軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

074 クラス対抗戦

朝10時前の冒険者広場前はこれからダンジョンに突入する冒険者でごった返している。ダンジョン版通勤ラッシュといえばいいだろうか。

どこぞのクランが煌びやかな装備を見せびらかすように歩き、食べ物や魔道具を売り歩く商人が声を張り上げ、荷物を山ほど積んだ小型運搬車が渋滞を起こすように並んでいる。眺めているだけでも面白い。

そんな人ごみの中を数分歩けばクラスメイトが待つ集合場所へとたどり着く。リサとサツキはやる事があるといってその場で別れることとなり、一人暇な俺はぼ~っと周りを眺めているだけだ。

すでに集まっていたクラスメイトも周囲を観察しながらひそひそと話に花を咲かせている。話題は上位クラス。

Cクラス以上の生徒とは教室の場所が離れていて授業も別だし、ダンジョン内でも狩場が違うためほとんど接触がない。そんな彼らの初めてみる武具に興味が尽きない模様。

「(貴族様だと思うけど、防具一式でいくらするんだろう)」

「(凄いよねぇ。あの耳飾り、絶対マジックアイテムだよね)」

彼女らの視線の先を追ってみればBクラス一行が集まっていた。牛魔の革から作られたローブやミスリル合金製武具を着た生徒が多く目に付くので、平均レベルは10から15くらいと分かる。このクラスでも店で買うとなれば軽く100万円以上の値はする。

そして貴族らしき生徒は手首や耳に多数の宝飾品を付けている。あれらは全てマジックアイテムだろう。付与されている魔法によっては目が飛び出るほどの価値になるのは言うまでもない。あんなものを付けてのダイブなんて強盗被害に合わないか心配になるが、いつも多くのお供に囲まれているし、それ以前に法すら捻じ曲げる貴族を襲おうとする不届き者などこの日本に存在しない。

「(あの 薙刀(なぎなた) 、DUXの最新シリーズじゃん)」

「(雑誌で見た。しばらく使っても切れ味が落ちないって本当かな)」

武器もEクラスのように剣やメイスだけでなく、大弓や薙刀、ワンドを持っていたりと多様だ。中には流行りのDUXというブランド武器を持っている生徒もいて一種のステータスにもなっているようだ。

片や、うちのクラスの武器はほとんどがレンタル品で、Bクラスが持つブランド武器と比べてしまえば大きな差はある。けれど彼らと戦うのは早くても来年度以降だし、今は気にせず地道にレベル上げを頑張っていけばいい。

そのBクラスの隣にはDクラス一行が見える。全体的には魔狼の革でできた防具を着た生徒が多いものの、刈谷を筆頭に重量のあるミスリル合金製の武具もちらほらと見える。つまりレベル10を超えている生徒もそれだけいるということだ。

そんな格上が複数いるDクラスと俺達Eクラスは敵対関係にあり、ダンジョン内でかち合えば混乱も予想される。クラスメイトに危機が迫ったときはサツキやリサが素早く秘密裏に対応してくれるよう願っておこう。

そこから少し離れたところにはCクラスが輪を作って円陣を組んでいた。中心にいるのは和風の鎧を着たCクラスのリーダー鷹村君と、彼のお付きの可愛いおでこちゃん。

CクラスはBクラスと違って、ほとんどが平民出身。そういう意味で装備差が表れているといった感じだ。そんな平民にも気安く話しかける鷹村君は貴族の中でもイレギュラーな存在なのかもしれない。

とはいえ彼らも身分や強さに重きを置くエリート指向の持ち主で、外部生であるEクラスを受け入れているわけではない。接触する際には慎重にいかなくてはならないだろう。

そんなことを考えると急に辺りがざわめき立つ。Aクラス一行が来たようだ。

先頭を歩くは1年首席で次期生徒会長、そして俺の最推しヒロインである 世良(せら) 桔梗(ききょう) 。すみれ色のくっきりとした大きな瞳を輝かせ、腰の近くまで伸びた艶のある長い銀髪を揺らし、ゆっくりと優雅に歩いている。防具は着ておらず制服のままだ。アレはあまり人に見せるものではないのだろう。

(それにしても、お美しい……)

容姿端麗な見た目でダンエクヒロインの中でも1位、2位を争うほど人気だったが、現実となった彼女の美しさはゲームのそれをはるかに上回る。その美貌に自然と男子達の目が奪われ、女子達も嫉妬を通り越して羨望の眼差しを送る。それどころか周囲の冒険者まで見惚れて足を止めるほどだ。

