軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

三百七話目 杖の仕上げ

お茶と軽食を出す店で注文を済ませて全員が席に着く。

一応エリザヴェータの左右はハルカとノクトで固めているが、果たしてこの配置が正解なのかハルカにはわからない。

エリザヴェータはどのくらい戦えるのだろうかとか、ケーキを注文していたが毒見役はいらないのだろうか。

思考を巡らせてみたものの、護衛のイロハが分からないものだから、この考えは休むに似たりというやつではあった。

結局本人に聞くのが一番早い。

「リーサは毒見とか必要ないのですか?」

「一般的に流通している毒であれば、慣らしてあるから問題ない。もし何かあっても、ノクトじいがいれば大丈夫だ」

ノクトへの信頼もあるのだろうけれど、それ以上に王族という身分の過酷さを感じる。さらっと毒は慣らしてあるというが、きっとその行為には苦痛が伴うのではないか。それも一日二日でどうにかなるようなことでもないはずだ。

彼女の日常を知っているわけではないけれど、こうして外に出る時くらい楽しんでくれればいいのだがと、ハルカは妙な老婆心を抱いていた。

いつもおしゃべりなコリンも、女王を前にするとそれほど喋らない。そこから辿って思い出してみると、コリンは案外偉い人や有名な人の前に出ると大人しい。ただそうすると何か話題を提供する者もいない。

ハルカも口下手だったし、既にめぼしい話はしてしまっている。

仲間に助けを求めようにも、アルベルトは店の外で腕を組んで営業妨害気味なリオルの方を見張っている。モンタナは貰った竜の牙を削り終えたのか、袖から宝石を出したりしまったりして、装飾を見繕っている。

こういう場でこの二人は圧倒的に頼りにならないのだ。

特に誰もしゃべりださないのを見て、エリザヴェータが口を開く。

「それは、何をやっているのだ?」

「……ハルカの杖作ってるですよ」

「素材は?」

「真竜の牙です。やっと削り終えたです」

「どこかで拾ったのか?」

「大竜峰の真竜さんがくれたですよ」

「モンタナといったか、お前は杖を作る技術があるのか?」

モンタナは一度手を止めて、杖を膝の上に乗せた。顔を上げて何を尋ねられたのか考え、そして首を横に振った。

「普段使用する、あるいは武器として振るうための杖を作るくらいはできるですけど、魔法使いの杖を作る技術は学んでないです」

「なるほど、必要ならうちの技術者の手を貸すが? 魔法使いなら専用の杖を持っていてもいいだろう」

モンタナはまた少し考えてから、ハルカの方を向く。

「……ハルカはどうです?」

魔法使いの杖。

ものによっては使用者の魔法操作や威力の補助をする効果をもたらすと、何かで読んだことがあった。

普通に考えれば、エリザヴェータに預けて、良いものに仕上げてもらうのが正しいような気もするのだが、どうも気が進まなかった。モンタナの作ってくれたものを使いたい、という感情がある。

エリザヴェータからの厚意を無下にするのではないかという思いと、その感情を天秤にかけた結果、ハルカはさほど迷わずに答えを出した。

「申し出はありがたいのですが、私はモンタナにそのまま仕上げてもらいたいと思っているようです」

耳を撫でると指にカフスが当たる。

毎晩モンタナが丁寧に杖の形を整えてくれているのを見ていた。何度も手渡されて、持ち手の調整をしてくれていたのも知っている。職人気質のモンタナはきっと最後まで仕上げたいと思っているだろうし、自分もそうしてもらいたいと思っていた。

エリザヴェータはふっと破顔する。

「そんな風に心配そうな顔をするな。妹弟子がここから旅立つ前に、何か贈り物をしてやりたいと思っただけなのだ。そうだな、先ほど杖につける宝石選びで悩んでいただろう? ここを出たら一緒に城の宝物庫に来て良いものを見繕うといい。それを提供するくらいならば、作成の邪魔にはならないだろう?」

「助かるです。もう少し大きいのが欲しかったですから。好きなのを選んでいいです?」

「ああ、好きに選べ。目利きが試されるぞ」

「似合うの探すです」

エリザヴェータは満足そうに頷いた。

ハルカにプレゼントができることで満足したらしい。

お金持ちの感覚は難しい。小鳥に餌をあげるような感覚なのだろうかと、ハルカは横目でエリザヴェータの顔を覗き見た。

「そういえば、モンタナは獣人にしては珍しく小さいな。外にいる獣人のように、背が高くしなやかな体つきをしたものが多い印象だったのだが……。なぁ、ノクトじい。よく見てみれば、顔立ちがじいに似ている気がするぞ。もしかして親類なのではないか?」

「僕も親類全てを把握してるわけではありませんからねぇ。でも確かに僕の一族に体つきが小柄な、珍しい獣人が多いのは事実です」

言われてモンタナとノクトを見比べると、目鼻立ちが似ている。

二人以外の獣人のサンプルが少なかったせいで、似ているのは種族的なものかと思っていた。しかしリオルの様な体つきが一般的なのだと知ってしまうと、エリザヴェータの冗談もあながち否定できないものがある。

獣人の国ではモンタナの血縁も探すつもりでいたが、もしかしたら案外簡単に見つけることができるかもしれないとハルカは思うのだった。