軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

35話

「花梨って……あの男の子のお姉さんだったんだね……」

そうポツリと呟いた菫ちゃんは、驚きの表情から、歓喜の表情へと変わっていった。

「凄い! 凄い偶然! 私、ビックリだよ!」

「………………………え?」

「いやぁ〜、これはもう、運命の出会いじゃんね! まさか、こんな形でタカシ君と再会出来るなんて夢にも思ってみなかったよ! まさに運命! 赤い糸!」

「………………………あ?」

「えへへ……凛子のばーか……いくらイジワルした所で、私とタカシ君の絆は引き裂けないんだよ……ばーかばーか」

嬉しそうに、興奮気味で喋る菫ちゃん。

ギャルっぽい言葉遣いが消え、まるで普通の女の子のようにキャッキャッしている。

一人称のあーしはどこ行った……キャラ崩壊してんじゃんか……。

「ねぇ花梨! 折り入って頼みたい事があるんだけど!」

そんな置いてけぼりの私に、女狐と化した友人が詰め寄ってくる。

「……………………なに?」

「えっとね! えっとね!」

「………はよ言いなさいよ」

「あ、あのね! 弟さんを私に紹介してくれないかな!? 出来れば彼に良い印象を与えたいから、見てくれはこんなんだけど実は清楚なんだよって、それとなく伝えてくれると嬉しいかも!」

「……………………………」

「それとね! れ、連絡先も交換したいかも! えへへ〜……したいかもぉ〜……」

そう言って、モジモジと恥ずかしがる泥棒猫。

なに言ってんだコイツ。

要求が図々しくてビックリした。何ひとつ、頷く気になれない。

嬉しそうに笑う彼女を、私は冷たく突き放した。

「無理です」

「え?」

「紹介なんて無理です。タッ君の悪い噂を払拭させなきゃいけないので、そんな時間なんて取れません。諦めろ菫ちゃん」

彼女の顔から笑顔が消えていく。

断られると思ってなかったのか、酷く焦った顔。

「い、いや……ま、待ってよ……ちょっとくらい時間取ってくれても……」

「待ちません。取りません。今日の目的は悪い噂の払拭なので、それ以外やってる暇はありません。諦めろ菫ちゃん」

「ちょっと待ってって! ほ、ほら! いきなり私が乗り込んだら、タカシ君に変な女が乱入してきた、って思われるかもしれないでしょ? それじゃ困るし……まずは顔合わせを……」

「別にどう思われてもいいじゃん。元々そういう予定だったんだし、変な女って思われようよ。はい、この話おしまいね」

「勝手に終わらせないでよぉぉぉぉぉ!! 良くないんだよぉぉぉぉ!!」

大声をあげて、私のお腹にしがみつく菫ちゃん。

必死で顔を擦り付けながら、鬼のような形相で懇願する。

「お願い! 一生のお願い! 弟さんを紹介して!」

「ち、ちょっ!? やめてよ菫ちゃん! そもそも、なんでタッ君なの!? 年上でイケメンしか勝たんって、いつも言ってたじゃない!!」

「心変わりしたの! 年下がいいの! 今は素朴なタカシ君がいいのぉっ!!」

「そんなに年下がいいなら、超イケメンを紹介してあげるよ!! 一人、心当たり居るし!! だからタッ君は諦めろ!!」

「タカシ君がいいんだよぉ……イジワルしないでよぉ……花梨お姉ちゃ〜ん……」

「お姉ちゃん言うな!! 鳥肌立つわ!!」

「うぇぇん……紹介してよぉ〜……おねがぁい……」

半泣きになりながら、グリグリと顔を擦り続ける。

ファ、ファンデーションで制服が……く、くそぉ……卸したてなのに、またクリーニング出さなきゃならないじゃんか……。

私達がそんな感じで揉めていると、不意に肩を叩かれた。

振り向くと、タッ君が引き 攣(つ) った顔で立っている。

まさかの登場に、私と菫ちゃんは固まった。

「ね、姉さん……こんな所で騒いで、何やってるの……?」

焦る私。焦る菫ちゃん。

タッ君の悪い噂を払拭するという目的は、グダグダになり始めていた。

「と、取り敢えず落ち着こうよ……すっげぇ目立ってるし……」

「…………………………………」

「…………………………………」

絶句する私達が周囲を見渡すと、確かにタッ君の言う通り、こちらを見ながら、ヒソヒソと囁いている生徒の姿が見えた。

「またアイツの関係者?」「しかも、また美少女……」「あの人達も、弱みを握られてるのかな?」「天乃君! 早くあの子達を助けに行かないと!」「え、え? 俺?」とか、なんとか、聞こえてくる。

菫ちゃんを止めることに必死になりすぎて、注目されてる事に気付かなかった。

どうしよ……これ……。

「花梨がイジワル言うから、グダグダになっちゃったぢゃん……」

「な゛っ゛!? 私のせいじゃないでしょ! そもそも菫ちゃんがフザけた事を言わなければ、こんな結果にはならなかったんだからね!」

「ふざけてないもん……本気だもん……」

「あ゛ぁ゛!! まだ言うか!!」

「ま、まあまあ……姉さん落ち着いて……」

どうどう、と私を落ち着かせるタッ君。

空気が悪いと感じたのか、彼は話題を変えてきた。

「そ、それより、わざわざ一年の教室まで来てどうしたの? 二年生って別棟でしょ? 何か用事?」

「あ、えっと、それは─────」

「それはね! あなたに会いに来たからだよ!」

私の言葉を遮って、半ば食い気味に絡んでいく菫ちゃん。

タッ君の手を取り、それを両手で包み込む。

「あ……えっと……あなたは確か……凛子の事務所にいた……」

「もしかして私のこと覚えててくれたの!? 嬉しいっ!」

「ま、まぁ……ピンクの髪の人、初めて見ましたからね……」

そう呟いたタッ君が、チラチラとこちらに視線を送ってくる。

なんだろ……?

