軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

猫日和より、一転

あれから、犯人が見つからないまま、また一人の犠牲者が出た。

この日も、水明は帝都の作りを覚えるために一人町を歩く傍ら、猫を探していた。

憲兵、勇者、そして自分たち。捜索に携わる者が増えたためなのか、犯人は犯行の頻度を下げているらしく、夜の捜索の成果は芳しくない。そのため、現在は再び協力者を募るべく、路地裏、藪周り、空き地などに顔を出していた。

そして、つい先ほど見つけた二匹目の猫を抱きながら、水明は路地から出る。

「こら、ガジガジするな。俺の指なんて噛んでもおいしくないだろ」

一度撫でてから何がそんなに良いのか、右手の人差し指をしきりに甘噛みする猫に少し困りつついる。猫の噛む癖は基本的には攻撃対象や獲物を仕留める時の行動の延長線上のものだが、いま抱いている猫はリラックスしているため、まだ撫でて欲しいのかもしれない。

そんなことを思って撫でていると、正面から見知った顔が現れる。

「スイメイ・ヤカギ……」

見覚えのある特徴的な容貌はそう、リリアナ・ザンダイクだった。

「――おお、ツインテ眼帯幼女か。久しぶりだな」

「ついんて……なんです。その訳のわからない、呼び名は」

「いや、まあなんとなくな。それにしても奇遇だなこんなところで。なんだ、やっぱお菓子が欲しくなったか?」

と、水明はおどけて問うが、リリアナはそんな気分ではないのか、いつにもまして剣呑に、言葉を返す。

「違います」

「お菓子じゃないのか」

「そんなことは、どうでも、いいのです」

「じゃあどうしたんだよ?」

やたら険しい雰囲気のリリアナに、そう訊ねる。平時のような普通の空気を漂わせてはいないが、醸し出すものが違うため、どこかおかしい。ただ、こちらを見る目は胸元へと注がれており、どこか冷静さに欠けている。

胸元には、二匹の猫がいるが、

「ね、猫さんを……私に、私に」

「……はぁ?」

リリアナが、猫をくれと言わんばかりに両手を広げて、詰め寄ってきた。

リリアナに請われ、抱えていた猫の一匹を抱かせてやり、いまは噴水の脇の椅子に落ち着いている。

「にゃん、にゃん、にゃん、にゃん」

他方、リリアナはこちらのことに見向きもせずに猫の鳴き真似を交え、猫と無邪気に戯れている。猫の両前足を持ったまま、二人で行うあの有名なわらべ歌の動きをしながらいる姿を傍目から見ると幸せそうで、昼下がりの楽園の中にいるかのよう。その表情は、いままで見たことのない飛びきりの笑顔が輝いていた。

「にゃん、にゃん、ぎゅう~」

と、リリアナはリズムの終わりに猫を抱き締める。猫が大好きなのだろう。猫共々愛らしい。そんなこちらのことなどすっかり忘れていそうな彼女に、水明は声を掛ける。

「楽しそうだな」

「――⁉ い、いつまで、そこにいるのですか⁉ スイメイ・ヤカギ!」

「いや、猫を返してもらうまでだが?」

そう言うと、リリアナは胡乱そうな表情で訊ねてくる。

「返す? この子を、あなたに、ですか?」

「ああ」

「この子は野良でしょう。あなたの猫では、ありません。何故猫さんをさらおうと、していたのですか。ことと次第によっては、軍事裁判所で死刑にしてもらいますよ?」

さらうとはなにか。冷めたジト目を突き刺して、しかも詮議もなしに死刑とはまた物騒な言いぐさである。こちらは「にゃん」と了承を得たものばかり連れてきていると言うのに。

