軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

道中の掛け合い

それから二日、三日と過ぎても、後ろから兵士たちが追ってくることはなかった。

道中トラブルもないので、ハルカはコリンの横に並びながら、地図を一緒に見て歩く。

その結果、地図を使って俯瞰で地形を見ている分には、それほど問題がないことは分かった。ただしうねった道や、何かを迂回するために曲がったりすると、地図の向きを変えて首をかしげることがあるので、任せられるかと言うと微妙なところだ。

どちらかと言うと、目印になるものや興味を惹かれるものが多い街中での道順を覚えるのが難しいらしい。アルベルトも同じ傾向があるが、そもそも地図の見方を覚えるのを面倒くさがるので、無理強いはしていない。また、街中での方向音痴ぶりは、アルベルトの方がコリンよりは多少ましだ。

「いやぁ、平和な旅もいいものですねぇ」

遂に足を動かすふりすらやめて、ただ障壁の上に座って移動しているノクトが欠伸をしながら呟いた。アルベルトが一度「お前さぁ」と何か言いかけたが、言っても無駄だと思ったのかそれ以上のことは言わなかった。

見た目が若く見えるせいか、アルベルトはいつの間にかノクトをお前呼ばわりするようになっていた。本人が気にしてない、というか、普通に接してもらって嬉しそうなので構わないが、一般的に考えるとありえない態度だ。

「そういえばあれから追手とか待ち伏せとかねーな。拍子抜けだぜ」

「それはねぇ、僕の居場所が分からないからですよぉ。王国に入るとあちこちで張られてると思うので覚悟してくださいねぇ」

「指名手配犯かよ、お前」

「似たようなもんですかねぇ」

減らず口を叩くアルベルトだったが、ハルカにしてみればこの平和な旅路が続けばいいのにと思う。冒険者というのは危険を冒すと書くが、それは依頼達成のためのリスクを恐れないという意味であって、わざわざ危険に突っ込んでいくものばかりではない。

アルベルトの態度は人によっては眉を顰められるものであったが、ハルカはそれを否定しきれずにいた。ハルカの中の主人公像がアルベルトに重なって、それを邪魔するのに躊躇してしまうのだ。度が過ぎなければ、彼の好きなように生きてほしいと思っていた。

ハルカが二人のやり取りをぼんやり見ていると、肩をつつかれる。

とんとんと地図を叩いてコリンが尋ねる。

「これって前と完全に同じ道順でいいの? 寄り道とかはしない?」

「寄り道はしません。本当は遺跡とかも気になっているんですが、今回は呼ばれていくわけですからね。この人数で行くなら、二十日もかからず到着できるはずです」

「…………うん、確かに今日まででこれくらい進んでるから」

地図上で指を尺取り虫のように動かしている。それがヴィスタまで到着すると、コリンは大きく頷いた。

「うん、順調に行ったらあと十六日!」

「はい、そうです。よくできました」

自信満々に自分を見上げるコリンがかわいくて、ハルカはその頭を優しくなでた。ご機嫌に目を細めるコリンはしばらくされるがままだったが、その先の分かれ道を見て、地図を手元でくるくるとまわして立ち止まる。そうしてびしっと右側を指し示してどや顔で言った。

「そして進行方向はこっち!」

「……逆ですね」

コリンは黙って、そのまますーっと指先を左の方へスライドさせる。

「ええ、はい、そっちです」

「ちょっと間違えただけだし」

「うん、そうですね、そうだと思います」

「ホントだってば!」

「はい、ホントですね、大丈夫ですよ」

コリンをなだめていると、がさっと音を立てて横からモンタナが唐突に姿を現した。ハルカは結構驚いて心臓をドキドキさせていたが、コリンは気づいていたようで、ちらっとそちらを見ただけだった。

モンタナの片手には、首のなくなった兎が二羽、枝に足を結ばれてぶら下げられていた。

モンタナはそれをプラプラと振りながらそばに来て、地図を覗き込む。それからアルベルトの方へ向かい、兎がぶら下げられた枝を手渡した。

「持つですよ」

「あ? ああ」

枝を押し付けて左の道へ進んだモンタナは藪へ入る前に、ハルカの方を向いて確認をした。

「こっちでいいです?」

「はい、合ってますよ」

「ですか。あと三羽とってくるです」

モンタナの消えていった茂みの先を見ながらハルカは思う。自分が先導できないときは、コリンじゃなくてモンタナに任せた方がよさそうだ。ちらりと地図を覗いただけで進行方向がわかるのだから、大したものだ。

そういえばモンタナは一人でシュベートからオランズまで旅をしてきたのだから、地図を読めないはずがなかった。

それはともかく今はうまくいかなくてむくれているコリンに、地図の読み方を教えてあげなければいけない。

これから先何かの依頼で別行動をとることもあるかもしれないのだから、全員がその技術を持っていて損はないはずだ。

コリンがちゃんと読めるようになったら、今度はアルベルトに教えてあげよう。嫌がったときは、アルベルトだけ地図が読めないと強調すれば、負けず嫌いの彼ならすぐに乗ってくるに違いない。

これから先の計画を立てながら、ハルカが雑にコリンの頬をつつく。

「そこは優しくなでて慰めるところでしょ!」

「はいはい、すみません。コリンは頑張ってますよ」

「もっとねぎらいの気持ちを込めて撫でて!」

言う通りに撫でたのに、さらなる注文をされ、ハルカは苦笑しながらしばらくの間コリンのことを構い続けた。