軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

鍛冶師の顔

話と夕食が終わると、アルベルトが訓練をすると言って外へ向かう。

「おい、モンタナ、早く来いよな」

ドアを開けたところで振り返って、勝手にいなくなる。

モンタナはやすり掛けをやめて目をぱちぱちとしていたが、返事する相手がいなくなってしまったので、しぶしぶ足元に広げていた道具類を袖口にしまい込んだ。

「私も訓練してきます」

アルベルトの後を追うようにハルカが出ていこうとすると、コリンも立ち上がってついてくる。

「みんながするなら、私もたまにはちゃんと訓練しようかな」

「弓は暗くなると難しくないですか?」

「ううん、武道の型の方。近接戦になることがあまりないし、動物の相手ばっかりしてたから、最近やってなかったんだよね。やっておかないと、いつか師匠に会ったときにどやされそうだし」

「怖い人なんですか?」

「口うるさいジジイよ」

コリンがいーっと嫌な顔をする。

それでも師匠と呼ぶのだからきっとそれなりの人物なのだろう。

コリンが近接戦闘をする姿は見たことがないので、どんな動きをするのか興味があった。

「私が組手の相手をしましょうか?」

余所を向いて少し考えてコリンは首を横に振る。

「無理無理、最低限力の流れを操らないといけないから。私山とか海とか相手に戦闘はできないわ」

「……もうちょっと手加減が上手になってからにしますね」

結局力の加減が上手にならない限りは、仲間の訓練に付き合うこともできないらしい。本格的に一生懸命訓練をしなくてはと、ハルカは自分に気合を入れた。

後ろからぺたぺたと、モンタナが追いかけてくる。すぐ後ろに来るのを待ってロビーに出ると、アルベルトがオクタイと話をしていた。

テーブルの上にはオクタイの使っていた曲刀が置いてある。刀身が折れ曲がって鞘にも収まらなくなっていて、抜き身のままだ。

オクタイはモンタナの姿を見ると、立ち上がってずんずんと向かってきて、唐突に腰からしっかりと頭を下げた。

「頼む! おやじさん紹介してくれ!!」

モンタナが口をへの字にして、ぎゅーっと眉根にしわを寄せた。

コリンがそれ見て驚き、モンタナのその皴を指でさする。

「せっかくかわいい顔してるのに、そんな顔しちゃだめよ」

「……です」

モンタナはコリンの手とオクタイから逃げるようにしてハルカの後ろに回り、その背中を押した。ハルカは困惑しながらも、されるがままに外へ歩いていく。

「ああ、くそっ!」

オクタイは頭をがりがりとかいて、イラついたように曲がってしまった愛刀を持って、二人についてくる。

アルベルトとコリンも顔を見合わせて、様子を見ることにしたのか、その後を追った。

宿の裏手にはちょっとした広場があって、軽い訓練くらいならそこでできる。

「おい、ちび! じゃねえ、モンタナ! 昔のことなら悪いと思ってる。謝るから、頼むぜマジで」

「……何が悪かったですか」

ハルカの後ろから目元までを出して、モンタナが尋ねる。

「そりゃあお前……。お前と親父が本当の親子じゃないなんて言ったことだよ。五歳の子供に言うことじゃねえよな」

「です。……謝罪は受け入れるですけど、紹介はしないです。出禁ですから」

「お前が許してくれりゃあ、出禁も撤回されるだろ!」

「じゃあ勝手に行くといいです」

「いや、それじゃあ許されたかわからねぇじゃねぇか!」

「……とにかく、今は工房に帰らないですから、無理です」

事情は知らないが、モンタナがあまり親元やその周りの人と会いたがっていないのは、ハルカも前から知っていた。いくら頼んでも折れることはないだろう。

堂々巡りになりそうな話に、割って入ることにした。自分を間に挟んで言い争いを続けられるのも居心地が悪い。

「あの、新しい武器が欲しいんですか?」

「いや、この武器を直してもらいてぇ。これは一応師匠に譲ってもらったマルトー工房作の武器だ。結構大事なもんなんだよ」

「いい武器なのに、あの一撃でそんなになっちゃったのか」

後ろから追いついたアルベルトが、眉をひそめてオクタイの武器を見つめる。ハルカは試合を見ていなかったが、恐らくこれはレジーナにへし曲げられたものだ。

「明日の試合に必要なんですか?」

「てめぇ、ハルカ、馬鹿にしてんのか? 俺は試合に負けたんだよ」

「失礼しました、治療室にいたもので」

やばいと思って慌てて謝るが、ということは緊急で明日必要とかいうわけではなさそうだ。それなら他の方法もあるんじゃないだろうか。

「……直すだけなら他の鍛冶師に頼むことはできないんですか?」

「できねぇよ。工房特有の技術があるんだ。それに他に腕のいい鍛冶師のあてなんかねぇよ」

「新調したらいいじゃない」

「だから、師匠に譲ってもらった大事な武器だって言ってんだろぉがよぉ!」

コリンのけろっとしたセリフに、あっという間に沸点に達したオクタイが怒鳴りつける。今にも手が出そうなオクタイをみて、コリンとの間にハルカが体を入れる。ハルカのローブに捕まっていたモンタナが、一緒にプランと引きずられるようについてきた。

「えーっと……、マルトー工房の技術で直せればいいんですよね?」

「そうだって言ってんだろ。だから紹介してもらわねえと困るんだよ」

「それで、モンタナは別にもうオクタイさんのことを怒ってはないんですよね?」

「そですね」

「……じゃあモンタナがどこかの施設を借りて直してあげたらいいのでは?」

「ばっか、お前、冒険者してる半人前に直せるわきゃぁ……。……もしかして、直せるのか?」

勢いで否定したオクタイだったが、なるほどと手を打ったモンタナを見て、ぽかんとした顔をしてモンタナを見つめた。

にーっと笑ったオクタイは、ガッツポーズして喜んだ。

「よっし、よし!! じゃあ頼むぜモンタナ! 代金はこの間の治療費と同じだけ出す! それでいいだろ、財布番!」

「変な呼び方しないで、コリンよ。値段上げられたいの?」

「いいな、コリン!」

「モン君はいいの?」

モンタナは少し考えてから頷き条件を付けた。

「ただし、オランズに戻ってからです。この街では工房を借りたくないです」

「いいぜ、それぐらいなら付き合う。ついでにお前らの護衛してやるぜ!」

「いらねぇよ、武器持ってないお前より俺の方が強い」

「あ? 一回戦負けが生意気だぞ」

「うるせぇ、お前も結局負けたじゃねーか!」

睨み合いが始まったのを見て、ハルカとコリンは二人から目を離す。

どうせ仲良く喧嘩をするだけだ。構っていないで他のことをしたほうが有意義だと思ったのだ。

「……鍛冶は久々です」

感慨深く呟くモンタナに、ハルカは微笑を向ける。

何を考えてるのかまでは読み取れなかったが、抱いているのは悪い感情ではなさそうだった。

職人気質のあるモンタナは、案外こんな依頼をされるのが嬉しいのかもしれない。

「モンタナが鍛冶をする姿、楽しみですね」

「……見ちゃだめですよ?」

「そうなんですか?」

「一応秘伝とかあるですから」

「それは残念ですね」

後ろでギャーギャーと言い争っている二人の声を聞きながら、二人は穏やかに会話を続けた。