まあ、

「何故って、猫をさわりたくなったんだよ」

「む……そうですか。それならまあ、いいでしょう」

いいのか。了解して、リリアナはまた猫と遊ぶのに夢中になる。納得するラインがよく掴めない。それにしても、

「猫、好きなんだな」

「猫さんだけでは、ありません。犬さんも、好きです。動物は、みんないい子ですから」

と言ったリリアナは、ややあって、猫を見ながら顔の見えない問いを投げてくる。

「聞きましたが、勇者と、事件の犯人を捕まえる勝負を、しているそうですね?」

「ああ、よく知ってるな」

「情報は、自然に耳に入ってきますから」

それは、軍の情報機関に所属しているから、なのだろう。特に自慢する風でもなく口にしたリリアナは、その話の続きなのか訊ねてくる。

「なぜ、勇者と勝負などしようなどと思ったのですか?」

「そりゃあ俺には二人の仲間のことが賭かってるからな」

そう事情は知っているものと見做して話をすると、

「女神が言うのなら、勇者に預けてしまえば、いいでしょう? その方が、問題に巻き込まれることもなく、あなたにとって楽なはず、です。それに女神のお告げなら滅多なことにはならないはず」

「随分冷たい言いぐさだな」

「冷たいかもしれませんが、道理、です」

「道理、ね」

水明が気のない風にオウム返しをすると、リリアナは少し苛立ったような表情を向け、

「そうでしょう。それに訊きますが、その手は、どうしたのですか?」

「これも聞いたのか。ああ、例の犯人にやられたよ」

水明が言うと、リリアナが彼の左手の包帯に目を落とす。

「……酷い状態、なのでしょう?」

「まあそうでもないさ。すぐ治るし」

「治る……? 治るのですか⁉」

「ん? なんだ、驚くことか?」

リリアナが驚いたことに意外さを覚え、訊ね返す水明。彼が首を傾げると、リリアナはぷいと顔を背ける。

「い、いえ、大佐からは酷そうだと、伺ったもの、ですから……」

「そうか。まあでも考えは変わらんよ」

「変わらないって……分かっているの、ですか? 犯人はこれまで、多くの者を手に掛けた、危険な人物です。手を引いた方が、いい」

「なんだ。さっきから随分噛みついてくるな。もしかして心配してくれてんのか?」

「――別にそう言うわけではありません」

間髪も入れず返された。

「最近似たようなことを言われたが、まあ途中で降りるつもりなら、勝負なんて受

けなかったさ」

「何故です。何故それほどまでに、こだわるのですかあなたは? それにそれが世界を救うのに必要なら――」

諦めるのが普通と言うのか。多のために少数を犠牲にする。確かに危機が迫っているのだから、割り切っていいのだろうかという疑問すら、起こらないのかもしれない。

「その前に」

「なんです?」

「放してやれ、もういいとさ」

と、水明はリリアナに抱かれたままの猫を指さす。猫はいつの間にか、しっぽを左右に振っていた。

「猫はな、大抵いまの状況に満足してないときはそうやってしっぽを横に振るんだ。抱かれて少し暑いんだろ」

「……いやなのですか」

と言ってリリアナはしゅんと残念そうにする。そして名残惜しそうに猫を放すと、猫は首を横に傾けて、リリアナを観察する体勢に入った。猫は彼女に興味があり、まだ嫌いというわけではないらしい。それを伝えると、彼女はまた目の輝きを取り戻して、猫を見詰める。

「先ほどの質問ですが」

「そうだな。なんで女神や勇者に立てつくか、だったか?」

リリアナが頷く。それに水明は息を吐いて、ややあって答える。

「お前にはさ、守りたいモンってのはないのかい?」

「守りたい、もの、ですか?」

「そうだ。いまの俺には、まあそれがあるのさ」

「私には、よくわかりません、そこまで、無理をする必要はないとしか……」

「わからないか。そうだな……例えば、家族とかはどうだ?」

「――」

どこか、声ならぬ声が聞こえた気がした。

「どうした?」

「私に、家族なんていません」

声の温度が下がり、拒絶するような言葉が発せられる。もしや、しっぽでも踏んでしまったのだろうか。何が彼女の怒りを喚起させたのかは不明だが、彼女には確かに父親がいるはずだ。顔を見ただけの時を合わせれば都合三度会ったことになる、オールバックの軍人。

