軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

勇者か戦か

クリスタが路地に駆け込んでからときは経ち、すでに午後。晴れやかだった空は危急を暗示するかのようににわかに崩れ、ぶ厚い雲がかかり、いまにも泣き出しそう。

そのせいか時機よくレフィールたちも戻り、水明たちや黎二たちは、思いの外早く八鍵邸のリビングに揃っていた。

話の用意ができたのを見計らって、イオ・クザミが口を開く。

「突然集まれとは、一体どうしたのだ? 話なら昨日十分にしたと思うが?」

「……?」

少々不満げな態度を表すイオ・クザミに、クリスタが訝しげな視線を向けている。瑞樹の姿で、グラツィエラのような尊大な口調を使い、足を組んでいるのだ。帝国の事件では瑞樹の相手をし、彼女の人となりに多少なり触れていたため、狐につままれたような心境なのだろう。もっともいままさにみな化かされているのだが。

ともあれそんな彼女に、黎二が答える。

「瑞樹のことは気にしないで。ちょっといろいろあって前と性格が違うだけだから」

「そ、それはちょっとなのですか……?」

「ちょっとってことにしといて欲しいんだ……お願い」

これ以上聞くな。そんな風に首を横に振った黎二に、クリスタはそれ以上訊ねなかった。勇者にお願いされれば、何も言えないか。

一方、何か気になったことでもあるのか、フェルメニアが口を開く。

「グラツィエラ殿下が来ておられないようですが……」

「グラツィエラ殿下は、何か用事があるようで、遅れる、とのことですよ」

「そうなのですか」

「来なくていい」

フェルメニアの疑問にはリリアナが答え、レフィールがむっつりと吐き捨てる。グラツィエラは皇女であるため自国にいると忙しいのだろうが――それはともかくレフィールは先日のことがまだ尾を引いているらしい。名前が出るたびに頬を膨らませ、拒絶反応を起こしている。

話を始めようとしたおり、黎二は何かに勘付いていたらしく、

「あのさ、クリスタさんがいて、エリオットがいないってことは」

「ああ、俺たちはもう事情は聞いている。これからもう一度説明してくれるそうだ」

水明が促すと、椅子に座ったクリスタが、重苦しい表情で話し始めた。

「――いまから一週間ほど前のことです。エリオットさまと私は慰問のために予定通りアステ王国入りを果たしたのですが、最西の街クラント市に入ったおり、救世教会を通じてハドリアス公爵から招待を受けたのです」

ハドリアス。その名前にまず反応したのは、ティータニアだった。

「 公爵(あのおとこ) から、ですか?」

「はい。歓待したいゆえ、是非屋敷に来て欲しいと」

それを聞いて、黎二やティータニアの顔色が変わる。彼らもクラント市に到着したおり、ハドリアスに呼ばれたため、これは何かあると思ったのだろう。

クリスタは話を続ける。

「私はその日ひどく疲れていまして、エリオットさまにお気を使っていただき、公爵邸にはエリオットさまお一人でお向かいになられました。ですが、そのあと、エリオットさまがお戻りになることはなく……」

「それで、何かあったのではないか、と」

「はい。救世教会を通してどういったことになっているのかを訪ねたのですが、エリオットさまは公爵邸で歓待を受け、お休みになられているという一点張りで、決して中には入れてもらえないのです」

クリスタにまず質問をしたのは、フェルメニア。

「聖庁にはこのことを連絡したのですか?」

「したにはしたのですが……反応は芳しくなく」

「芳しくなかった? 勇者のことなのに?」

黎二の疑問には、ティータニアが答える。

「ハドリアス公爵は毎年聖庁へ多額の寄付金を送っています。それゆえ、言いくるめられている可能性もあります」

「なるほどな。根回しはすでに完璧ってことだね。でもどうして……」

険しい顔で唸る黎二に同意するかのように、クリスタも渋い表情を見せる。

「はい。公爵閣下がエリオットさまを拘束する理由がわからず、こちらも手の出しようがないのです……」

ハドリアス公爵に詰め寄るための決定的な一手に欠けている。ここではそれが癌になっているのだろう。勇者に害をなしているという明確な証拠がない以上、強硬には出られないのだ。

