軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

半年後、一つの出会い

私が離縁されてから、もう半年も経過している。そのたった半年の期間だけれども、私にとっては人生の中で一番充実した日々だったと言えるかもしれない。これだけ自分の意思で考えて、自分のやりたいように行動したのは初めてだったから。

――本で読んだ図書館に来てみたい。ただそれだけの気持ちでやってきたけれど、こうして隣国にきて良かったとそう思える。

半年の間でまた娘に贈り物はしたけれど、案の定、全て送り返されてきた。それどころか使用人の名で、「公爵様は受け取るつもりは一切ないようです。これ以上、お送りしない方がいいかと」という手紙がついてきた。

……やっぱり元夫たちは私からの贈り物を娘に渡す気はないようだ。

半年間そうだったので、流石に諦めることにする。ただいつか渡せる機会が出来るかもしれないと期待して、購入だけは続けようと思っている。

私がそう言ったら、ルソアさん達には「本当にあなたの元々の嫁ぎ先はどうしようもないわね」なんて言われた。私の味方をしてくれるのは嬉しいけれど、元夫たちが悪いわけではないとは思っている。だって、悪い噂を流されている人を子供に近づけたくないとするのは当たり前と言えば当たり前のことだから。……私だって危険な人には娘に近づいてほしくないと思う。故郷にいた頃の私は、諦めている部分が多かった。自分の噂をがむしゃらにどうにかしようとか、そういうことも出来ていなかった。それも悪かったかなぁといまだからこそ思う。

怒ったり、本気でぶつかり合ったり――そういうことがきっと故郷の私にとっては足りなかった。それを行えていれば結婚生活の六年間ももしかしたら違うものになっていたかもしれない。

翻訳だったり、魔法具への補充だったり――、後は他国からやってきた母国語以外喋れない要人の相手だったり……そのあたりも任せてもらえていてかなりの手当はもらえている。

要人の相手に関しては私が本で読んだり、家族たちを見て身に着けた所作や言葉遣いなども含めてが役に立っているようだ。私は学園や教師や家庭教師から学んだわけではないけれど、そういうことで貴族としての所作はきちんと身についていたみたい。

コルドさんにも「言われなければ特別な教育を受けていないとは気づけない」なんて言われたのだ。

独学で学んだことで私はそれだけの物を身に付けられていたのだと、実感してなんだか嬉しかった。

「今度、王弟殿下がこちらに訪れるの。クレヴァーナがお相手してくれる?」

――ある日、館長からそんなことを言われた。

「え、私で大丈夫ですか?」

王弟殿下と聞いて私は、大丈夫かなと心配になる。ここに勤め出してから貴族などの対応はしてきたけれど、王族の対応はしたことがない。

公爵家だと王族とも関わりが深かったりするものらしいけれど、私は王族と直接会話をしたことなど全然ないのだ。だから少しだけ、大丈夫かなと思ってしまった。

だけど、「問題ないわ。クレヴァーナさんなら、きちんと対応が出来ると思っているもの。それにあの方は少しの失敗ぐらいでは怒らないから安心してくれていいわ」と言われたのでやってみることにした。

その王弟殿下の名は、カウディオ・スラファーという名だという。私も情報としては知っている。この国にきて、様々な人たちと会話を交わすようになって流れている噂話は耳にしたものは全て覚えている。故郷では屋敷にいる家族や使用人たちの話しか聞けなかったので、他の人たちの話を聞けるだけでも楽しい。

私よりも四歳年下で、国王陛下を支えている有能な方らしい。見た目も整っており、まだ独身なのもありその妻の座を狙っている方も多いらしい。

私は見たことがないけれど、確か私の弟も社交界だと女性に囲まれたりしていたらしいと前に聞いたことがある。なので、そういう形で人に囲まれるような方なのかもしれない。

この図書館にもよく訪れているらしいが、接触しないようにとお触れは出ており、護衛だってついているのに関わろうとする人はそれなりにいるんだそうだ。流行の小説で、偶然の出会いから王族に見初められるようなストーリーもあるので、そういう偶然を意図的に装ったりするようだ。もちろん、処罰されたらしいが、下位貴族で偶然を装い王弟殿下にぶつかった女性もいたらしい。

そういう話を聞いて、恋心の暴走というか、誰かの恋人になりたいという野望は驚くほどの行動を人にさせるのだなと驚いた。結婚歴はあっても恋なんてしたことがないので、そこまでするのかとそんな気分。

私も本気で、誰かを好きになったらそんな風になってしまうのだろうか……? 考えてみたけれど、全くそんな想像は出来なかった。

恋ってどういうものだろう?

恋をしたいと思って、するものではないと思う。

恋に落ちるという言葉も聞くけれど、どういう感覚なのだろう?

そんな風に深く私は考えてしまった。結局答えなんて全く出なかったけれど。

――そして王弟殿下の話を聞いたしばらく後、ご本人が図書館に訪れる日がやってきた。

職場仲間には「羨ましい」と言う人と「自分が任されなくてよかった」と言う人とそれぞれが分かれた。

羨ましがっている人は王弟殿下と親しくすることで利益を見いだしている人や奥方になれるのではと期待している人もそれぞれいる。安堵している人は王弟殿下に関わることで面倒なことも起こってしまうからとそちらの方を考えているらしい。

「カウディオ・スラファーだ。よろしく頼む」

殿下はにこやかに笑ってそう言った。

噂通り見目麗しく、人当たりの良い笑みを浮かべていた。