「あの人、お前の父親なんだろう?」

「大佐は父である前に、私の上司です」

どういうことなのかそれは。普通の家族はそういう関係あっても、平時は父が前に来るものではないのか。そう水明が言おうとした時、内意を察したかリリアナは俯いて、

「大佐は私の実父ではありません。私は、両親に捨てられましたから」

「……そうだったのか。すまん。触れられたくない類の話か?」

「あまり」

それに水明はもう一度「すまん」と口にする。そして、重ねて問われた質問の答えを返す。

「まあ、まだ付き合いは浅いんだがな、俺にとっては大事だからだ」

「だから無理を、するのですか。早死にしますね。バカです」

「ひでぇ言いぐさだよほんと」

「でも、私にも……」

「ん?」

「何でも、ないです」

やはりいいと首を振ったリリアナに「そうか」と言って、水明は話をやめる。ちらり彼女を見ると、いつしか先ほどまでの目の輝きはなく、どことなくうわの空。前足を繰り出す猫を見詰めながら、その手遊びに付き合っている。

しばらくぼんやりとしていると、水明は近くに氷菓子を売っている屋台を見つける。そして立ち上がり、そこで二つほど買って戻った。

「ほれ。この前のお礼だ」

氷菓子を差し出されたことに気付き、眠そうな目で見上げてくるリリアナ。

「いらないと、言ったはずですが」

「まあ良いだろ、もらって減るモンじゃなし、もらっとけよ」

「いりません」

「いやもう買っちまったからさ」

少しの間、俯いて黙ったあと、やがて彼女は沈鬱そうな声を投げかけてくる。

「どうしてあなたは、私に優しくするのですか?」

「どうしてって……」

「あなたも、他の人のように私を、邪険に扱えばいい、疎ましいものと扱えばいい」

暗い。瞳も、それに映る自分も、何もかも。真っ暗な闇の中にいる。捨てられた、疎ましいもの。それらの言葉が、彼女の境遇を思い起こさせる。

「私は不気味でしょう? 小さいくせに、他人を害するような魔力を持っている。誰に対しても攻撃的です。だから」

「みんなそうなのか? あの時みたいに?」

「帝国で私は、畏怖の対象です。情報部の影を隠すためにつくられた、大きく暗い光なのです」

「だから俺みたいなのはいない、と?」

「そうです。あなたみたいな人は、いません。大佐以外は……」

歪んだ意思に駆られた口が、徐々に冷静さを取り戻していく。そのままリリアナは、悄然と肩を落として、黙ってしまった。

「あんま余計なことは喋らなさそうな人だが、いい人なんだな」

そう、水明はローグに対する感想を口にして、ポケットにしまっていた柔らかめの干し肉を猫にあげる。

「でも、辛いんじゃないのか?」

「それが私の仕事です。嫌な気分になろうと、拒否することはできません」

「だから、今の状況を甘んじて受けているのか」

「私は大佐の駒です。私が軍務を拒否すれば、私の居場所はなくなります」

十二、三歳の少女。身の振り方など、分かるはずもないか。

「私の話ばかりです」

「おれの話も聞きたいのか?」

「……どうして帝国に?」

「ちょっと欲しい物があってな」

「あの変わった魔法は、どこで覚えたのですか?」

「父親に教わった」

「犯人はどうやって、見つけたのです?」

「探してたらぐーぜん」

「……」

「なんだ。尋問かよ? 大佐さんに人となりでも探ってこいとでも言われたか?」

「そんなところです」

と、リリアナはすまし顔であっさりと答える。隠す必要性はないということか。

そんな折、

「――奇遇だね、スイメイ・ヤカギ」

横合いから掛けられた声に振り向くと、そこには勇者エリオットがいた。

「ああ、勇者サマか」

散歩か、それとも捜索の一環か。珍しい遭遇である。

「休憩中かい? 随分と余裕そうだね。もしかして捜索の方が滞ってでもいるのかい?」

「そっちはこんなところで油売ってて良いのかよ? 成果は芳しくないって聞いたぜ?」

「たまたま一度犯人を見つけたくらいで調子に乗らないでもらえるかな? 君だっていまは、動物と戯れているだけじゃないか」

挑発的な物言い応酬は、しかし険悪さには発展しなかった。エリオットは挨拶のつもりで、水明もリリアナとのあんな話のあとで、心もどこか冷めていたからだ。以前のような激発には繋がらない。

