軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

いずれ話さなければならぬこと

微妙な空気の中、ふと、リビングの入り口から物音が立った。

カリカリという小さな音に釣られた者たちが一斉に目を向けると、そこには一匹の猫がいた。

「にゃー」

呼んでいるのか、わずかに開かれたドアをカリカリと掻いて、気付いてくれとでもいうように、その存在をアピールしている。

はてこの猫はどうしたのか。構って欲しいというような素振りではないようだが。

これには一番詳しいリリアナが、いち早く察したらしい。

彼女は改まって黎二の方を向いた。

「勇者れーじに、お願いがあるの、です」

「え? 僕に?」

「はい。ねこさんたちは、どうやらお腹がすいているようなので、ごはんをあげてきて、欲しいのです」

「それで呼んでるの? えっと、うん。それくらいなら別にいいけど……」

そう了承の意を示す黎二。言葉端から何故自分なのか、という思いも読み取れるが、断る理由もないゆえ頷いたのだろう。お人よしな性格が背中を後押しした形だが、それでも少々困惑気味なのは否めない。

そこで、フェルメニアが手を挙げる。

「レイジ殿、猫のごはんは私があげましょう。リリィ、いいですか?」

「いえ、どうしてもれーじに、して欲しいのです。ねこさんたちは、れーじに興味があるみたい、なのです」

「僕に?」

「おそらく、英傑召喚の加護が関係あるのかも、しれません。ねこさんたちは、神聖な力を感じ取っているのでしょう」

リリアナの話を聞いた黎二が猫に向かって「僕でいいの?」と言うと、ドアに張りついた猫は「にゃあ!」と元気よく返事をした。そのあまりに愛らしい様子には黎二も顔をほころばせ、さっさとリリアナからエサを受け取って外へと繰り出していった。

……猫嫌いでもなければ、猫に好かれて喜ばない人間はいるまい。黎二も例外にもれることなく、嬉しそうであった。

そんな黎二がリビングから離れてしばらくののち、リリアナが眉を寄せて呟く。

「……少し、強引すぎましたか」

その裏を匂わせるような言葉に、何か勘付いていたらしいグラツィエラが口を開く。

「やはりレイジを離したのには意図があったか」

「はい。れーじがいると、しにくい話も、あるでしょうから。本来なら、みずきと一緒に、離れてもらう予定だったのです、が……」

そう言って、リリアナは横目でちらりとイオ・クザミの方を向く。やはり、彼女の細めた目からは不審に満ち満ちた眼光が放たれていた。

だが、イオ・クザミはどこ吹く風で、

「我のことならば気にするな。そうだな。我のことは神聖で常にあがめずにはいられないほど美しく神々しい彫像かなにかかと思っていればいい」

気にするなといっているくせに、そのたとえはどうなのか。事実そうなのであれば、目にうるさくて仕方がない。自分のことを過度に美化するような物言いだが、要は居座って話を聞くと言うのだろう。水明はリリアナから「いいのか」という確認の視線を向けられ、それに頷きで応じて見せた。

「……ではリリィ、さっきの猫も仕込みだったのですか?」

「はい。ねこさんたちにも協力して、もらいました。先に伝えておくべき、でしたね」

フェルメニアの訊ねに、頷くリリアナ。それで話し合いの最初のとき、猫のところへ行っていたのか。のちを見据えた行動は、さすが、そつがないと言わざるを得ない。

すると、リリアナが、

「私から、よろしいでしょうか?」

どうやら彼女から話したいことがあるらしい。周囲の耳目が集まると、リリアナはいつもの途切れ途切れの口調で話し始める。

「先ほどの武具の話について、です」

「リリアナ。それについてはわからないという結論になったはずですが?」

武具の話については、すでに先ほど終わっている。そんなティータニアの指摘にリリアナは「いえ……」と一つ言葉を挟み、水明の方を向いた。

そして、

「すいめー、さっき武具の話をしたとき、随分と返事が適当、でしたね」

「ん? そうか?」

「はい。すいめーはあの武具のこと、知っているの、ですか?」

「どうしてそう思う?」

「先ほど武具の話をしていたとき、水明の態度が露骨に適当、でした。それに、すいめーなら知らないものを見たら、真面目に考察するはず、です。それがまるでなく、ぞんざいな態度を取った、ということは」