なんだか助けを求めるような……あ゛っ!?

菫ちゃん(あのバカ) 、タッ君の手を自分のおっぱいに押し付けている! 穢(けが) らわしい!!

「タカシくん……私ね……すっごくキミに会いたかったんだよ……」

「え? そ、そうなんすか?」

「そうなんすよ……その証拠にほら……私の胸、すごくドキドキしてるでしょ? これは……タカシ君が原因……」

「いや……よ、よく分かんないっすけど……」

「鈍感だなぁ〜……じゃあ、こうやって手を開いて……もっと強く握って……ほらほら……」

「ほらほら……じゃないんだよ!! 人の弟に何してくれてんの!!」

菫ちゃんの腕に、超本気の手刀を叩き込む。

彼女は「あ゛か゛ぁ゛っ゛!?」とおっさんのような悲鳴を上げた。

「痛いじゃない! なにするのよ! 良い雰囲気だったのにぃ!」

「姉の目の前で、弟を誘惑する友人がどこの世界にいるのよ! いい加減にしなさい!」

「ちょっとサービスしただけじゃん! タカシ君だって喜んでたでしょ!!」

「喜んでないよ!! タッ君は私のおっぱいが一番なんだ!! 今からそれを証明してやるわぁぁぁぁぁ!!」

「ち、ちょっと二人ともマジで止めてって……みんなに注目されてるから……」

タッ君が止めるのを無視して、菫ちゃんとギャーギャー口論を繰り返す。

昼休みの終わりを告げる鐘が鳴るまで、私達の喧嘩は止まらなかった。

ちなみに。

タッ君はおっぱいが大好きで、手当り次第、女子生徒の胸を揉みしだく変態、という噂が、この日を境に流れ始めた…………らしい。

───────────

タカシが姉達に絡まれる一方で、ナタリーとシェリーは、巴ちゃんに捕まっていた。

二人とも、タカシと一緒に花梨の元へ向かうつもりだったが、好奇心旺盛の巴ちゃんは、それを許さなかった。

ナタリー達は、まさに生きる伝説。

聞きたい事が山ほどあった。

「さっきタカシさんが言っていたんだけどさ、戦闘能力はナタリーさんやシェリーさんの方が高いんだってね!? どっちの方が強いんだい!?」

重度の中二病を 患(わずら) う巴ちゃんにとって、やはり最強議論は欠かせない。

休日、好きな漫画の最強キャラについて、一日中ネットでレスバを繰り広げるような女だ。

ナタリーとシェリー、どっちが強いのか、興味しか沸かない。

「アタシ達の方が戦闘能力高い……? それってタカスィが言ったのぉ〜?」

「そうだよ。十回戦ったら九回は負けるって言ってたかな」

「また、いい加減なことばっか言いやがってぇ〜……そんなワケねぇじゃん……」

巴ちゃんの言葉に、ナタリーが呆れたような顔をした。

「え? 違うのかい? タカシさんはそう言ってたんだけど」

「タカスィが、どういうつもりで言ったのかは知らないけどさぁ〜、本気で殺り合ったら、アタシなんて相手にならねぇよぉ〜。勝てるわけないじゃんかぁ〜」

「え? そうなの……?」

「そうだよぉ〜。そもそもアタシは白兵戦特化の性能だし、距離取られたら何も出来ないもぉ〜ん」

「え、え?」

巴ちゃんが戸惑っていると、シェリーが会話に混ざってきた。

「タカシ君の事ですから、勝負の方法に殺し合いまでは含んでいないんじゃありませんか? 彼、甘いですから」

「じゃぁ、ただの殴り合いってこと? そこまでハンデくれるなら勝てるかもぉ〜」

「ど、どういう意味なんだい?」

二転三転する話に戸惑っていると、ナタリーとシェリーが説明を始めた。

「先程ナタリーさんも仰ってましたが、単純な戦闘“だけ”ならワタクシ達の方が強いですわ。ですが、実際に殺し合いになったらタカシ君には勝てませんの」

「例えばさぁ〜、さっきルッカを体験したでしょ〜? タカスィの命令が『窓を開けて飛び降りろ』だったら、どうなってたと思う〜?」

「………………あ」

「言ってる意味分かったぁ〜? 幾ら力が強くても、タカスィに勝てないって理由〜」

「な、なるほど……」

思わず納得してしまう巴ちゃん。

あまり深くは考えていなかったが、冷静に思い返すと確かにヤバい。

たった一言呟くだけで相手を殺せるのだ。チートだ。チートすぎる。

「ルッカにはデメリットもあるのですが、タカシ君の能力はそれだけじゃありませんし……」

シェリーは一拍置いて、小さく微笑みながら呟いた。

「人類の最終兵器に、勝てるワケありませんわ」