そのすぐ後ろには貴族や士族が続く。世良さんの家は歴史ある高位貴族であり、また【聖女】に近しい立場なことから分家の貴族や士族がとにかく多い。装備レベルはBクラスとそれほど変わらないが、巫女装束のようなものを着ている生徒も何人か目に付く。

そんな世良さん率いるAクラス一行の後方には、いつぞや俺に声を掛けてきた 天摩(てんま) さんが大きな両手斧を手に持ち、のっしのっしと歩いている。ピカピカに磨かれたフルプレートメイルが乱反射しているので物凄い目立つ。彼女の家はまだ貴族になってから間もなく配下の士族はいないとのことだけど、代わりに“ブラックバトラー”とかいう黒ずくめの執事達がダンジョン内に控えていることだろう。

というわけで全てのクラスが冒険者広場に揃い踏みしたわけだ。一通り見た限りでは次期生徒会長率いるAクラスがやや有利か。彼女の持つサポート能力もさることながら、装備を充実させた貴族や士族の数も多い。また次席である天摩さんの戦闘能力が飛びぬけて高いことも強みだ。

Bクラスも周防の活躍次第ではワンチャンあるかもしれないが、Cクラスにも喧嘩を吹っ掛けているなど無駄に敵が多いのが難点。Aクラスは他クラスを相手にしながら倒せるほど生易しい相手ではない。そういう意味で上手く漁夫の利を狙えればCクラスにもチャンスがありといった感じか。

まぁ、上位クラスの動向なんて俺が気にすることでもないけど、ついついプレイヤー目線で見てしまう。おっと、先生方が動き始めたぞ。

『これより、クラス対抗戦を開始する。“到達深度”の参加者は前に』

拡声器を持った厳つい男がこちらに向けて声を上げる。あれは学長代理だっけか。そういえば学長のほうはゲーム時代も含めて一度も見たことないけどどんな人なんだろうか。

それでは、俺の参加種目が呼ばれたので行くとしようかね。

「ブタオ! 死んでも参加賞とってこいよ!」

「誰かに付いていけば大丈夫だ心配するなー。後ろを振り返るなよー」

「私達に合流なんて考えなくてもいいからね、っていうか邪魔だし」

「ソウタ~頑張ってね~!」

クラスメイトからの期待と声援を背に受けて胸を張り、ゆっくりと前に歩み出る。

(上位クラスは誰がでてくるかな?)

到達深度は点数配分が一番多く、どこのクラスも最精鋭を送り込んでくると予想される種目。Eクラスは捨てているので俺一人だけだが。

Dクラスからは、間仲とよくつるんでいる取り巻き三人が前に出てきた。てっきり間仲か刈谷がくるのと思っていたが違うのか。

「ちっ、Eクラスは豚だけかよ。張り合いねーな」

「アイツらの誰が来ようが勝てないし。仕方ないっしょ」

「お前、ダンジョンに入ったら荷物持ちな」

目が会って秒で喧嘩を売ってくるとは。買っちゃおうかな~どうしようかな~などと脳内で叩きのめすシミュレーションをしていると、周りから歓声のような声が上がる。

「周防さん、頑張ってくださいっ!」

「キャー! 世良様ァ!」「世良様、お気をつけて!」

「メイちゃんファイトー!」

上位クラスは順当に精鋭を送ってきたようだ。クラスリーダーである世良さんと周防、Cクラスは鷹村君のお付きのおでこちゃんがそれぞれ数人のお供を連れて前に出てくる。このメンツは大体予想通りなので驚きはない。

「おや、世良さん。同じ種目とは奇遇ですね」

「周防様。ご機嫌麗しゅうございます」

クラスのリーダー同士が近寄ってにこやかな笑顔で挨拶する。だが奇遇というのは嘘くさい。ゲームでは世良さんに並々ならぬ、それも好意からではない執着を寄せていたし、Aクラスの硬い表情からも周防を歓迎していないことが分かる。この到達深度に参加したのだって前もって情報を仕入れていたからだろう。

中学の時に首席だった鷹村君を早々に蹴落とし新たな首席として君臨するはずだった周防皇紀。そこに才能、人望、血統と全てで上回る怪物、世良桔梗が立ちはだかった。当然追い落とそうと挑んだものの何度も跳ね返され、その結果が今のクラス分けへと繋がっている。プライドの塊が服を着て歩いているような男が現状に我慢できるわけがないのだ。