「今日はお供の魔法神官とやらはいないのか」

「クリスタはいつも一緒にいるわけじゃないよ。彼女には彼女の時間がある。それはそうと、君はまた違う女の子と一緒にいるんだね?」

エリオットはそう言って、リリアナに目を向けた。

「あんたはよく女に反応するな」

「男に反応するより健全だろう?」

「確かに、違いないな」

水明はエリオットの冗談に肩を竦め、そして気に染まないと鼻を鳴らす。すると、エリオットは再びリリアナの方を見て、

「彼女は?」

「連れじゃないぜ。帝国の軍人さんだ。猫さらいの件で尋問受けてる」

「それは間違いなく現行犯だな。牢屋に連れて行ってもらうといい」

「言ってろっての」

舌を出す水明を尻目に、エリオットがリリアナに笑顔を向けると、彼女は相手が勇者にもかかわらず、殺気と魔力で壁を作る。

それにはエリオットも面食らったようだが、特に悠然さを崩すことはなかった。

「嫌われたかな」

「さあな。こいつはいつもこうだから、よくわからん」

と、適当に返す。水明も、リリアナの思惑は分からない。彼女が猫に構っている姿を見ていると、エリオットが呼びかけてくる。

「なあ」

「なんだ」

訊ねたいかことでもあるのか。水明が素っ気なく聞き返すと、やはりエリオット

は真剣な口調で訊ねてくる。

「改めて聞こう。君は何故、女神アルシュナの言葉に背くんだ? たとえあのお告げが理解の及ばないものだからといっても、君たちの住む世界の女神の思し召しだぞ?」

「逆に俺はどうして別の世界から来たあんたが、この世界の神の言葉を盲信できるのか知りたいな」

「別にぼくは盲信しているわけじゃない。ただ、ぼくがするべきことだと思ったから、受け入れているだけさ」

エリオットはそう、良く晴れた空を見上げて言う。そんな彼の言い分には、水明もどこか聞き覚えがあって――

(黎二も、こんなんだったかな)

友人である黎二も、彼と同じような出どころの杳と知れない責任感に突き動かされ、頑なにこの世界の人たちのためにと言っていた。それはどことなく共通点のようなものとも思えるが果たして、

「女神アルシュナはこの世界を創り出した神なんだろう? 全知全能であり、人を邪悪な存在から守ると聞いている。それを念頭に入れて考えてみろ、そんな崇高な存在の言葉が、無意味であるというのか?」

「崇高な存在ね」

そう言った水明は、まるで下手なジョークを聞いた時のように、彼の発言を鼻で笑う。真面目に答えたエリオットは、それに確かな怒りを抱いて、

「何がおかしい?」

「おかしいかって、おかしいさ。全知全能? 崇高? なんだ。神なんてモンが善性だとでも言うのかよお前は。ヤツらがそんな高尚なモンかよ。奴らはどいつもこいつも自分たちの益にならないモンは容赦なく切り捨てる連中だぞ? よくそんな幻想抱けるな」

