軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

72話

3(スリー) x(エックス) 3(スリー) には、五人制のバスケにはない特徴がいくつかあった。

例えば、バスケコートの半分しか使用しないところや、試合時間が10分、もしくは二十一点先取で勝敗が決まるところ。

さらにシュート成功時の得点が、2点と1点に変わっているところや、ファウルをいくら重ねても、退場にならなかったりするところなどもある。

勿論、ファウルにはペナルティが何も無いワケではなく、チームのファウルカウントが七回を超えると、フリースローを一本多く打たれるといったペナルティがあった。

そんな3x3というルールだからこそ、花村君は負ける筈が無いと確信していた。

花村君が、今回の勝負に3x3を選択したのは、二つの理由があった。

一つは、チーム戦だということ。

思惑通り友達の少ないタカシは、チームメイトにナタリーとシェリーを選んだ。1on1でも負けるつもりはなかったが、小柄な女子が混ざったとなれば、もはや負ける方が難しかった。

そしてもう一つの理由は、審判を花村君の友人に頼んだこと。

審判が自分の味方をすれば、それだけで試合を有利に進められる。

例えばファウルについてもそう。

ファウルカウントが増えれば増えるほど、フリースローを打つ本数に差が出る。二十一点先取で勝敗が決まる以上、得点を取る機会が増えるのは、それだけで有利だった。

そのファウルは、審判の裁量によって決められる。審判には事前に『四分咲のファウルをじゃんじゃん取れ』と伝えてある。

これなら、あっという間にファウルカウントは七回を超えるだろう。フリースローがバカスカ打ててしまうのだ。

勝ち確だ。

仮にタカシがバスケの経験者であっても、ここまでお膳立てされた花村君には絶対に勝てない。それくらいのハンデが、彼らの間にはあった。

勝利を確信する花村君が、未来を妄想する。

この勝負が終わったら、恐らく美少女達は、タカシを退学させないでくれと頭を下げるだろう。

あれだけ仲が良いんだ。絶対に頭を下げるだろう。

そんなことをされたら、花村君にだって無碍には出来ない。『自分と付き合う』ことを条件に、退学を撤回してもいい。

そうすれば花村君の取り巻き達にもメリットが生まれる。春椿文香以外の美少女と、彼らは付き合えるのだ。

一度付き合ってしまえばコッチのもの。イケメン達のテクニックを持ってすれば、陰キャの存在なんてすぐに忘れるだろう。

花村君とその仲間達は、近い将来訪れるであろう、桃色の展開を夢見ながら興奮していた。

試合開始を告げる、ホイッスルが鳴るまでは。

─────────

コイントスも無く、有利な先行で始まる花村君のオフェンス。

タカシからボールを渡されると、花村君は軽快なドリブルを繰り出した。あまりの超絶テクニックに、観客席から歓声が湧き上がる。

巧みなボール 捌(さば) きは、まさにエースそのもの。たった一度のドリブルで、スキルの高さを見せつけた。

そんなドリブルをかます花村君は、棒立ちで突っ立っているタカシとマッチアップした。

どちらが上なのか、すぐにでも証明したかったのだろう。流れるようなボディコントロールで、タカシの脇をすり抜けた。

拍子抜けするほど、あっさりと抜かれてしまうタカシ。

あまりの雑魚っぷりに、失笑が漏れるほど。それくらいタカシはあっさりと抜かれた。

フリーとなり、コートを駆け抜ける花村君。そのまま華麗にレイアップシュート。

ボールはリングをくぐり、花村君チームに先取点が入る────

筈だった。

歓声が湧かなかった。

得点が入らなかったようだ。

動揺した花村君が、慌てた様子で振り返る。

完璧にタカシを抜き去って、余裕を持って放ったレイアップシュート。

何千、何万と行ってきた、そのイージーなシュート。

百パーセント決められると確信したシュートが、 外(・) れ(・) た(・) ようだ。

信じられなかった。

無駄に余裕ぶって、ゴール直前で目を切ってしまったこともイケなかった。なぜシュートが入らなかったのか、確認出来なかった。

「タカスィ〜、ちゃんとツーポイントラインの外側に出ろよぉ〜」

「このラインを出て、初めて攻守交代になるんだっけ?」

「そだよぉ〜。ちなみにショットクロックは十二秒だから、それまでに攻めきるんだぞぉ〜」

「了解」

呆然とゴールを眺めていると、タカシとナタリーの、緊張感のない会話が聞こえてきた。

慌てて視線を送ると、タカシがツーポイントラインの外側へ走りだしている。

ヤツの手元には、バスケットボール。

ボールを奪われていることに気付いた花村君は、怒声をあげた。

「ま、待てコラァ!! 止まりやが────」

「タカシくーん。パスパース。ワタクシ、フリーですわぁ〜」

ゴールから最も遠く離れた位置で、ぶんぶんと手を振るシェリー。

その声を聞いたタカシが、弾丸のようなパスを放った。

異常な速度で飛んでいくバスケットボール。