一方の世良さんはそんな敵意を全く意に介していないご様子。笑顔のまま一礼し、そのまま通り過ぎてしまう。中学時代の周防との闘争も生易しいモノではなかったはずなのに一向に相手にしないのは、もしかしたら奴の 未(・) 来(・) を視たからなのかもしれない。

(一応、周防の動きは気に留めておくか。それと――)

『やぁやぁ成海クン、奇遇だね。ウチも参加するんだけどヨロシクねっ!』

「て、天摩さんもなんだ。どぉも……」

1年次席、 天摩(てんま) 晶(あきら) が電話のような声色で話しかけてきた。首席である世良さんに加え、次席の彼女まで到達深度に参加するとなれば戦力過剰な気がするがAクラスは何を考えているのだろう。

『いやねぇ。こないだダイエットの話、あれっきりだったでしょ? でも聞きに行く機会がなくってさぁ。そこで成海クンが到達深度に参加するって聞いたもんだから』

「は、はぁ」

『道中は話していこうよ。どうせ何も起きないんだし』

「次席、我らから離れるな。こっちだ」

早口でまくし立てるように絡んでくる天摩さん。普段はあまり喋らない人だった気がするけどゲームとは違うのだろうか。それでも協調性がないのは同じなようで早速同じクラスメイトから注意されている。

『ありゃいっけない。なら成海クンもおいでよ、一人なんでしょ?』

「えっ」

腕を取りこっちに来いとAクラスの到達深度グループがいる場所に連れていかれてしまう。気づけば長い銀髪を風になびかせている世良さんが目の前にいて鼓動が跳ね上がる。深呼吸せねば。

(すぅはぁ……あ、なんかいい香りがしてくる……って。落ち着け俺)

突然のことでつい動揺してしまった。冷静になって観察してみよう。

Aクラスの到達深度は六人。全員の胸には爵位を示す金バッチが付けられていることから貴族だけで構成されていることが分かる。しかも天摩さん以外のバッチは世良さんと同じひし形の家紋、つまり世良一門というガッチガチの構成。ちょっと場違いすぎるところに来てしまったぞ。

鎧は各自、和洋別々のデザインであったり色も統一性はないが、貴金属や宝石をふんだんに使って作り込まれており貴族の権威を見ただけで知らしめる、そんな意図を感じさせる。一般庶民の俺はついつい土下座してしまいたい気分に駆られてしまうじゃないか。

そんな貴族達は眉をひそめて世良さんの周りに集まりヒソヒソと話している。

「世良様、お気を付けくださいまし。周防は何か企んでいます」

「共に行くのは危険です」

「やはりここは予定を変更し、我らだけで先行したほうが良いかと」

到達深度は毎年浅い階層だけは他クラスと一緒に歩き、交流を深めるとかいう暗黙のルールがある。今年もその予定であったが周防は危険な奴なので何を仕掛けてくるか分からない。ここは安全のためにAクラスだけで先行してしまおう、と言っているのだ。

世良さんは少し驚いたものの微笑みは崩さず余裕のある表情。お美しや。

「そう邪険にするものではありませんわ。よい機会なのだしクラス交流を楽しんでいきましょう。貴方もそう思いません?」

突如こちらに振り向き話しかけてくる世良さん。同時にすみれ色だった瞳が赤く輝きだす。これは《 天眼通(てんげんつう) 》という魔眼が発動した証拠だ。対象に起こる未来の出来事をかなりの精度で見通すことができる。

真っ赤に怪しく光る魔眼で俺の瞳の奥に映る未来を射抜くように見つめてくる。いきなり使ってくるだなんて心の準備ができてないんですけど。

でも――ついに明かされる。俺の華々しい未来がっ! 世界に 轟(とどろ) く大冒険者となっているのか。はたまた美女に囲まれ豪遊生活を送っているのか。もしかして世良さんと結婚してたり? 全てを受け入れるつもりだぜハニィ。

「ん~セクハラ……退学……将来性は……あらあら、とても残念な方のようね。3点というところかしら」

「へっ?」

『あちゃ~どんまいっ!』

何かまずいものを見てしまったかのように目を伏せる世良さん。そのまま俺に興味をなくしたかのように前を向いてしまわれた。唖然としていたら天摩さんがパシパシと背を叩いて能天気な声色で慰めてくる。少し痛い。というか――

(どういうことだよぉぉおぉお!!)