まず間違いなく知っているものなのだろう。そんな鋭い考察を突き付けてきたリリアナに、水明は降参だと言うように両手を上げだ。

「さすがリリアナだ。よく見てる」

「リリアナ・ザンダイクは『元』は付くが、帝国十二優傑一人だぞ。当然だ」

何故かここでグラツィエラが補足を入れる。帝国の人材は有能だと言いたいのだろう。ちょっと誇らしげされたのがムカついた水明だったが、ともあれ。

「俺の見たことあるものと少し違うが、あれはサクラメントだな?」

水明が言うと、ティータニアとグラツィエラの表情が如実に変わる。これまでの話の中では武具の正式な名称は口にしていなかったため、言い当てたことに驚いたのだろう。

水明たちの中からも、まずフェルメニアが訊ねてくる。

「スイメイ殿、やはり先ほどのあれのことを知っているのですか?」

「まあ、一応な……本当に一応だが。サクラメントって呼ばれている俺たちの世界の武器というか兵器だ」

水明はらしくないほど、自信に欠けた前置きを入れる。そこで驚きを見せていたグラツィエラが口を開き、

「ということは、やはりあれはお前たちの世界の武具ということか」

「……? やっぱりってのは?」

「あれが勇者の残した遺物ということだとは前もってわかっていたことだが、もう一つ譲り受けた品の名が、そちらの世界の言語で名付けられていたようなのだ。それでおそらくはそうでないのかという結論に至った」

水明が「そうなのか……」と少々不思議そうに頷くと、グラツィエラは続けて訊ねる。

「あれはなんなのだ?」

「なんだって訊かれてもな……簡単に言えば、魔術とはまた別の神秘を利用した、すごい武器ってところだ。あれの所有者になると、少ない力で途方もない力を操ることができる……らしい。まあ、さっきの話を聞いている限りどんな力かは見ていたと思うが」

水明が話していると、レフィールが口を挟む。

「スイメイくん。話の腰を折るようで悪いが、その途方もないというのは君基準での『途方もない』か?」

「ん……まあ、そうだな。そうなる。さっきも話したことだが、ティアや帝国のお姫様を寄せ付けなかった魔族の将軍を、経験の浅い黎二が圧倒できたんだからな」

「なるほど。英傑召喚の加護があるレイジくんを更に飛躍させたことを考えると、これはスイメイくんの言葉通りというわけか」

レフィールはいままでの水明の性格から、自分のことを過小評価するクセをわかっているため、さらに突っ込んで聞いて事実を摺り合わせたのだろう。水明が渋い顔をすると、彼女は当然だと言わんばかりに鼻を鳴らす。

「ですがスイメイ。あの武具はどういった絡繰りがあるのです? いくらなんでもあの力は尋常ではないと思いますが?」

「それが、サクラメントの――いや、それにはめ込まれている 砕けた紺碧(ラピス・ユーダイクス) のとんでもないところなんだろうよ」

「ラピス・ユーダイクス?」

「はめ込まれているということは、あの宝石のことか?」

グラツィエラの訊ねに、水明は頷き、そしていつもの彼らしい説き明かしを始める。

「――この世には、賢者の石とか、哲学者の石とか呼ばれるものがある。これは万能の触媒で、鉛などの卑金属を 金(きん) に変えることができることから 化金石(ラピス) とも呼ばれ、俺たちの世界ではこれを作ることが錬金術における一つの到達点とされている」

