軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

縄張り意識

「なんにしても助かったぜ……。お前らも卵を取りに来たのかよ? なんか知らねぇが、飛竜共が大挙して巣穴に戻りやがった。今はやめておいた方がいいぜ」

服についた土を払いながら、男は立ち上がった。

無精ひげが生えており、体はよく鍛えられている。仲間たちと合流してお互いの無事を確認してから、またハルカ達に向き直る。

「っていうか、随分若い奴らだな。この辺は飛竜の巣だから気をつけろよ」

「そんくらい知ってるっての。あんたらこそ、あぶねぇからさっさと山降りたほうがいいんじゃねぇか?」

「言うじゃねぇか! ま、好きにしろよ。忠告通り俺たちはもう下山するぜ。卵はもう手に入ったからな。精々竜の糞にならないように気をつけろよ。行くぜ、お前ら」

仲間たちに合図をして山を下り始めた男についていったのは、足の速い男だ。大男と魔法使いは顔を見合わせて、何かを話し合った後、ハルカ達に話しかける。

「一応助けてくれようとしたみたいだし、いいこと教えてあげる。最近公爵領が飛竜の卵をものすごい高値で買い込んでるわ。お金稼ぎが目的ならそこに持ってくといいかもね! じゃ、がんばってねー、行くわよー!」

魔法使いは大男の背に飛び乗って、その頭を叩く。

「お前さ、戦いの時以外は自分で歩けよな」

「いいからいいから、すすめー!」

大男はぶつぶつと文句を言うが、魔法使いはそんなことを気にせずに、ばしばしと男の頭を叩く。

「そんじゃあな、ガキども。卵を盗むときは、昼間がいいぜ。大概の竜は日が落ちると巣に戻ってくるからな」

「はい、それではお気をつけて。ご忠告ありがとうございます」

「お、おう。なんだか調子狂うぜ」

それきり振り返らずに冒険者たちは山を下っていく。背中が遠くなるのを待って、ハルカはほっと息を吐いた。

「……竜が帰ってきたのって、私のせいですよねぇ」

「だろーな。また戦いそこなった。こうなったらやっぱり大型飛竜のとこまで行くしかねぇな」

アルベルトが先に歩き出したので、ハルカたちもそれに続く。

イーストンの話によれば、大型飛竜は山頂付近に数グループいるらしい。生態は中型飛竜と変わらないので、日が出ている間に巣につけば、遭遇することもなさそうだ。

飛竜たちは卵を産んでも、普段と違う生活パターンになることはない。それは卵が温めなくても勝手に孵化するからだ。また、卵を盗みに来るような天敵は人間ぐらいなものなので、常にそばにいて守っておく必要もない。

それは大型飛竜でも同じなはずだ。

巣を見つけて入りこむことさえできれば、卵を盗み出すことはそれほど困難ではない。

ではなぜ、大型飛竜の卵が市場に出回らないのか。

その答えは、大型飛竜の縄張り意識の高さにあった。

彼らは縄張りの外に生きる者にはそれほどの関心を示さない。迂闊に縄張りに踏み込んでくるものが少ない時は、狩りのためにその外へ出てくるが、そうでなければ大人しいものなのだ。

逆に言えば、大型飛竜は無遠慮に縄張りに踏み込んできたものは、そこから出たとしても執拗に追い回してくる。

山頂に近い場所から、大きな塊がハルカたちに近づいてくるのが見えた。

それは見る見るうちに大きさを増していき、やがてそれが竜の形をしていることが分かった。

「今度こそ俺が前に出る!」

アルベルトが剣を構えて前に飛び出す。

中型飛竜のものより低く重い咆哮が、空気をびりびりと揺らした。

スピードを緩めずに突っ込んできた大型飛竜は、一番前にいるアルベルトに向けて、そのかぎづめを向ける。その一本一本が、アルベルトの剣ほどの長さがある。

アルベルトが振りかぶった剣を、気合と共にそのかぎづめに向けて振り下ろす。

金属のぶつかり合う高い音がして、砂埃が舞い、アルベルトの姿が見えなくなった。ハルカは息をのんで、アルベルトの姿を探す。

大型飛竜もまた、勢いを殺されて、その場に高く舞い上がった。

十メートルほど先でアルベルトが吠える。

「くそ! 爪切れなかった!」

擦り傷が少しあるようだが、体の不調はなさそうだ。

空に浮かぶ大型飛竜は、口をがばっと開く。喉の奥が熱で揺らめいたのを見て、ハルカは叫んだ。

「ブレスです! 障壁を張ります!」

竜の口の目の前に透明な障壁を三重にして展開させる。鉄のような硬さと熱への耐性を想像したから、容易に破られるとは思っていなかったので、念のためだ。

目の前にそんなものがあるとは気づかない飛竜は、そのまま火炎のブレスをぶちまけた。

目の前に炎が広がり、面食らった飛竜は、さらに高度を上げて口をしっかりと閉じた。

飛竜はここまで来て初めて、ハルカ達を獲物ではなく敵と認識した。

ブレスが効かないと判断した飛竜は、再び高高度から速度を上げて一気にアルベルトの方へ舞い降りる。質量で地面に押しつぶそうとする動きを見て、流石のアルベルトも迎え撃つことはせずに、慌てて着地点から離れた。

地面に降りてきて、改めて全身を見ると、とにかく大きくてものすごい迫力だった。

ハルカは小型のジェット機の実物を見たことはなかったが、テレビで見たそれよりもまだ大きいように思える。

それを見てから、前線に立つアルベルトとモンタナをみると、その姿が酷く小さく見え、とにかく心配で仕方がなかった。

「アル! モンタナ! なんとかなるんですか!?」

「なんとかする! ハルカはとりあえずブレスだけ防いでくれ!」

その直後に竜が、その場でぐるんと回るように尾を振った。全方位を鞭のようにしなる尾が通り過ぎる。間にあった岩が砕け、粉々に吹き飛んでいく。

その中間地点にモンタナ、一番勢いの乗る最終地点にアルベルトがいた。あがった土ぼこりで二人の姿が見えなくなる。

尻尾が最後まで振り切られたように見え、ハルカは慌てて前線へ走り出した。