「幻想か。君の言い分にも根拠はないように思えるが?」

「……そうかもしれないってことだ。実際のところはお前だって分からないだろ?」

その言葉に、エリオットは言葉を続けられなかった。

「そういうことだ。誰とも知らない存在自分の道を曲げられてたまるか」

「確かに、君の言うことにも一理あるかもしれないな」

そんな考えるに足り得るというエリオットの言葉に、水明は変な顔を向けてしまう。

「なんだ」

「……いや、意外だったからな。さっきの流れだと、てっきりお前のお付きみたいに神を蔑ろにするヤツはみんな敵だみたいな考え方を持ってるんだと思ってたからな」

「ぼくだって、他人の信心の有無についてくらい弁えている。ぼくのいた世界の神は一つじゃなかったからね」

エリオットの言葉に、どこか気のない様子で手をひらひらと振る水明。

「そうかい。じゃあその流れで今回のことも考慮してくれると助かるんだけどねぇ」

「それとこれとは話が別だ。彼女がぼくらと一緒にいることがどんな意味を持っているかは分からないけれど、この世界の人たちを救うために必要なら、連れていくべきだね」

「またそれか」

「この世界は全て、運命という歯車でかみ合ってる。意味のない事柄なんて何一つない」

「かもしれんが、それで勝負っていうのもおかしな話と思うんだがな」

「そう思うなら君が身を引くことだな」

「馬鹿言えよ」

と吐き捨てた水明。それで、エリオットは説得を諦めたか、話は終わりと言うように手をぽんと一度叩いて、

「邪魔をしたね。君が話ができる人間でよかったよ。だが――」

エリオットは思わせぶりに溜めを作ったあと、

「ぼくは君が嫌いだ」

「奇遇だな。俺もお前はいけ好かない」

水明が口にすると、エリオットは来た道から逆方向へと抜けるように、水明の前を通っていった。話のできない奴とでも思われていたのか、それを確認しにきたのか、ただ単に 倶(とも) に天は戴かず、と宣しにきたのか。水明がエリオットの内意を胡乱げに思う中、リリアナのギャザーグローブに、じゃれついていた猫の爪が引っかかった。リリアナが手を引いた拍子に、グローブがまくれてしまう。

そこから、彼女の腕と手が見えた。

「――⁉」

リリアナはすぐにまくれを直して、その腕を隠す。どうやら、グローブの中身はエリオットには見えなかったらしい。

「どうしたの? 大丈夫かい?」

エリオットが遅れて覗き込んでくるが、それに対するリリアナの返事はない。どこか慌てた様子で水明の方を向き、すぐに踵を返した。

「失礼します!」

逃げ出すように去っていった彼女の背中に、水明は声を掛けることができなかった。

そう、グローブの中にあった手は、まるで 邪霊憑依(デーモナイズ) された人間が持つ皮膚の如く、黒く、泡立ったように変質していたから――

「――犯人に目星が付いたとは本当ですかスイメイ殿!」

「スイメイくん、それは本当か!」

フェルメニアとレフィールの驚きの声が響く。

家に戻った水明が、フェルメニアと、彼女から魔法を教えてもらっていたレフィールに簡略に告げると、二人は作業を中断して、どたどたと駆け寄ってきた。

メガネを掛けたフェルメニアと、数匹の猫に縋りつかれ、ぶら下がられて猫まみれになったレフィールに、複雑な心境で頷く水明。

「……ああ」

「どうしたんだ水明くん。犯人が見つかったのなら、この国にも、私たちにも良いことだと思うが?」

「そうなんだがな、そうでもないというかな……」

難しい顔でため息を吐く水明に、フェルメニアが怪訝そうな顔を向ける。

「どういうことです?」

「前に、リリアナと会ったって言ったろ。それで猫を探している最中に、今日もアイツと会ってな……」

食い入るように雁首を揃える二人に、あらましと自分がたどり着いた推測を明かしていく。滔々と、滔々と。

そんな風に口をゆっくりと動かすその途中に、自分のするべきことが徐々に頭の中で輪郭を帯びていく。己が信じ、己が成さねばならぬもの。それらを持つ自分が、いまこの異世界と、異世界で起こる事件と、召喚された勇者との競い合いの垣根を超えて、どうすればならないのか、と。いや、そんなもの今更考えなければならないようなことではないか。いままでそうしてきたように、これからもただひたすら、そうあればいいだけの話なのだから。

そしてその全てが固まった時に、耳朶の奥から響いてきたのは、

――救われない女を、救ってくれ。

そんな、父の発したあの言葉であった。