軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

師匠とお勉強

「攻撃に魔素を付与する方法については、クダンさんに聞いたほうがよかったかもしれませんねぇ。もう行っちゃいましたけど」

「身体強化魔法とは違うんですか?」

「僕も詳しくないんですけど、クダンさんが言うには違うみたいです。体の中から強化するのが身体強化で、武器をコーティングするのが付与、らしいですねぇ」

「うーん……」

二人して腕組みして首をかしげる。わからないことを教えるのは難しいので仕方がないだろう。

ノクトが自分の尻尾を膝の上まで回し、撫でている。鱗でおおわれているのになんだかぷにぷにとした触感をしていそうだ。ハルカがその様子を眺めていると、ノクトと目が合う。

「昨日脱皮したところでして、まだちょっと違和感があるんですよぉ」

「脱皮するんですね」

「一応しますよぉ。脱皮するたびに少し丈夫になります。してしばらくはこんな感じで柔らかいですけれどねぇ。気になりますか?」

「ええ、まぁ……」

「触ってみてもいいですよ」

椅子に横座りして、ノクトが尻尾をハルカに向けて差し出した。遠慮がちに手を伸ばしてそっと触れてみると、すべすべしてヒンヤリしているのに、確かに少しやわらかい。癖になりそうな触り心地だった。

「僕は良いですけどねぇ……、獣人の中には尻尾や耳を触られると、発情する者もいるので気を付けてくださいねぇ」

ハルカはさっと撫でていた両手を上げて、ノクトを見る。

「あの……、触るのは失礼にあたったりしますか?」

「それも人によりけりです。僕の場合ここのあたりに一枚だけ鱗があって、そこを触れられるとむずむずして逃げ出したくなります。身内であれば不快感ってそうないですけれどねぇ」

ノクトが自分のみぞおちあたりを指さす。

獣人は元になった動物の性質を残しているのだろう。ただ、いろいろと混ざり合っているから元がどんな動物であったのかがわからないので、何がよくて何がいけないのかの判断が難しい。

迂闊に触れないほうがよさそうだとは思った。

モンタナはいつも耳や尻尾を触らせてくれるが、嫌ではないのだろうか。

彼がそれに嫌悪感を覚えない程度には、仲がいいと思ってくれているのなら嬉しかった。

尻尾を引っ込めたノクトはまっすぐ椅子に座りなおす。彼の尻尾は長いから、砂の上とかを歩いたら足跡とともに、尻尾で一本線ができそうだ。

「ああ、そうだ。治癒魔法の続きの話をしましょうかぁ。僕は魔素付与の話よりそちらが専門ですからねぇ」

「はい、お願いします」

ハルカが姿勢を正すと、ノクトが指を一本立ててゆらゆらと揺らしながら目を細くする。この間も同じような動きをしていたから、きっと何かを説明するときの彼の癖なのだろう。

「治癒魔法にも治り方に違いがある話をしましたね。僕が使うような元に戻すタイプに、身体の治癒能力を促進するタイプ、それから奇跡を起こすタイプ。それぞれ治し方に実は向き不向きがあります」

ノクトがハルカの様子を見て、理解をしているか確認してさらに話を進める。

「例えば、四肢を欠損して時間が長く経ったものを治すためには、奇跡を起こすイメージをする必要があります。元に戻す方法だと、時間が経ちすぎていて、術者への負担が大きすぎるんです。また、自然治癒能力を促進しても、四肢は生えてきません。なんとなくわかりますか?」

「わかります、だから突然湧いて出るような奇跡が必要なんですね」

「はい、ただし奇跡を起こすタイプの治癒魔法は、どちらにしても術者への負担が大きいです。それでもきっと負担に対して一番効率がいいのはこのイメージですねぇ。逆に欠損してすぐであれば巻き戻しのイメージが一番効率がいいです。失った部位を患部にくっつけておくと尚いいですね。その場合は生やす、ではなく繋ぐ、イメージを持ちます」

「では治癒能力を促進するイメージでのメリットはなんでしょう?」

「はい、小さい傷を治す場合。放っておいても治る傷を治す場合は、他の二つに比べて特に負担が少ないです。あと面白い話があります。この治癒魔法は治るときに体の成長をさせることができるんです。筋力が増えたり、怪我した箇所がより丈夫になるという利点があります。促進の治癒魔法が得意な知り合いの一人は、これで体を鍛え続けて、身体強化を使わずに世界でも最高峰の膂力を手に入れました。筋肉が盛り上がりすぎて、関節のところだけへこんでいるように見えるんです、あの人」

ノクトがこんなかんじで、と手を動かしながら瓢箪のようなフォルムを宙に描く。ハルカは元の世界のボディビルダーの姿を想像した。白い歯をにかっと見せてポーズをとっていそうだ。

「名前は確か、オリーブオイル、みたいなのだったような……」

また天井に視線を彷徨わせながら、考えるノクトだったが、きちんとした答えが出てくることはないまま、ドアがノックされて人が入ってきた。

腕を血でにじんだ包帯でぐるぐるにまかれたまま、人に付き添われてはいってきたのは帝国の色男であるナーイルであった。

ぼたりと包帯をにじんででた血が床に垂れる。

「腕が上がらないんだよね、治療お願いできるかな?」

痛みのせいか浮かべる笑顔は、流石に少しひきつっている。

ノクトがその人物を自分の座っていた椅子に座らせて、ハルカの横に立った。

「では、実践をしましょう。あなたの治癒魔法を見せてください」

「あれ、なに? もしかして俺実験台にされるのかな?」

「大丈夫ですよぉ、失敗してもちゃんと治しますからねぇ」

「ねぇ、ダークエルフの美人さん。このちびっこの言うこと全然安心できないんだけど、大丈夫?」

「えーっと……、師匠が大丈夫と言うのなら、大丈夫だと思います」

「なんだか不安だなぁ……」

ナーイルは出血のせいか、嫌な予感からか、少し顔色を青くしながら顔をゆがめた。