ハドリアスの思惑がわからない。浮上した謎にみなが首を傾げる中、レフィールには心当たりがあるらしく、イスにちょこんと腰かけた状態からひょいっと手を挙げる。

「発言してもいいか?」

「はい」

「ごく最近、我々も勇者関連でいろいろあった。おそらくはそれなのではないか?」

「勇者関連って、ああ、 普遍の使徒(ヤツら) か……」

「じゃあ連合の勇者を襲った連中に、ハドリアス公爵が一枚噛んでるってこと?」

「可能性がある、としかまだ言えないがね」

レフィール、水明、黎二の間で、会話が勝手に進んでいることに、クリスタはきょとんとしている。断片的な情報からは読み取れない彼女に、リリアナが説明し始める。

「少し前、私たちが連合に行ったのは、クリスタさんもご存じだと思います、が、そのとき、連合の勇者が、ある集団に襲われ、ました。その集団は自らを普遍の使徒、と名乗り、まだ理由はわかりませんが、勇者をかどわかしそうとしていたの、です」

「……では、その集団にハドリアス公爵も与している可能性があると」

「現時点で魔族以外に勇者に何か仕掛けてくる連中がいないからな。他に何か出て来たとか、アステルが国家ぐるみで何かしようとしているとかじゃない限り、それに繋げて考えるのが妥当だろうよ」

苦酸を舐めさせられ続けた水明が、舌に味を思い出したかのように苦い顔で唸る。

ハドリアス個人が何か思惑を抱いている。他に勇者を利用しようと企む連中がいる。可能性を挙げればきりがないが、それならば普遍の使徒と結びつけた方がタイミング的にも合致するのだ。

だがその考えに異を唱えたのは、まさかティータニアだった。

「個人的な意見ですが、ハドリアス公爵が普遍の使徒に与しているというのは、考えにくいですね」

彼女の言葉を聞いて、水明は目を丸くする。

「意外だな。ティアもあいつのことは好きじゃないんだろ?」

「た、確かに反りが合わない相手だというのはそうですが、あの男は自国の貴族ですよ? ……それにハドリアス公爵は父上の第一の忠臣です。あの男が二君に仕えるなど天地がひっくり返ってもあり得ないことですわ」

ティータニアの断言に、驚きの表情を見せる面々。嫌いらしいということをたびたび匂わせていたため、その話はかなり思いの外だった。

そんな中、同じくアステルの人間のフェルメニアが補足する。

「ハドリアス公爵は若い頃からアルマディヤウス陛下と共に、戦場や政治の場を駆け抜けてきたお方と聞き及んでおります。陛下からの信任も篤く、公爵の忠義もまた篤いと。それゆえ、アステルの勇者に関する全ての事柄を任せられたという話があるのです。……ですが状況を鑑みても、やはりハドリアス公爵に不審を抱かざるを得ない状況なのではないでしょうか?」

「ええ。普遍の使徒とのかかわりについては抜きにしても、この件を含め、勇者の動きであの男がなにか企んでいるということは私も否定しません。全てアステルを思っての行動であるのでしょう。ですが」

そう言ってティータニアは唸り始める。ハドリアスに対しての個人的な評価、そして彼の現在の行動のちぐはぐさから、その先の動向がまるで読めず、なんとも言えないのだろう。