「金を!!」

「作るだと!?」

「で、ではスイメイ殿! ということはつまり、サクラメントに嵌められているあの宝石が、それであると!? ――ではあれを使えば金が生み出し放題なのですか!?」

今度はその推測を聞いたティータニアやグラツィエラの目の色が変わった。無論フェルメニアはそのとんでもない神秘性について魔法使いとして純粋に可能性を見出したのだろうが、他の二人は統治者として、金を生み出すということへの有用性、そして危険性を見出したものだろう。

だが、水明は首を横に振って、

「いや、あれはその錬金術のラピスとはまた別のものだ」

「違うのですか?」

「まあ聞いてくれ。隠秘学において、ラピスと名が付くものは三種類あるとされている。これらは広義にラピスという括りに入り、そのどれもが少ない作業や触媒でそれ以上のものを生み出すことから、同じくラピスとされている。錬金術の至宝である賢者の石がラピス・フィロソフォルム。死者を蘇らせ、生者を不死へと変えてしまうといわれる聖杯に満ちる青い液体が、ラピス・ラピスィス・エクシリス・コエリス――つまりラピス・エクシリス。で、その一つがさっきのヤツだ」

「 砕けた紺碧(ラピス・ユーダイクス) ……」

「そう。古人語りて曰く――その使徒は驕りによって神の怒りを買い、天から地へと堕とされた。そのときに被っていたとされる王冠から、魔を退ける 翠玉(エメラルド) が剥がれ落ち、それが褪せて青くなったものがその 砕けた紺碧(ラピス・ユーダイクス) になったと言われている」

「つまりあれは、スイメイの世界の神の品、というわけですか……」

「いやいや、これは単なる伝承だ。まさか神さまが作ったものじゃあるまいよ。どこの誰が最初に作ったのかは知らないが、確かにとんでもないモンだが…………いや、錬金術のラピスももう誰も作れないから、そっちのオリジナルも本気で神さまが作ったことは否定できないか」

水明はティータニアの言葉を否定したあと、しかしあながち間違いでもないというように、独り言を呟く。

そこでふと、それまで黙っていたイオ・クザミが口を開いた。

「なあ我がライバルよ。貴様にしては煮え切らない答えばかりではないか。さっきから語尾によく「らしい」がついていたり、断定的で言葉が少なかったりしているぞ?」

「俺はこれについては門外漢なんだよ。その出自も、何のために作られたものなのかも、詳しいことはほとんどわからないんだ」

サクラメントや 砕けた紺碧(ラピス・ユーダイクス) については調べる手段がなく、結社の本拠である 古城(アルトシュロス) の書庫でも、それについて記述がされた資料はない。長い年月の間に失われてしまったのか、更に秘匿されているようなことなのかは一切わからないが、それゆえ水明はこれについての知識が薄いのだ。

水明がわからないと口にしたことで、フェルメニアが険しい顔を作る。

「ふむ……スイメイ殿でもわからないことなのですか……」

「いやいやいや、俺だって何でも知っているわけじゃないって」

「だが貴様、いままでの話から察するに、他にあれを持っている者を知っているのではないか?」

「ああ、それは確かにそうだ。そうなんだが……話を聞いても言っていることがよくわからんしなぁ」

「言っていることがよくわからんだと?」

疑問が募って顔を険しくさせるグラツィエラに。水明は難しい顔をして「ああ」と頷く。

そんな中、その発言で何かに気付いたらしいティータニアが口を開いた。

「そういえばファイレイ殿もそのようなことを言っていましたね。以前の持ち主である勇者様に説明を受けたが、よくわからなかったとか」

「やっぱりそうなのか……」

水明も、サクラメントに関する話はその所有者から些少だが耳にしたことがある。しかし、聞いた大半の事柄は、何故か音にも言葉にもなっていなかったのだ。

話を聞くになんでも、サクラメントに関連する神秘――つまり概念などの情報を知るには、素養などの条件が必要であるらしい。

すると、グラツィエラもエルフから話を聞いたときのことを思い出したようで、

「確か神殿のエルフは、あれのことを世界の終わりを回避するために造られたものだとか言っていたな」

「世界の終わりだって?」

「ああ。みなで聞いていたから間違いはない。それがエルフの覚え違いでなければの話だがな」

水明がティータニアに視線を向けると頷いたため、聞き間違えはないだろう。

だが――世界の終わりを回避するために造られたとは。

それについて水明に思い当たるものといえば、一つしかない。

「つーことは、あれは 終末事象(トワイライト・シンドローム) に関連してるものなのか……? いや、確かにあれでケ物をぶっ倒してるヤツがいるってのは聞いたことあるが……でもあの人はそんなこと言ってなかったはずだし……」

