軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

またお前か

残すところ四ブロックとなったわけだが、見逃したのでなければ、まだオクタイは試合をしていないはずだ。

あれだけ大口をたたいたのだから絶対に見てやると、アルベルトは朝から鼻息を荒くして会場に向かった。

今日も会場はにぎわっている。

ところどころに包帯を巻いている人が座っているが、あれはおそらく昨日の出場者なのだろう。

アルベルトが会場内を歩いていると、たまに声援を送られる。

観客たちより、昨日出場した選手から声をかけられることの方が多いところを見ると、やはり彼らみたいな人種は、一度手合わせすると友達になれるのかもしれないとハルカは思った。

第五ブロックの選手が入場すると、そこにはオクタイの姿があった。

司会による選手紹介によれば、オクタイは武闘祭の優勝経験がある冒険者の弟子にあたるらしい。自信があるのも頷ける。

他の選手の注目を集めてもオクタイは攻撃的な笑みを浮かべて全く怯む様子はなかった。

もう一人気になる存在がいるとすれば、オクタイと反対の方向にいるお爺さんだ。瓢箪から何かを飲み、ふらふらと歩く姿はただの酔っ払いで、あんな戦闘集団の中で生き残れるとはとても思えない。

しかしハルカは知っている。

あれは、あの雰囲気は達人のものだ。

酔拳を使うに違いない。ハルカは胸を高鳴らせてその老人に視線を向けていた。

試合が始まった瞬間、さっと後ろに下がった選手が寝転がった老人に足を取られて場外へ転げ落ちる。そしてその老人もそれに巻き込まれて一緒に場外へと消えていった。

ハルカはそれを見なかったことにして、オクタイの方へと視線を送る。恥ずかしかったが誰にもばれていないので問題はない。

オクタイは喧嘩好きで粗野な人間だが、戦い方はそうではなかった。

洗練されてくると無駄がなくなるからか、戦い方にある種の美しさが見えるようになる。

体を捌き、剣で受け流し、常に移動しながら、できるだけ一方向だけに敵を作るようにする。アルベルトの動きより、確かにそれはよく練られた動きのように見えた。

しばらくの間彼はそうして綺麗な動きを続けていたが、中盤に差し掛かった時、つばぜり合いで飛ばされた選手が背中にぶつかってきた。

オクタイはイラついた様子でそれを木剣の柄で殴り倒し、元の相手に向き直ると、目の前まで相手の剣が迫っている。それをギリギリのところで受け止め、前蹴りを放って距離を取る。

思うようにいかなくなってきた途端、オクタイの動きが荒れ始める。

今まで木剣しか使っていなかったのに、足が出る、手が出る、次第に喧嘩のような動きになってきた。言うなれば喧嘩剣法といった感じだ。

「あんなだから、ちゃんと教えてもらえないですよ」

モンタナが小さな声でつぶやくのが聞こえる。

「なんです?」

「昔からあの人あんな感じです。あの人の師匠はおじいちゃん先生ですから、喧嘩っ早い人には剣を教えてくれないんです。くっついて回られて、いつも迷惑そうにしてたです」

「性格って年を重ねてもそうそう変わらないですからねぇ」

オクタイが本格的に暴れ始めたのを見ながら、ハルカはしみじみと呟いた。

第五ブロックはオクタイ含め、順当に注目選手が勝ち残る。終わってみればオクタイは軽い怪我をたくさんしていたが、だからと言って支障が出るほどのものはない。

あれだけ暴れまわってその程度で済んでいるのだから、やはり強いということには違いなかった。

そのまま最後までぶっ通しで試合を見続けたが、ハルカの目を引くような選手はいなかった。

と言うより、一度おじいちゃんに注目して、非常に恥ずかしい思いをしたため、ちゃんと司会が紹介してくれた選手を重点的に見るようにしていたというだけだ。

アルベルトは見ているほうが驚くほどに、熱心に試合を見ていた。いつもの騒がしい様子は鳴りを潜めて真剣そのものだ。横に座っているハルカ達もそれにつられて、いつの間にか発言が少なくなっていたほどである。

試合が終わって宿に帰るまでも、アルベルトは考え事をしているようで言葉少なだった。偶に人とぶつかりそうになっており、モンタナに服を引かれることもあったぐらいだ。

「ちょっとあんた、いい加減にしなさいよ。考えるのは後」

「あ? ああ、そうだな」

流石にコリンに注意されて、顔を上げてくしゃくしゃと自分の髪を掻いた。とんとんと腰に帯びた剣の柄頭を叩きながら、大きく息を吐く。

「いやぁ……、思った以上に勝ち残った奴が強そうだから、いろいろ考えちまったぜ」

「勝てそうですか?」

「どうだろうな、タイマンになるとまた違うからな」

自信家のアルベルトが、答えを濁す。

つまり、自分の方が不利だと思っているということだ。

ハルカにはそれがあまりよくない傾向のように思えた。雰囲気に飲まれると普段の力を発揮することが難しい。どうにかしてやったほうがいいと思うのだが、やり方がわからない。

運動部で試合でも経験してれば違ったのだろうかと、思いながら黙ってしまった。

「なーに難しい顔してんのよ、いつも何にも考えてないくせに」

コリンが平手でアルベルトの背中を強くたたいた。通りすがりの人が驚いて振り返ったくらいには大きな音が出る。

アルベルトがせき込んで、涙目になりながらコリンを睨みつける。

「何すんだよ!」

反対側から今度はモンタナが同じ場所を叩いた。ぼすっと音がする。あまりいい音がしなかったのが気に食わなかったのか、モンタナは繰り返し同じところ二度三度と叩く。

「やめろやめろ! お前はなんなんだよ!」

「気が済むまで訓練付き合ってあげるですよ」

「お、おう……、おい、叩くな! 叩くなっての!」

アルベルトが身をよじってハルカの横まで逃げてくる。

なるほどこうして励ますのが正解なのかと思ったハルカは、手をにぎにぎとして、アルベルトの背中を叩こうとする。

「ハルカはダメ!」

腕にコリンが抱き着いてきて、ハルカはその動きを止めた。

何故ダメなんだろうか、もしかしておじさんは仲間に入れてもらえないのだろうか。少し悲しい気持ちになったところで、アルベルトが青い顔でハルカの方を振り向く。

「手加減、できるか?」

ハルカは手をにぎにぎとまた繰り返す。

平手でいい音を立ててやろうと思っていた。感覚的には、前の世界と同じくらいの感覚でやるつもりだった。

「……ありがとうございます、コリン」

「ばっ、お前、やめろよな! 試合前に大けがするところだっただろうが!」

「いえ、うまく手加減するつもりでしたよ、本当です。いい音をたてられたらいいなとは思っていましたけど」

「こええよ、やめろ!」

ハルカは叩くのは諦めて、アルベルトの頭に手を伸ばして、彼をぐちゃぐちゃに撫でまわした。ぐりぐりと首も動いていたが、それは力加減を信用してもらえなかったお返しだ。

「ああ、もう、なんだよ」

「怪我したら治してあげますから、気が済むまで訓練してくださいね」

「……おう、ありがと」

「そんなことよりまずご飯よ、夕ご飯!」

一歩先に進んでいち早く宿に戻っていくコリンの後を追って、皆が宿の扉をくぐる。

和やかな雰囲気の一行だったが、宿に入った途端、コリンが足を止めた。

「やぁ!数日ぶりではないか、実に奇遇だ! ここであったのも何かの縁であろう、一つ頼みごとを聞いてはくれないか?」

ギーツが優雅に椅子に腰を下ろして、ハルカ達を待ち構えていた。