だがこの状況でエリオットが自ら行動を自粛しているというのはどう考えても道理に合わないのだ。ここで『大丈夫だ』などと楽観視できるものではない。

リビングに妙な空気が充満する中、黎二が口を開く。

「……どうやら、今度はクラント市に行かなきゃいけないようだね」

「ええ、そうなりますね」

「忙しないが、我が 婚約者(フィアンセ) の言うことだ。我も快く聞いてやろう」

黎二、ティータニア、イオ・クザミが合意しかけたそのときだった。

「――いや、それは待ってもらおう」

突然、リビングのドアが勢いよく開かれる。見れば、リビングの入り口に、軍服をまとったグラツィエラが立っていた。

いつものように軍服を翻し金髪をたなびかせ、威風堂々。突然あらわれたことへの驚きもつかの間、水明が彼女に対し非難がましい半眼を向ける。

「お前、また勝手に……」

「ここは私の国だ。私が何をしても構わんだろうが」

「構うわ! 人んち勝手に入って来るなんてプライバシーの侵害だぞ!」

「だから変換されない言葉を使うなというのだ。話すならこの世界にある概念で話せこのたわけ」

罵倒の交じった物言いに、水明が『がおーっ』と吼え始めたのを見て、黎二が口を挟む。

「それで、待ってくれというのはどういうことなんですか?」

「ああ、北部で魔族の進攻が確認された。このままいけば帝国が戦場になる」

グラツィエラが率直に事情を口にした途端、椅子を動かす音がいくつも響く。立ち上がったのは、ティータニアやレフィールだ。

ティータニアが表情に驚きを滲ませたまま、真っ先に訊ねる。

「グラツィエラ殿下、魔族の規模は?」

「正確な数はわからないが、かなり多いと聞く。おそらく帝国の全兵力を結集して戦わなければならないだろう」

「こんな急に……?」

話を聞いていた黎二が、眉をひそめる。確かに進攻が唐突だ。彼の困惑もむべなるかなというもの。

だが、水明には魔族が一手仕掛けてくることへの心当たりがあった。

「なるほど。将が倒されまくってるから、連中ここで巻き返そうって腹か」

これまで水明たちが倒した魔族は、ラジャス、マウハリオ、ヴィシュッダの三体だ。勇者を討てず、それだけの損害を出しているのならば、魔族とて焦りもするだろう。

そしてその巻き返しを図るため、目を付けたのがネルフェリア帝国、ということだ。

ネルフェリア帝国は東にアステル王国、西にサーディアス連合、連合自治州、と国を持ち北方の中心として存在する。 衢地(くち) と呼ばれる要衝。流通の大動脈であるため、ここを断たれると北方の流通が死ぬことになるのだ。帝国を落とされたときのその影響は、計り知れない。

だが、そんな水明の考えとは裏腹に、グラツィエラは、

「先に言っておくが、他の国からの援護はない」

「それはどういうことです?」

ここで疑問の声を上げたのは、ほかならぬティータニアだった。

前述の衢地という理由もあるが、もともとアステルとネルフェリアは同盟国であり、こういった事態において協力するのは当たり前のこと。しかしその当たり前がなされないのは不可解を通り越して異常でもあるのだ。

アステルの姫として、自国の出方が不思議で仕方ないのだろう。

「まず自治州についてだが、連合北に援兵を送っているため、これ以上兵は出せないとのことだ。アステルについては、以前あった魔族進攻の後始末と今後の対策、そして今回の魔族の侵攻で被害を受けた国々からの難民受け入れがあり、出兵は見送らせてもらうとの回答があった」

グラツィエラの説明を聞いて、レフィールが眉間にしわを寄せて唸る。

「事情はわかるが……こう言ってはなんだが、よくそんな言い分を通そうとするな」

各国の対応に苦言を呈するレフィールに対し、グラツィエラが答える。

「それには理由がある。お前たちは最近、アステルや連合、自治州で広がっている噂のことは聞いてはいないか?」

「ああ、帝国が軍備増強とか対外牽制とかしてるって噂だな。リリアナから欺瞞工作だって聞いた……って、それが関係してるのかよ?」

「そうだ。帝国では魔族と戦う準備ができているだろうと言って、歯牙にもかけん。全くどういう神経をしているのか。危機感が薄いという話ではない」

魔族が迫っているのに、協力体制が整えられない。そんな現状に、グラツィエラは失望の色を色濃く見せる。

一方、やはり腑に落ちないらしい黎二が隣に視線を向けた。

「ティア、そういうのってアリなの?」

「はい。同盟国の危機を見捨てるという手は、別段おかしなものではありません。帝国に魔族が攻めてくるのがわかっている以上、戦争は止められませんから、財政面でも軍事面でも見過ごせない被害が確実に出ます。その後問題としてあげつらったとしても、受けた被害によって帝国も他国に対し実力行使には出にくくなるでしょう」

「帝国の国力の減退が見込まれて、周辺国としては嬉しい限りだろうな」

グラツィエラは不愉快そうに鼻を鳴らす。その不満がティータニアに向けられていないのは、援兵見送りが彼女の意とは違うものだと理解しているからだろう。

水明がイスの背もたれに思い切り身体を預け、天上を仰ぐ。

「帝国が落ちたら損害も馬鹿になんないと思うんだがなー」

「つけ入るところはそこだよスイメイくん。もし帝都が魔族に陥落させられたとして、周辺各国が次に取る行動と言えばなんだ? 魔族から同胞たる人間を救うことを大義名分に、軍をこれでもかと帝国内に送り込むだろう。帝都が陥落する事態に陥っているのならすでに総力戦で魔族の疲弊も多きい。なにとは口に出すこともないだろうが、やりたいことは楽にできるだろうな」