サクラメントを持つ知り合いに訊ねたときは、そんなことは言わなかった。あの男がサクラメントについて知らないことがあるとは思えないが、果たして。

「スイメイ。他にあなたが知っていることはないのですか? たとえばサクラメントを武器にする方法などは」

「ああ、それは聞いたことがあるな。武器にするための文言は俺も近くで聞いたが聞き取れなかったが」

「ではそれ以外に何か?」

「サクラメントに必要なのはそれに関連する神秘を理解できる素養と、強い想念だそうだ。素養も必要だが、サクラメントは持ち主の強い想念があって初めて現界……いや、武装化させることができるらしい」

「強い想念……ですか」

ティータニアはあまりピンと来ないのか、顔を険しくさせて唸っている。

一方イオ・クザミにはそこに気付きがあったらしく、

「想念については思い当たることもあるであろうよ。あのとき、我が婚約者は強い感情を吐き出した。おそらくはそれによってサクラメントを無理やり武装化させることに成功したのだろう」

イオ・クザミの話に得心がいく部分があったのだろう。ティータニアもグラツィエラも納得したように頷いている。

「黎二にサクラメントを扱える素養があるんなら、そのうち自然とわかるようになるんじゃないか? 文言の口伝ができないようになってるんじゃ、まず知る手段がないからな」

水明はそんな少し楽観気味な予測を挟んでから、訊ねる。

「サクラメントを元に戻したあとの黎二の様子はどうだった?」

「特に変わりありません。先ほども話した通り、強くなったのも一時的でしたし」

「強くなっていたのは戦っている間だけか……」

「そうだ。だが、あのときもすぐにへばったがな」

「だろうなぁ……」

曰くサクラメントは魔力食いの兵器であり、使用中は常に魔力や生気を消費するという。 砕けた紺碧(ラピス・ユーダイクス) の神秘により、その消費量は少ないとされるが、しかし少ない量で大きな力を発揮できるとは言っても、それは比率の問題だ。実際にサクラメントでできることは途方もないものであるため、結局必要な魔力も多くなってくる。

確かには黎二に英傑召喚の加護がある。それによる強化は目を瞠るものがあるが、だがそれでも魔力炉を持つ魔術師や、向こうのサクラメントの所有者から見ればまだまだだと言っていい。まだ向上の途中である彼の魔力量や体力では、賄い切れないものなのだろう。

そんな中、ふと水明は黙りこくってしまう。

「…………」

「どうしたのです? スイメイ殿」

急に静かになった水明に、フェルメニアが問いかける。

彼はすぐに応じなかったが、しばらくして、何か答えに行き当たったらしく、諦観のような、観念にも似たため息を吐き出した。

「……いやな、もう黎二の奴にも話さなきゃならなくなってきたのかもって思ってな」

「ほう、それは」

「魔術師である、ということをですか」

水明の抽象的な物言いから、察することができたレフィールとフェルメニア。一方それは同じらしいティータニアが、澄ました顔を向けてきて、

「今更ですね」

「あ? さっき同じようなことで取り乱してたヤツが言える台詞かよ?」

「さあ、何のことでしょう?」

お転婆剣士のお姫さまは、どうやらなかったことにするつもりらしい。水明がとぼけにかかるティータニアに苦い顔を向けていると、事情を知らないグラツィエラが、

「何故これまで黎二たちに話さなかったのだ?」

「もともとそういう情報っていうのは隠す習わしだったんだよ。ここでも言わなかったのは、その名残みたいなモンだ」

「だがこの世界にいればいずれわかってしまうことではないのか? 特に貴様はもといた世界に戻る術を探しているのだろう? 結局戻るときに話すことになる」

「いや、隠し通したまま、帰還の魔法陣を完成させて適当に理由付けて三人で帰れば良かったのさ。一度帰って、そのあとどうするかは黎二と瑞樹の勝手だからな。向こうの世界に留まるなり、未練があるならまた戻ってくるなりすればいい」

