきて、杖を差し出した。その頭には昨日王宮で選んだ、宝石がはめ込まれ、光を反射している。漆黒の中に小さくきらめく複数の光は、確かに夜空のようにも見えた。杖全体がクリーム色をしているから、宝石の輝きが余計に映える。

杖の太さは頭以外はほぼ均一だったが、頭のすぐ下と杖の先端側はわずかに削られ波打っている。受け取って波打つ部分を握ってみると、ぴったりとハルカの指にフィットした。

あつらえたような、ではなく、ハルカに握りを確認しながらあつらえたのだから当然だった。

「思い切り振りまわして叩いたら、いくら真竜の牙でも、多分壊れるです。加減をするか……、アルたちみたいに纏いを覚えるといいです」

ハルカが握りの確認をしているうちに、モンタナはさっさとまた裏庭から出ていこうとしている。

「モンタナ、ありがとうございます。大事に使います!」

慌てて後ろ姿に声をかけると、モンタナは振り返らずに尻尾をぴんと立てて、耳をパタパタと動かした。

「折って直してもいいですけど、できるだけ折らないでもらえると嬉しいです」

「……気を付けます」

自信を持って返事はできなかったが、ハルカも故意に折るつもりなんてない。モンタナがその返事をどうとらえたかはともかく、そのまま尻尾をゆっくり左右に揺らしながら宿の中へ消えていった。

初めて持つ自分専用の武器だ。本来魔法使いの持つ杖は、武器として扱うものではない。しかしモンタナはこれを作っているときに、振り回すのを前提として握りやバランスを調整していた。だとすればやはりこれは、ハルカの専用装備に他ならない。

立ち上がって軽く振り回してみる。

いつも訓練の時に振り回していたその辺の木の棒とは、段違いの握り心地だ。頭側をもって一振り、先端をもって一振り。後者の方が風を切る音は重い。頭側には宝石がはめられて幅広になっているからだろう。

面白くなって右手左手と持ち替えて振り回していると、横から情けない声が聞こえてくる。

「はるかー、たすけてー」

庭に大の字で横になって弱弱しい声を出しているのはコリンだ。身体強化に集中しすぎて、疲労が限界に達したのだろう。動いたわけでもないのに、ひどく汗をかいている。

「はいはい、今行きますよ」

ハルカがゆっくり歩いて近寄っているうちに、その隣でアルベルトもバタンと倒れた。首だけ振ってハルカの方を見て「俺も」と当たり前のように言われて苦笑する。

エイビスとの話を切り上げてきてよかったと思いながら、二人に治癒魔法をかける。すぐさま起き上がった二人は、ハルカに礼だけ言ってすぐにまた身体強化を始めてしまった。

普通は精神的な疲労もあるから、いくら身体が元気になったからといって、すぐに訓練を再開したりはしない。元気があるからと言って、期限が切られていない仕事にすぐに取り組む気にならないのと一緒だ。

ハルカはしばらく二人の様子を眺めてから、元の位置に戻って座り込み、杖をぎゅっと握った。

隣では相変わらずユーリが卵とにらみ合っている。

身体強化、よくわからないが自分もそれができているはずだ。だったらきっと纏いだってできるはず。

モンタナは自分ですらよくわかっていない強さまで追いついてくるといっていた。ならば自分だってそこに留まっているだけではいられない。少しでも自分の力を理解して、コントロールできるようにくらいなっておきたい。

ハルカは纏っているはずの自分の魔素を意識してみる。

今はまだその片鱗も感じられていない。それでもまるで成長しないってこともないはずだ。きっとそれが強くなる努力というものなのだ。

仲間たちの行動に触発されたハルカは、新たに一人でも訓練をするようになるのだった。