「ちょっと違うが、二虎競食の計あたりか……。ともあれひどいこと考えるな」

「本当にそういった理由でなのかはわからないが、そういった思惑を巡らせているかもしれないということだ」

レフィールの話を聞いていたティータニアは、やはりあり得ないとと思っているらしく。

「やはりお父様がそういう手を取るのは考えにくいですね」

「そこだな。アルマディヤウス陛下ならばこの場合、恩を売る方を取るだろう。あの方が議会に押し切られたというのも考えにくい」

「お父様が思うように動けない、もしくは情報が伝わっていないかのどちらかでしょうね」

前者はあり得ない、というティータニアの言葉のあとに、グラツィエラが、

「――だが、だからといって帝国だけで戦うというのは困る。それゆえ、いまからティータニア殿下、フェルメニア殿、勇者レイジに対し帝国から正式に魔族迎撃戦への参陣の要請を申し入れる」

「なるほど、それで『待ってもらおう』ってことか。引き入れちまえば、ある程度は援助しなければならなくなるしな」

「そういうことだ」

どすんとイスに腰かけ、グラツィエラは水明の回答を肯定する。だが――

「ですがそれではエリオットさまが!」

「仕方なかろう。勇者エリオットのことも重要なのは私たちも承知の上だ。だが、こちらも参陣してもらわなければ困るのだ。それに奴らもすぐに勇者をどうこうするつもりはあるまい」

「それは、そうですが……」

クリスタは協力を取り付けられないことに気落ちして、いささかばかり語気を落とす。

そんな彼女の心情を慮った黎二が、声を上げた。

「帝国の方から手を回して、どうにかできないかな?」

「それについてはやったとしても無駄になるだろう。聖庁の神官が我らに助けを求めにきたということは、聖庁がものの役に立たなかったということだ。いま帝国は聖庁との関係性を重視しているゆえ、介入に仲立ちさせても上手くはいかんだろう。それなら帝国に縋るよりも――」

グラツィエラの視線が向かった先は、ティータニアだった。

「私の方でどうにかするのが筋というものですね。わかりました。私の方から父上に一筆認めておきましょう……ハドリアス公爵がここまで強硬に出られたということは、すでに遅きに失しているのかもしれませんが」

それは持って当たり前の懸念だ。策略家が相手であるなら、講じられた策が表に出たときはもう手が付けられなくなっている可能性が高い。いまから上位者の協力を得ても、望むような結果は得られないはずだ。

「やはり、エリオットさまのことは……」

後回しなのか。エリオットを思うクリスタの心情は察するに余りある。

そんな中、イオ・クザミには異論があるようで、

「戦場に行く行かないはつまるところ、我が婚約者の判断であろう? いくらお前たちでも、我が婚約者が行くと言えば、その意向は無視できまい」

そう言って、黎二に「どうなのだ?」と言うように含みを持った視線を向ける。確かに黎二がエリオットを助けに行くと言えば、今度はグラツィエラがそれを説得しなければならなくなり、覆さなければならなくなる。道理だ。

一方決断を迫られた黎二はしばし瞑目して考え込み、やがて彼が出した答えは、

「……クリスタさん、ごめんなさい。今回は魔族との戦いの方が優先しなきゃならないと思う」

「……いえ、魔族の討伐は勇者さまの本懐。それを感謝こそすれ、責める道理はございません」

「うん。エリオットが捕まっているんだとしても、僕もすぐに危害を加えられるということはないと思う。先に魔族をどうにかして、それから改めて助けに行こう」

決着がついたらしい。ティータニアもイオ・クザミも、黎二の意向に従うというような旨を告げている。

そんな中、ふと黎二が水明たちの方を向く。そして、

「水明たちはどうするの?」

「俺たちか……」

魔族との戦いに参加するか、エリオットを助けに行くか、どちらか。こういう場合の判断は、水明にとっても難しいところである。この場合特に優先事項がないというのが、判断を鈍らせるのだ。この場合水明個人としては、黎二や瑞樹(身体)が危険な場所に向かうため、そちらの支援をしたくはある。もちろんエリオットには黎二の件で借りがあるゆえ、助けに行くのに抵抗は全くないのだが。

「ふむ。スイメイくん、迷っているのか」

「レフィ、すまんがあと一押し頼むわ」

迷いを察したレフィールの申し出に、もろ手を上げてお願いする。こういうときは、将の器を持つ彼女の存在がありがたい。説得力があり、綺麗な答えを出してくれる。

小学生程度の背丈である彼女が、背もたれに身体を預け、腕を組む。傍から見れば、小さな子供が背伸びをしているようにも見えるが、口から出てくる言葉は大人のそれ。

「この場合、大局を見るならば優先されるのは魔族との戦だ。だが勇者という事柄が関わるゆえ、無視できないとも言える。勇者のことも大局を見据えれば大きな力なのだからな。それを失うということは、大きな損失だ。だが、やはり目に見える大きな脅威を前に戦力を分散させるのは拙いだろうな」

