軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

宿主のお仕事

「では譲っていただくとして、怪我を治しても?」

「はっ、負けて治してもらっちゃ男が廃るぜ」

「はいはい、良いから治しましょうねぇ。黙っててもちゃんと完治する類の怪我ではないですよぉ」

すーっと、移動してきたノクトが、男の肩に触れて治癒魔法を使う。ノクトだったら攻撃されてどうなることもないだろうが、念のためハルカはいつでも間に入れるように身構える。アルベルトも護衛にすっかり慣れたもので、剣を抜いてすぐ横に立っていた。

男は鼻にしわを寄せて何かを言おうとしたが、ぎりっと奥歯を噛んで黙り込んだ。治された腕を動かし、手を幾度か握り開く。

そうして鼻から勢い良く息を吐いて、その場に胡坐をかいて座り込んだ。

「とにかく俺の負けだ。好きにしやがれ」

「こっちからお前に用はねぇんだよ」

呆れたようにアルベルトが答えて、剣をしまう。

よく観察してみればこの男、体は大きいが顔には少し幼さが見える。もしかしたら自分が思っているより随分若いのではないかと、ハルカは考える。

ハルカが周りを見回すと、囲んでいた民衆の一部が後ずさりした。どうも怖がらせてしまっているようだと気づき、ハルカは男に提案した。

「師匠に用事があるのは分かりました。名も身分も知らぬ相手にこれ以上付き纏われるのは迷惑です。少し話をしましょう。ここでは皆さんのご迷惑になりますので、一度道の端に寄ってください。……リーサ、少し時間をいただけますか?」

少し離れたところで腕を組んでいるエリザヴェータに声をかける。

「別に構わん。面白そうではあるからな」

「ありがとうございます。アル、あちらがエリザヴェータ陛下です。失礼のないようにお願いします」

アルベルトの耳にこそりと告げると、アルベルトが値踏みするようにエリザヴェータを見る。

「ふぅん。なんか話の分かりそうな奴だな」

その発言も態度も、全てが非礼極まりなかったが、本人に聞こえないように小声でそう言ったことをアルベルトの成長ととらえるべきか。ここが城中でなくてよかったとハルカは思うのだった。

男は立ち上がるとやはり背が高い。

アルベルトもかなり身長が高くなっていたが、それよりもさらに少し体が大きい。

全身にしなやかな筋肉がついていることが見てわかり、ノクトやモンタナと見比べると、とても同じ種族とは思えないほどだ。

「リオル=フォルティス、獅子の獣人だ。『月の道標』の仮メンバーだ」

「……『月の道標』ですか」

ノクトが作った 宿(クラン) の名前だ。獣人の国を拠点にしており、規模はかなり大きいとハルカは聞かされている。

「あぁ、やっぱりそうなんですねぇ。 宿(クラン) の紋章を持っていたので、そうなんじゃないかと思ったんですよねぇ」

「そうなんじゃないか、じゃねぇだろ。あの場で確認すりゃよかったじゃねぇか」

「えぇー、だって連れ戻しに来たかもしれないじゃないですか。一度ここにも寄っておきたかったですから、あそこから進路変更は困るんですよねぇ」

「えぇー、じゃねぇんだよ、ったくこのジジイは」

横に並んだアルベルトが頭を軽く小突くが、ノクトはしっかり障壁でガードしている。

「なるほど、仮メンバーですか。えーっと、それでなんで師匠を探していたんです?」

「ここ数年、加入しようとした奴らが全員、こいつが不在のせいで仮メンバーにされてるんだよ! 宿主代行が、その許可は宿主しかできないって言って、入れてくれねぇんだ。だから見つけて連れて帰ろうと思ったんだ」

「あーあー……、それは師匠が悪いですね」

「勝手に許可していいって言ったと思うんですけどねぇ……。なにぶん年なので、よく覚えていませんけど。ダグラスさんは生真面目ですからねぇ」

ノクトに悪びれる様子は全くない。おそらくなぜ自分がリオルに追いかけられているのかも理解していたのに、あえて放っといたのだろう。なぜそうしたのか、正しい答えをハルカは持っていなかったが、今までの経験から行くと、面白そうだから。

ハルカは自分のことはともかく、リオルに対しては同情していた。

「私たちは、師匠がそちらの国に戻るための護衛をしています。ですので、この国を出た後はちゃんと戻りますよ。長くとも半年はお待たせしないでしょうから、もう少しお待ちいただけませんか?」

「半年か……。俺は敗者だからな、勝者の言うことは聞いてやるよ。なんで古参のメンバーは、こんな奴をいつまでも頭にしておくんだろうな……」

きっとノクトを睨みつけるリオルは、やはり年が若そうに見える。失礼かもしれないと思いつつも、ハルカは尋ねる。

「ところでリオルさんっておいくつですか? 立派な体格をされてますけれど」

「十五歳だ。去年やっと 宿(クラン) に入れる歳になったのに、一年も待ちぼうけだ!」

「はぁー、十五ですか。アルと同い年くらいですね」

「ハルカもたいして変わらねぇだろ」

「はい、そうでした」

すっかりおじさんのつもりで発した言葉をアルベルトに突っ込まれる。年齢について話すことも少ないので、たまに忘れそうになる。ハルカは危ない危ないと思いながら、素直に頷いた。

「僕のがお兄さんです」

音もなく現れたモンタナが、ハルカの横に立ってリオルを見上げていた。

誰が見たって、年上はリオルだ。

アルベルトの身長がにょきにょき伸びていくのに対して、モンタナは出会った時とサイズが変わっていない。この年齢から考えると、恐らくモンタナの身長はもう伸びないだろう。

リオルは、怪訝な顔でモンタナを見つめ返し呟く。

「猫の獣人、にしても小せぇな……」

ハルカはモンタナとノクトを見慣れているせいで、獣人のサイズはそれほど大きくないのかと思っていたが、認識を改める。愛らしい獣人たちが歩き回る国を想像していたが、どうも獣人の国の想像図を修正する必要がありそうに思えた。

そういえば、とノクトに抱き着いていたエリザヴェータを思い出したハルカは、モンタナに対してはどうなのだろうと様子を窺う。

エリザヴェータは意外なことに、腕を組んだまま、楽しそうに事態を見守っているだけで、モンタナに異様に注目したりはしていなかった。ここが往来だからか、それとも好みでなかったのか、あるいはノクトだけが特別なのか。

どちらにせよ、モンタナが逃げ回る事態にならずによかったと思うハルカだった。