「なるほど」

水明が考えていたのは、選択肢を広げることだ。もともと水明や黎二、瑞樹はこちらの世界側の勝手な都合で呼ばれた身。立場上不利で、選べる選択肢などほとんどなかった。

だが、黎二が魔王討伐をやると決めた以上、彼が一度言い出したことを曲げることはないし、かといって向こうの世界のことも蔑ろにはできないはずだ。ゆえに、一度もとの世界に戻って、また戻って来るということにすれば、冷静に顧みて選び直すこともできる。

もとの世界に戻す、というのがあまり面白くないらしいティータニア。彼女が、少し険を含んだ表情を向けてくる。

「スイメイ。何故いま、心変わりなど?」

「さっきのあれだ」

「あれ……とは、サクラメントのことですか?」

「ああ。そんなモンまで手に入れちまったら、さすがあいつももう後には引き返せないだろ? 向こうに戻ってもほっといたらおかしなことに首を突っ込むなり、巻き込まれるなりするのは確実だ。 結社(おれのところ) で面倒見るなら、結局のところ俺の正体はバラさなきゃならんからな」

もとの世界に無事戻ることができたとして、おそらく黎二の性格上、神秘関連の事柄に巻き込まれるのは確実だ。人の不幸を黙って見ていられない人間が神秘的な力を手に入れてしまえば、当然だがいろいろなことに首を突っ込んでしまう羽目になる。

それについては何となく他の者にもわかるのだろう。同意だとでもいうような、何とも言えない顔を見せている。

「スイメイ殿、すぐに話すのですか?」

「うーん。いや、それは段階的にしようかな……と思う」

はぐらかすような笑みを作る水明に、レフィールが胡乱そうな半眼を向けてくる。

「……スイメイくん、ヘタレたな」

「う、うるさいですよレフィールさん! 仕方ないだろうが!」

「すいめーは、変なところでいくじなし、ですね」

まるで標語のようなリリアナの言葉に、水明はぐうの音も出なかった。

すると、グラツィエラが、

「貴様のことなど私にはどうでもいい話だが、黎二や瑞樹に教えなかったことで仲違いが起こる懸念はないのか?」

「瑞樹はまあ多少怒るだろうが、正直に事情を言えば黎二は……まあ事情を汲んでくれるだろ。アイツはそんな狭量なヤツじゃない。確かに今更言いにくいことではあるからこうなんだがな……」

口にすることへの不安はある。無論隠していたことへの負い目ではなく、それを知ることによる弊害についてだ。魔術を一般人に秘匿しなければならないのが大前提なのは、神秘的な事柄に普通の人間を深入りさせないため、ということでもあるのだ。人間は往々にして神秘的なことに心惹かれる生き物であるし、それを知っていれば、神秘の存在に気付きやすくなり、危ないことにも巻き込まれやすくなってしまうのである。

それがあるため、向こうの世界にいたときは決して言わなかったし、これからも言うつもりはなかった。

だが、そう言った問題を棚上げし、先送りにしていたということについては否めないだろう。それによって黎二に不満や不信が溜まることはないため、ツケを払う羽目になるということはまずないが、先ほどの理由もあり、話すことへの懸念が大きいのは間違いない。

「やれやれ、結局こうなっちまうのか……」

ため息を吐いたあと、猫にたっぷり癒された黎二がホクホク顔で戻ってきたのだった。