そのボールを、

シェリーが「どっせぃ!!」という掛け声と共に、強烈なショートアッパーで打ち上げた。

まるで野球ボールのように、天高く舞い上がるバスケットボール。

天井付近にまで到達したそのボールは、やがて勢いを失い、綺麗な放物線を描きながら落下を始めた。

向かう先はゴールリング。

シュパーンッというネットを貫く音が、体育館に響き渡る。

同時に、騒いでいた同級生達が静まりかえった。

タカシチームが、よく分からない内に2点を先取したのだ。ワケの分からない展開に、観客席に座る生徒達は目を丸くした。

「…………え? な、なに今のシェリーちゃんのパンチ……ヤバくない……?」

「シ、シェリーさんもヤバいけど……花村のシュートを止めた四分咲もヤバくないか……? ア、アイツ……エグいくらいジャンプしてたぞ……」

「ち、ちょっと待って! もしかしたらこれ、負けちゃうんじゃないの!?」

「花村君が負けたら、私達まで、ナタリーちゃんやシェリーちゃんとお喋り出来なくなっちゃうんだけど!! そんなの困るんだけど!!」

「は、花村くぅぅぅん!! 本気出してぇぇぇ!! 本気出してぇぇぇぇ!!」

「花村ぁぁぁぁ!! 四分咲ガチでヤベェぞ!! 全力でやれぇぇぇぇ!!」

まるで絶叫するような、同級生達の悲鳴。

何が起こっているのか分からないイケメンに、全身全霊の 喝(かつ) が飛ぶ。

洒落にならないことが起こっている……かろうじて花村君は、それだけ分かった。

「どうした? なに固まってるんだ? さっさと始めろよ」

ボールを持ったまま立ち竦む花村君に、タカシから声がかけられる。

反射的に彼は怒った。

「うっせぇカス!! 俺に指図すんな!!」

「お前、ホントそればっかりだな。もっとボキャブラリー増やせよ」

「う、うるせぇ!! くそ……っ!!」

イヤな予感がした花村君は、タカシとのマッチアップを避け、チームメイトにパスを出した。

そのパスを受け取ったのは、ロングシュートを得意とするバスケ部員。ツーポイントシュートの成功率は、市内で五本の指に入るような男。

彼は、すぐさまシュート体勢に入った。そこそこ綺麗なフォームで、そこそこ綺麗なシュートが放たれる。

高い放物線を描く、そのボールは、

一瞬で移動した、タカシの手によって止められた。

目を疑うような、異常な跳躍を見せるタカシ。

パッと見る限り、二メートル以上飛んでいる。人間が、垂直飛びで飛んでいい高さじゃなかった。

誰もが息を呑む中、ナタリーの呑気な声が響く。

「ヘイヘ〜イ。タッカスィ〜、次はアタシにパスちょ〜だぁ〜い」

スタッと着地したタカシは、その声を聞くやいなや、ツーポイントラインの外側にいる少女に弾丸パスを放った。

その豪快なパスを、軽く受け取るナタリー。

そして彼女は一歩、二歩と助走をつけ、

まるでロケットのように跳躍し、

そのままゴールリングへ、直接ボールを叩き込んだ。

ガゴォォォンという轟音が、体育館に響き渡る。

ゴリラを彷彿とさせるような豪快なダンクに、今度は幼馴染グループから悲鳴があがった。

「ナ、ナタリーちゃぁぁぁん! ほどほどにぃぃぃ! ほどほどにねぇぇぇ!」

「タカシとシェリーさんも、もうちょい自重しなさいよぉぉぉ!! 人間業じゃなくなってきてるわよぉぉぉ!!」

「は、はぁ!? な、なんだよアレ!! おかしいだろ!!」

「はぁはぁ……コレ♡ コレが見たかったんだぁ……♡ はぁはぁ……ほっひひぃ……♡」

慌てる幼馴染の横で、くねくねと気持ち悪い動きを見せる巴ちゃん。

ビデオカメラを片手に、嫌らしい視線を送っている。

ニタニタと笑う顔は、まさに変態そのもの。ねっとりとした視線を、思う存分タカシにぶつけていた。

そんな感じで、敵味方関係なく、阿鼻叫喚となっていく体育館。

タカシの負けを信じていた同級生から、花村君に「しっかりしろぉぉぉ!!」と野次が飛ぶ。

花村君はもう、 青褪(あおざ) めるしかなかった。

始まってまだ、一分も経っていない。それなのに、既に三点も取られてしまった。

ここまでお膳立てをしたのに、何も出来ないまま、三点も取られてしまったのだ。

あの異常な身体能力を見せつけられて、勝てると思えるほど花村君は傲慢じゃない。いくらチームメイトをバスケ部員で固めようが、審判に友人を起用しようが、勝てるワケがないと瞬時に悟った。

もはや負け確。これで花村君は勿論、同級生も、美少女と関われなくなってしまう。

取り返しのつかない事をしてしまった花村君へ、タカシからボールが渡される。

今まで、散々タカシを馬鹿にしてきた花村君。

絶対に勝てると確信し、タカシを退学に追い込もうとした花村君。

喧嘩を売る相手を間違えてしまった花村君は、これから先の学校生活を想像して、泣き出してしまった。それはもう、さめざめと。

その姿を見たタカシが、無表情のまま呟く。

「悪いけど、泣こうが喚こうが最後までやりきってもらうからな。お前から売ってきた喧嘩だ。放棄すんなよ」

容赦のない一言に、彼は絶望した。