「レフィールさんも先生も、戦場では大きな戦力ですしね」

黎二の同意を得たレフィールは、最後に謝罪を兼ねて。

「クリスタ嬢には申し訳ないが、待ってもらうというほかないだろう。無論帝国が早急に周辺諸国の協力を取り付け、魔族の進攻能力を鈍らせることができれば話は別だがな」

「はい」

「じゃあ、俺たちも魔族と戦いに行くか……ん? 少し前にどっかで似たようなことを言ったような……」

水明はそんなことを言って、はてなと首を傾げる。しかしてその様子は、周囲にどう見えるのか。ただの勘違いなのか、はたまた忘失が見せる間抜け面か。これまで水明と共にいた者たちは、後者だろうが。

彼を見て笑いを漏らしたのは、フェルメニアだった。

「その、何と言いますか、スイメイ殿の思う通りには行きませんね」

控えめな皮肉にも聞こえなくもないが、笑みを見せているゆえ可笑しかっただけなのだろう。水明の思う通りとはつまり、魔族と戦わないことなのだから、これで三度目の『ままならぬ』となったわけだ。

それには黎二も追随して、

「お城でも戦いたくないってずっと言ってたからね。水明の性格だと結局はこうなるんだから、やっぱりあのときついて来ればよかったんだよ」

「うるさい! 予定が狂ったんだよ!」

そう水明は叫ぶが、黎二には会心の一手があった。

「じゃあなんでいま断らなかったのさ? 断るのが普通なんじゃないの?」

「うっ……」

それを言われればぐうの音も出ない。周りを見れば、呆れる者あり、笑っている者あり。水明をやり込めた黎二も、愉快そうに笑っている。

そんな中、ふと彼は笑うのを止め、神妙そうな表情で訊ねてくる。

「それはそれとしてさ、水明、大丈夫なの?」

「ん? なにがだよ?」

「だから戦うことだよ。これから魔族を、それも大量に相手しなきゃいけなくなるんだよ?」

「そこはまーなんとかなるだろ? 周りに強いヤツいっぱいいるし、レフィやフェメニアの影に隠れてこそこそやってます」

「女の子の影に隠れて戦うって……ちょっと」

「背に腹は代えられんの」

無論その言葉は、黎二の前で実力を見せたくはないからという意味でのものなのだが、黎二には額面通り受け取ってもらえたらしい。

だが、やはり水明チームはその言い分が釈然としないようで、

「ほう……」

「あ、あはは」

「すいめーは、一度訴えられた方がいいかも、です」

「なんなんだよお前ら」

非難がましい視線。苦笑。澄ました態度で毒。三者三様の態度を、水明は言葉で掣肘するが、しかし全く効果はない。

「では私はこれから……」

クリスタが口を開くが、言い終える前にグラツィエラが言葉をかぶせる。

「そなたは救世教会で待機しているのがいいだろう。勇者のことは心配なのはわかるが、我々の準備が整うまでくれぐれも一人で動くな」

「……承知いたしました」

「そう心配するな。レイジたちには初戦だけ手を貸してもらえれば十分なのだ。ある程度目途が付けば、エル・メイデの勇者の救出にも向かえるだろう」

俯くクリスタに、グラツィエラがフォローを入れる。だがそれには当然、条件があった。

「戦力が早い段階でと揃えばいいんだけど……」

「アステルはどうにかできるでしょうが、問題は連合と自治州ですね……」

懊悩の声を上げたのは、黎二とティータニア。やはり、問題点はそこだ。アステルはティータニアがいるため、動かすことは可能だが、いかんせん自治州や連合にはコネがない。

だが、この場に一人だけ、それを歯牙にもかけていない者がいた。

「なあ、ちょっと面白いこと思い付いたんだが」

ふいに水明が、悪戯心に満ち充ちた不穏な笑顔を作り出す。それを見た黎二が、若干引いたような声を出し、

「うわぁ……水明が悪いこと考えたときの顔してるよ」

「悪いことは余計だっての」

「で、それで? 今回は一体どんな魔法の言葉を思い付いたの?」

「ああ、ちょっと黎二とクリスタに協力してもらわなきゃならないんだがな……」

そう言って水明は、思い付いた悪だくみを話し始めたのだった。