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作品タイトル不明

姉だった人のことと、後悔 ③

『王弟の愛する知識の花』クレヴァーナ・シンフォイガ。

それがあの人の名だとは、やっぱりしっくりこない。だけれども、それは確かな事実として、噂が出回っている。

それでいて……不可解なことにシンフォイガ公爵家から距離を置こうとする家が多いというのが実感出来ている。

これに関しては父上や母上も言っていた。

陛下から待機するように言われている今の現状でも確かにそのことが分かる。――それはそれだけ……あの人の影響力が強いということ。

他国に居る状況で、シンフォイガ公爵家にそれだけの影響を与えるなんて普通ではありえない。

だってあの人が幾ら『知識の花』などと呼ばれるようになったとしても、一個人だ。たった一人が活躍したからといってこんなことになるなんて信じられなかった。

シンフォイガ公爵家は国内外にその名を轟かせている魔術師の家系である。私達は魔物が現れた際には、国を守るために全力を尽くしている。だからこそ、元々の姉の嫁ぎ先であったウェグセンダ公爵家と共に王国民達から尊敬を集めていた。

それがどうして……自分で魔術も使えないあの人一人に、その立場を揺るがされるようなことになっているのだろうか。

隣国で名を広めているというのにあの人は相変わらず魔術の一つも使えないようだ。

魔力だけはあるのに魔術の一つも使えない欠陥品。

そのことは変わらないのに……あの人は確かに我が家に影響を与えている。

父上と母上はあの人がそれだけの影響力を我が家に与えていることが不快だったようだ。私だって言葉に表せないもやもやとした感覚はあった。どちらかというとあの人がそんな風にこちらに影響を与えていることが信じられないと、そう思っている気持ちの方が強かった。

「父上、母上。私達にとってあの人は取るに足らない存在のように感じてしまいますが、隣国でこれだけ名を馳せているのならば対応は気を付けるべきかもしれません」

私だって戸惑いは強かった。だけれども自分よりも取り乱している父上と母上を見ていると不思議と少しだけ冷静になれた。

それにしても父上と母上がこれだけ取り乱している様子を見るのは初めてで、逆に少し冷静になってしまったと言えるかもしれない。

父上と母上がこれだけ取り乱しているのは……あの人の親としての責任をなんだかんだ感じているからかもしれない。私だって、あの人が隣国でそれだけ活躍していることがどれだけ調べてもなかなか信じられない状況だ。

特に産まれた時からあの人のことを知っている父上と母上は特に信じることが出来ない様子だった。

それでいてシンフォイガ公爵家で、唯一魔術が使えない落ちこぼれであり、折角父上と母上が見つけた嫁ぎ先のウェグセンダ公爵家でも失敗し、離縁。

それだけの情報を並べると、『王弟の愛する知識の花』などと呼ばれる存在とは結び付かない。それに隣国の王弟殿下に愛されているということも、理解が出来ない。

ただ混乱している中で、父上と母上は領内の対応も進めていた。

シンフォイガ公爵領でも、あの人の噂は流れていた。というより、あの人がそれだけ活躍すればするほど、その名がこちらに流れてきている。

――シンフォイガ公爵家は領民達から慕われていた。だというのにあの人の影響でこういう状況になっていることに困惑してしまった。

父上と母上は領民達に対して、「クレヴァーナが他国で活躍しているなんて間違いである」とそういう風に説明していた。私も本当のことだとは全く思えないが……それでもこれだけの噂がされているのだから、少なからず他国で活躍してはいるのであろうとは思う。

「父上、母上。あまりそういう風なことはしない方がいいのでは? 私もあの人が本当にそう呼ばれるほど活躍していることも想像がつかないですけど、我が家がこういう状況に陥っているということはそれだけの影響力を他国で持ち合わせているなら、こういう行動は後から大変なことになるのでは?」

私がそう口にしたのは、これから先のことを見据えてだった。

私の知っているあの人は自分の意思で何かをしようとはしなかった。人に関して興味などなさげで、何を考えているのか全く分からない人だった。だからこそ例えばシンフォイガ公爵家が不利益なことをしたからといって報復などはないかもしれない。

ただ目の前にあの人が居ない状況で、実際にどういう風に問題が起こるかは分からない。

「キジェント、クレヴァーナが本当に隣国で影響力を増しているとしても、私達が負けるとでも?」

母上はそんな風に、厳しい言葉を私にかけた。

母上としてみれば、あの人のせいでこの家が大変な状態に陥っていることが気に食わないのだろうとは想像が出来た。あの人の影響で、これだけシンフォイガ公爵家が大変な目に遭っていることには私も不愉快な気持ちになっている。

ただ父上も母上も、あの人が何をしようとも自分達の方が優勢だとそう思っているようだった。幾ら隣国で『知識の花』として活躍していても、このロージュン国で長年名を馳せているシンフォイガ公爵家ならば何があったとしても問題がないと、私は未来のことで心配はしながらも――そんな風に思っていた。

それが楽観的すぎたと分かったのは、しばらくしてからだった。

クレヴァーナ・シンフォイガは――私の二番目の姉であるあの人は、シンフォイガ公爵家を凌駕するだけの影響力を持ち合わせていた。