軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

成長

もうあと数日で王都に到着するというある日の昼間のこと。

短剣をじーっと見つめて難しい顔をしていたモンタナが、ふっと体の力を抜いてそれをしまった。

「ハルカ、お願いするです」

「はいはい、お疲れ様です」

「ハルカ、私も」

「俺も」

「はいはいはい、ちょっと待ってくださいね」

わらわらとそばに寄ってきた仲間たちに順番に治癒魔法をかけてやると、ユーリがベッドから乗り出して、膨れ面で声を上げる。

「まま、ぼくも」

「え、あ、はいはいはい」

まさかユーリまで身体強化の訓練をしているわけではないだろう。ただ自分だけ仲間外れな気がして寂しかったのだろうと思い、ハルカはユーリの頭を撫でて一応治癒魔法をかけてやる。

最近のユーリはベッドで竜の卵を抱えて、あまりそこから出てこない。偶に中から音がすることを報告してくれるので、孵化が近いのかもしれないとハルカは思っていた。

「後ろにこの前の獣人がついてきてるですよ」

全員が近くに集まったところで、ぽつりとモンタナが言う。誰も振り返ることをせず、視線だけのやりとりをして、また横並びで歩き出す。

「いつからついてきてるんです?」

「ちょっとさっきです。さっき茂みに入ったとき姿の確認したから本人で間違いないです」

「こりねぇ奴だな。次はハルカに頭かち割られるかもしれねぇのに」

「……この間のはちょっと失敗しただけです」

「いいのいいの、あっちが悪いんだから失敗して頭がパーンってなってもハルカは悪くないからね?」

可愛らしく小首をかしげてフォローしてくれたらしいコリンの言葉は、ハルカの胸により深いナイフを突き刺した。

全く信用されていない。結構頑張って訓練しているつもりなのに。

手合わせしているときに、たまに骨を折ってくるような相手を信用するほうがおかしいのだが、ハルカもその辺りの感覚がどうもおかしくなっている。

ハルカだって身体強化していない状態の相手に対してだったら、失敗することなく手加減できるのだ。

何が難しいかと言えば、相手の身体強化のレベルに合わせての手加減が難しい。これはもうなんとなく感覚で理解するしかないものだから、どうしても死なない程度に、という大雑把な区切りになってしまう。なにせもし手加減しすぎてしまうと、有効打を放つことができないのだ。

そうなってしまうと仲間に迷惑がかかる。

だったら、ちょっと強めに。

怖がって人に対して碌に攻撃できなかった頃を思えば、精神的には素晴らしい成長ぶりである。しかし手加減という点においては、どうしても信用されずにいた。

「んで、どうすんだよ。またハルカに頭殴らせるのか?」

「仕掛けてこないならいいんじゃないですか? モンタナは常に相手の状態を捕捉できる状態なんでしょう?」

「まぁそうです」

「うん、次に来たらちゃんと一発目で肩を外すようにするから、大丈夫」

「では相手から仕掛けてくるまでは放っておきましょう」

結論が出てしまえばハルカもそれ以上気にしたりはしない。モンタナのことを信用していたし、冒険者として神経が太くなったともいえるだろう。

各々がまた訓練をしながらいつも通りに歩いていると、モンタナが片手に鞘、片手に剣を持って難しい顔をしている。また何か新しいことをしようとしているのだろうかと、しばらく見てみる。

じっと見ていると、モンタナの視線がすーっと動いて、目が合ってしまった。

「どしたです?」

「いえ、邪魔してすみません」

人のことばかり見ていないで、自分の訓練もするべきだ。

ハルカはウォーターボールをあちこちに浮かべては消す。魔法を視界内の思った場所に、即座に発動させる訓練だ。

今はまだ時間がかかるが、少しずつ早くできるようになっている。

モンタナが休憩中には、自分を中心に割り振った番号を言ってもらって、その場所に魔法を出す訓練をしている。これが上手にできるようになると、今回みたいな追跡者をピンポイントで仕留めることができるのだ。

自分を中心に周囲のことを常に意識しているうちに、最近では人の気配というのも、ほんの少しわかるようになってきている。訓練結果にハルカは手ごたえを感じていた。

王都ネアクアにつく前の、最後の子爵領の街に到着したのは夕暮れのことだった。

宿を訪ねてみると、大部屋しか空いてなかったので、全員で雑魚寝することになった。普段も野営をしていて同じような状態なので、特に気にするようなことでもない。

食事がでるような宿でもなかったので、外で買い込んできたものを食べながら、明日以降のことを話していると、突然ユーリが興奮して騒ぎ出した。

「つのでてきた! みて、たまご!」

「お、マジかよ!」

アルベルトが四つん這いのままどたどたと駆け寄ったのを最初に、全員がユーリの周りに集まった。

確かに卵に割れ目ができて、そこから角のようなものがのぞいている。

「てつだったほうがいい?」

「……ちょっと待ってくださいね」

ハルカはカバンの中を漁って一枚の紙を広げた。

イーストンが竜の育て方についてのメモを預けてくれていたのだ。

「えーっと、そのままその子に任せましょう。ひびが入ってから出てくるまで数日かかる場合もあるそうですが、卵の中に栄養を持っているので特に心配ないそうです。三日以上しても殻が割れない場合は、手伝ってあげましょう」

「そっか、じゃあもうちょっと時間かかるんだねー」

「その間、お前が守ってやれよ」

「うん」

アルベルトがそう言って頭をガシガシと撫でてやると、ユーリは素直に頷いて、ひびの入った大きな卵を抱きしめる。子供の成長は動物と一緒だといいという話を思い出しながら、ハルカは目を細めてユーリの姿を見つめるのだった。