軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

女性が生きやすい環境づくり ⑧

「旦那様」

私はモートナさんがそう言って、伯爵に話しかける様子を見守っている。

モートナさんと子供たちがこれから生きていくための準備は既に整えている。私の生徒たち――花びら達は本当に優秀なの。

本当に自慢の生徒たちだわ。

ちなみにこの場に居るのは私だけではないわ。他の人達もひっそりとモートナさんと伯爵の会話を見守っているの。もちろん、ばれないようにはしているわ。

だって伯爵は誰かが居る前では、横暴な態度は見せないようにしているようだもの。

そもそもの話、特定の人の前でしかそういう態度を行わずに基本的には優し気な表情を浮かべているということは――その言動が周りから褒められたものではないと分かっているということ。

誰にでも横暴な態度をしているというのならば、まだそういう性格なのだと納得はする。でもそうでないのが、何というか私は嫌だなとは思う。

「モートナ! ようやく反省したのか?」

しばらくの間、モートナさんは伯爵に自分から話しかけたりなどしていなかった。伯爵側からパフォーマンスのように、モートナさんに接触していた。そしてその様子を見て、「こんなに素晴らしい夫が居るのにどうして別れようとしているのか」とそんな風に言ってくる人も多かったようだ。そういう人たちのことを愚痴るように話していた。

誰が何と言おうとも――モートナさんは既に決めてしまっている。離縁をすることを、そして新しい人生を歩むことを決めてしまっている。

それは揺るがないことなのに、伯爵のようにその意思を簡単に曲げられると思っている人は少なからずいるのだ。

……こういうのを見ていると、私は誰かが自分のやりたいことを叶えていけるように環境を整えられたらいいなとそんなことを考える。

「旦那様、私は反省することなど何もございませんわ」

「なに?」

モートナさんの言葉に、伯爵の表情が険しくなる。

自分の妻に対してああいう表情を向けるのは、褒められたものではないわね。私に対して良い感情を抱いてなかった元夫のデグミアン様だってこんな表情は向けてこなかったわ。そして今の夫であるカウディオはいつだって優しい。

「モートナ、何を言っているんだ? 君は反省する以外に何もないだろう? そんなことも分からないのか? そんな君が一人で生きていけるはずなどないのだから、離縁をしようなどと戯言を言うのはやめろ」

……威圧的で、雁字搦めに、モートナさんの意思を無視しようとする言葉。

誰かから向けられる言葉というのは、一種の魔術のようなものだ。私も離縁される前、魔術を使えないというただ一点のみで、ああいう扱いをされ続けていて、それが当たり前だと言葉で示され続けていた。

――でもそうではないのだと、新しい人生を歩み出して知った。

モートナさんだって、同じような状況なのだ。

伯爵からこれだけの言葉をかけられて、それで離縁が出来ないときっと思い込まされていたのだと思う。

「そんなことはあり得ません。私は自分の意思で、旦那様と離縁をしたいと思ってます。どれだけそんなこと出来るはずがないとそう言われたとしても――私はもうそうすることを決めています。離縁の手続きも進めております」

モートナさんがそう口にした瞬間、伯爵の表情が恐ろしいものになる。

……そして驚いたことに伯爵は手を振り上げた。そしてモートナさんに手を出そうとしたときに、それは弾かれる。

「なっ……」

「……まさか、手をあげようとなさるなんて」

私は魔道具をモートナさんに渡していた。危険がないようにするためのものを。

流石に手をあげたりなんてしないと思いたかったけれど、これまでそれがなかったのは――モートナさんがなんだかんだ言うことを聞いていたからだと思う。

言葉で制することが出来ていたから、力で押さえつける必要はなかった。

「そんな高価な魔道具を私は買い与えたりなどしていない! まさか、伯爵家のお金を無断で使ったのか!?」

モートナさんの意思を聞くではなく、ただ文句を口にする。

やっぱり問題のある方だなと思う。モートナさんがこれから新しい一歩を踏み出そうとしているのを阻害しようとしている。

「……本当に、旦那様は私の意思など無視してばかりですね。伯爵家のお金など使っておりません。私を手助けしてくださる方がいたから、貸してもらっただけですわ」

「……手助け? まさか、あの『知識の花』とか呼ばれている生意気な女か!? やはりあんな女をお前に会わせるべきではなかった!」

「クレヴァーナ様のことを侮辱しないでくださいませ!! 貴方が何と言おうとも、私は離縁します!」

モートナさんはまっすぐに伯爵の目を見て、そう言い切った。

魔道具があるにもかかわらず、また手をあげようとして――、

「伯爵、これはどういうことなんだい!」

その手は止められた。

――私たちがその場に足を踏み入れたのだ。そして声を上げたのは、モートナさんの父親である。