軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ちぎっては投げ

帰り道は途中で巨人に出くわすこともなく順調だった。カタンはそれも含めてこの道を最短ルートとして教えてくれたのかもしれない。そうだとすればやはり優秀な指揮官なのだろうとハルカは思った。

ハルカはこの世界に来る前の自分を、凡庸で毒にも薬にもならない人物であると自覚していた。

もし自分がこの世界に来た時前の姿と能力のままで、この辺りに現れてしまったら。そうして一兵士として過ごして死ぬんだとしたら、できればあんな風に、自分の死を悼んでくれる上司の下で働きたいと思うだろう。

たらればの話だ。考えたところで仕方がないが、安全な道を歩いていると、そんなことを取り止めもなく考えてしまうものである。

森の中で一泊して、一日歩き通すと、遠くに本陣が見えてきた。夕暮れに差し掛かっていたが、篝火がたくさん焚いてあるので、昼間よりも目立つくらいだ。

入り口に近づくと、警備をしている兵士に敬礼をされる。

出かける頃はろくに挨拶もされなかったのに、いったいどういう心境の変化だろう。ハルカは怪訝に思いながらも、ぺこっと頭を下げて陣地へ入っていく。

報告のためにヴェルネリが執務室として使っている小屋を目指していると、なにやら大きな声で盛り上がっている場所がある。

通り道からそう離れていなかったので、ハルカたちは示し合わせることもなく、そちらへ足を向けた。

仕事中でない兵士が数多く集まっており、訓練場をぐるっと囲んでいるせいで中が見えない。

ハルカとアルベルトがどこか空いている場所がないか探しているうちに、モンタナだけが兵士たちの足元を縫うようにして、スルスルと前へいなくなってしまった。

「まま」

悩んでいると、頭上から聞き慣れた声が降ってくる。視線を上げると、ノクトとユーリが兵士たちの頭上に浮いているのが見えた。うっすらと足下に桃色の障壁が張ってあるのが見える。

なるほどと思ったハルカは、障壁で階段を作って、二人の下まで上がっていった。

まずは手を伸ばしてハルカを歓迎しているユーリを持ち上げて抱きしめてやる。

「はい、ハルカが戻りましたよ。ほら、アルもいます」

一度ぎゅっとしてから、後ろからついてきたアルベルトに腕を伸ばしユーリを受け渡す。

アルベルトもニカっと笑って、ユーリを抱き上げた。

「おう、元気そうだな」

「アルもげんき。コリンもげんき」

「……だな、何やってんだあいつ。一緒に来ないって言っておいて、ここで兵士しばき回してたのか?」

訓練場を見て呆れたように言うアルベルトを見て、ハルカもそちらに目を向けた。階段を上がる間は、ずっとユーリが自分のことを呼んでいたので、そちらを見る暇がなかったのだ。

訓練場では数人の兵士が地面に倒れていた。さらに棒を持った数人の兵士が、コリンに向かって襲い掛かっている。

何事かと一瞬足に力を込めたハルカだったが、兵士たちが次々に捌かれ、地面に転がされていくのを見て、身を乗り出したまま停止した。

最後の一人が、完全に腕を極められたところで、一番前まで出てきていたモンタナの姿をコリンが見つけた。

「あっ、モン君帰ってきてたんだ。おかえりー!」

「こ、こうさん、いたただだだ! コリン殿降参です!」

「あ、ごめん」

片手で腕を極めたまま手を振るコリンに、兵士が悲鳴を上げながら降参を宣言する。コリンが慌てて手を離すと、その兵士は涙目で少し離れて地面に座り込む。

「ってことは、あ、アル、ハルカも! おかえりー」

ブンブンと手を振るコリンはとても元気そうだ。出かける前に悩んでいたのが嘘のようにすっきりとした顔をしている。

「なんだよ、一人で楽しそうなことしやがって」

文句を言いながらもアルベルトの顔は嬉しそうだ。元気そうなコリンの姿を見て安心したのかもしれない。

「師匠、これはいったい、何があったんですか?」

「んぅ、本人から聞いたらいいと思いますよぉ。彼女もまぁ、冒険者だということですねぇ」

ぽりぽりとクッキーを齧っているノクトは、尻尾をゆらゆらと揺らしながら微笑んでいる。ノクトの下だけ兵士がいないのは、たまに頭上から食べかすが落ちてくるからかもしれない。

「報告は済んだんですかぁ?」

「いいえ、騒がしかったので先にこちらを見にきました」

「だったらまずはみんなで報告に行きましょうかねぇ」

障壁が揺れることなく少しずつ高度を下げて、やがて地面に到着する。まさかそのスペースを空けるために食べかすをこぼしていたわけではないだろうが、この降り方をするのにはちょうどよかった。

「よぉし、今日は終わりだ! 今日も勝ったやつはいなかったな! 明日からの訓練楽しみにしてろよ!!」

ウーのしゃがれ声が訓練場に響いて、兵士たちが落胆の声を上げた。

そんな兵士たちの列が割れて、間からコリンとモンタナがひょこっと現れた。二人が移動するために、道を作ってくれたらしい。

「ありがとねー」

「いいえ!」

コリンが振り返って笑顔で礼を述べると、兵士たちがピシッと背筋を伸ばして返事をする。妙な関係性が出来上がっているようだ。

「ハルカー、数日ぶりでも美人! 報告に行くんでしょ? 一緒に行くー」

「コリンこそなんだか大人気ですね。色々聞きたいことがあるんですが、とりあえず仕事を済ませましょうか」

ハルカの左腕に引っ付いたコリンを見て、兵士たちがざわつく。いったいどんな感情でざわついているのかがわからず気になるが、今は依頼の報告だ。

偉い人に会うのにあまり遅くなっても、申し訳ない。

道中兵士たちに幾度も二度見されながら、ハルカたちは、ヴェルネリが待つはずの小屋に向かうのだった。