軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

当日の朝

ハルカは自分の部屋で額に鉢巻きを巻いて鏡を見た。これはモンタナにちゃちゃっと作ってもらったもので、別に額を守るために鉄板を仕込んでいるとか、そういうものではない。ただ応援のために着けてみてはどうかと思って用意してみただけだ。日本人のような見た目でないのが悪いのか、それとも女性的な身体のためなのか、なんだか思っていたようなイメージとは違った。

つけていくかどうか悩んだが、アルベルトが応援するより戦っている姿を見てほしいと言っていたのを忘れたわけではない。変に気合を入れていくのはやめることにして、鉢巻きはポケットに畳んで詰め込んでおいた。

今日は祭りの初日だ。

アルベルトは既に会場へ向かった。見学客であるハルカ達は遅れて会場入りすることになっている。入場券は準備してあるから入れないということはないだろう。時間にはまだ早かったが、ハルカはそわそわと部屋の中をうろつきまわり、そうして我慢できず結局宿の外に出た。

大通りはどこか浮かれた様子の人たちで溢れている。

朝もまだ早いのに大きな声で話をする人も多い。

とんとんとつま先で地面をたたいてみたり、手の指の腹を合わせて順番に動かしてみたり、ただ手持無沙汰に通りを眺める。

「ねぇねぇ、何してるの、そこの美人さん。暇なら一緒に武闘祭見に行かない?」

うかれた街並みに合わせて、そういう面でも浮かれた人が出るんだなと思い、声のする方に目を向けると、特徴のない男がにこにこと笑いながら自分のことを見ていた。

ああ、自分に声をかけていたのか、と気づく。

ハルカはナンパなんてする勇気のないまま大人になったものだから、この若者の勇気は称賛したいと思っていた。ただ残念ながら相手が自分で申し訳ない気持ちになる。メンタル的におじさんなので、ナンパをされても応じる気持ちはこれっぽちも起きない。早く他の女の子を誘うんだよ、という気持ちを込めて頭を下げる。

「すみません、待ち合わせです」

「お待たせ~」

後ろから足音がしてコリンがハルカのローブを掴む。ハルカに対峙している男を見て、そちらへニコッと笑いかける。愛想のいいことである。

「あっ、でも女性二人ならやっぱり一緒に行かない? 友達連れてくるからさ」

「なになに、ナンパ? 私もされてるのかな」

ちょっと嬉しそうな顔をしているコリンに、ハルカはどうしようかなと思う。

確かに自分が街で異性にデートしましょうって言われたら嬉しいかもしれない、とも思ったが、実際のところは美人局を疑って怖くて逃げてしまうような気もした。

足音もなく近寄ってきたモンタナがコリンがいない方へまわって、同じようにローブの端を掴んだ。

「あ、もしかして冒険者?」

「ええ、仲間が武闘祭に出場するんですよ。応援しないといけないのでごめんなさい」

「ああ、いや、邪魔してごめん」

へへっと曖昧に笑って男は雑踏へ混じるように消えていく。その目にはほんの少し恐れが混じっているようにも見えた。ここ数日あちこちで冒険者同士が喧嘩というじゃれ合いをしていたものだから、もしかしたら怖かったのかもしれない。

「なんだー、意気地なしめー」

そのまま若者を見送ってコリンが口を尖らせた。

「一緒に行きたかったですか?」

「まさか、もう少し粘ってくれてもいいのにって思っただけ」

複雑な女心は理解しがたい。どうせ断るのであればばっさりやってあげてほしいと思うのは、ハルカのメンタルが男でそちらの立場で考えてしまっているからだろう。期待を持たせるのはかわいそうだと思ってしまう。

「それにしてもハルカ、準備早かったわね」

「えぇ、ちょっと落ち着かなくて」

「アルが心配?」

「それもあるのかもしれませんけど……、なんだかワクワクしてしまって」

「ハルカって偶に小さい男の子みたいになるわよね。いきましょ」

コリンの言葉にドキリとする。確かに今まで抑圧されてきた少年心のようなものが最近はしょっちゅう頭をもたげてくる。お見通しのようだった。

先を歩きだすコリンとモンタナの後を追って人ごみに紛れる。

二人はあまり背が高くないので、雑踏に入ってしまうとすぐに見失ってしまう。特にモンタナは基本的に足音もなく歩くから、一度はぐれると見つけるのが難しいのだ。だいたいの場合はモンタナの方から近くに戻ってきてくれるので心配する必要はないのだが、長いこと戻ってこないとだんだん不安になってくることがある。

モンタナの見た目が子供のようなので、迷子を心配されていると勘違いされるが、実はその逆だ。この世界に慣れているモンタナに置いていかれたハルカの方が、迷子のような気分で不安になるのである。情けないがこれが真実だった。

会場に近づくにつれて人が増える。はぐれないように二人が左右からハルカのローブを掴む。コリンも比較的丸顔で童顔なものだから、こうしているとまるで子連れのようにも見える。

こんなかわいい子供たちがいたら毎日が楽しいだろうと左右を見ながら考える。今はその子たちが仲間として一緒に隣に立ってくれている。ハルカは自分の恵まれた環境に感謝していた。

一人で悦に入っていると、コリンにローブを引っ張られる。

「ちょっと、ぼーっとしていると人にぶつかるわよ」

「はい、ごめんなさい」

チームの中で一番ぼやぼやしているのはハルカであるというのは、仲間内では共通の認識になりつつあった。