軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

065 ブラッディ・バロン

振りかぶったスパイクメイスでコープスウォーリアを叩き潰す。舞い上がった砂埃が落ち着き視界が晴れると、妹が慎重にドロップアイテムを摘まみ上げてゴミ袋へと入れる。

「これで12個目! なんちゃらパトロンを呼び出せるのかなっ」

「ブラッディ・バロンな。今日はお試しのつもりだったんだが……」

ゴミ袋の中には何かの臓器のような肉塊が12個入っている。スケルトンナイトとコープスウォーリアをドッカンドッカンと数百匹叩き潰し、ようやく召喚の儀式に必要な数を手に入れることができたのだ。ドロップ確率的にはまぁ良い方だろうか。

そしてこの肉塊。ゲームと違ってリアルに実体化しているので予想以上にグロい。時折ぴくりと動くので気持ち悪さが天井知らずだ。華乃も道端で見知らぬ犬のフンを拾うが如く袋に入れていたし。

「やるにしても作戦会議を一度しておきたい……が」

「あっ、またでてきた」

指差した方向を見れば土山から干からびた手がニョキっと生えていた。処刑場では倒してもすぐに次のモンスターがポップしてしまうため、おちおち話もしていられない。一度外へ出たほうがいいだろう。

外枠を囲んでいる柵を飛び越えて適度に平らな場所を探し、安全確認をしてから茣蓙を敷く。持って来た水筒から茶を注いで、ほっと一息。

辺りは相変わらず薄暗く荒涼としている。そんな景色でもしばらくいれば慣れるものなのだと静かに驚く。

「集めたアイテムを纏めてどこかに置けばいいんだよね」

「中央にある模様の上にだな」

目の前で華乃がお気に入りの棒菓子を齧りながらご機嫌に聞いてくる。

処刑場中央の地面には子供が書いた渦巻太陽のようなものがうっすらと描かれており、その上に集めた12個の肉塊を置くだけでブラッディ・バロンの召喚儀式が発動する。

ゲームではその様子がムービーシーンとして流れていた。クエストアイテムである12個の臓腑が互いに脈動しながら繋がって徐々に膨れ上がり、一体のフレッシュゾンビが生まれ堕ちるという内容だ。その間30秒。こちらの世界の召喚儀式も同じ時間をかけて同じように再現されるはず。

では、ここで問題。俺達はそれをゲームと同じように指をくわえて眺めていなくてはならないのか。

「儀式が始まるとブラッディ・バロンは肉体を構築するため、しばらく動けない。そこで――」

「私達は攻撃できるの?」

「そうだ」

ゲームではそのムービーシーンを強制的に見させられ、プレイヤーは動けないという制約があった。しかし、こちらの世界ではそんなものはない。俺達が動けるのなら召喚儀式の時間は攻撃したい放題、つまりはボーナスタイムとなるわけだ。

「ふ~ん……でも30秒かぁ。どれくらいの強さなの」

「モンスターレベルは20。フロアボス扱いだから、HPとVITはかなり高いな。一般モンスターは出なくなるが、代わりに12体の護衛騎士が同時にポップする」

「えぇっ!? それって一緒に処刑された騎士のこと? そんなにいっぱい相手できるかなぁ」

護衛騎士はブラッディ・ナイツというモンスターレベル16のアンデッド。大型の武器から飛び道具まで様々な武具を持っており、個々の攻略法は様々。

そんなモンスターを12体同時に相手にするのはレベル19になったとはいえ難しいものがある――普通ならば。

「護衛騎士は俺が止める。召喚開始と同時に《シャドウステップ》を使うつもりだ」

「脚がふわふわして速く動けるようになるスキルだっけ。あれ私も覚えたい!」

「まず基本職のジョブレベルを全て上げ切ってからだな」

《シャドウステップ》は移動速度に加えて回避も上がるため、トッププレイヤーでさえ重宝する神スキル。上級ジョブ【シャドウウォーカー】で覚えるのだが、このジョブに就くためには前提条件が多く、まだ時間がかかることだろう。

「とにかく、30秒間ブラッディ・バロンを叩きまくってくれ。この前に教えたマニュアル発動も試してみるといいぞ」

「うーん。上手くできるかなぁ」

うんうん唸りながらスキルモーションの練習をする。俺も初めはマニュアル発動に四苦八苦していたが、練習と研究を重ねたおかげで今では通常攻撃から流れるようにスキルを発動できるようになった。華乃も今後ダンジョンに潜っていくなら頭と体に覚えさせておくといい。

「時間内に倒しきれないときや想定外のことが起こったら無理せず処刑場外へ退避するんだぞ。まぁ……その場合は消滅しちゃうけどな」

「ええ! あれだけ頑張って集めたのに無駄になっちゃうんだ」

ブラッディ・バロンは耐久力が高いだけではなく、多数のスキルや魔法を使いこなす特殊ボス。負荷のデカいチートスキルを使えば倒せないこともないだろうけど、無理することはない。

「華乃が召喚中のブラッディ・バロンを叩き続ける役。俺が周りにポップする12体の護衛騎士――ブラッディ・ナイツ達を引き付ける、または倒す役。30秒で倒せそうなら倒す、無理そうなら即逃げるという作戦でいこう」

「わかったー」

と言ったものの、先に持って来たお菓子を食べてしまおう。ところでその棒菓子、美味そうだから1個くれないかな。

食後の休憩と称し、しばしゴロゴロとした後に再び処刑場内へ入る。ポップしていたアンデッド2体を掃除し、中央にある召喚魔法陣の上に妹と並び立つ。

ブラッディ・バロンが今の俺達でも倒せるなら大きな収穫だ。すぐにでもリル稼ぎに移行でき、レベル20クラスの武具やアイテムを揃えられるようになる。そんな期待を胸に抱きながら説明を続ける。

「12個の[怨毒の臓腑]が集まって1つになって脈動が始まったら攻撃開始だぞ」

「うんっ。頑張るっ!」

華乃が右手にスパイクメイス、左手に[ソードオブヴォルゲムート]を持って身構える。まぁ失敗しても逃げればいいだけ。あんまり気負うなと言っておく。

では俺も最後の準備へ移るとしよう。

もう体が覚えているほど使いまくった《シャドウステップ》の魔法陣。多少複雑でも難なく描ききることができる。レベル19になってからも実験したが、それほど体への負担はなく行使できるのは確認済みだ。

発動すると周囲がやや暗くなり、足元に残像が揺らめく。このスキルを使うとダンエク時代の対人戦の記憶が蘇ってきて気分が高揚し、自然と戦闘モードのスイッチが入る。

(うむ、調子がでてきた)

華乃の方を見れば準備OKだと頷いたので、ゴミ袋から[怨毒の臓腑]を取り出して地面に満遍なくベチャリベチャリと落としていく。程なくして地面に描かれている太陽のマークのような紋様が朱色に輝き、肉塊も盛んに 蠢(うごめ) きだす。

「あっ、動いた! でもなんか気持ち悪い動きだね」

尺取虫のような動きで肉塊が中央へ寄せ集まって融合し1つの巨大な肉塊になると、数秒ほどで大きく脈動が始まる。

時を同じく周囲に12個の土山が生まれ、そこから何かが這い出てこようとしている。12体の護衛騎士――ブラッディ・ナイツだ。

「作戦開始だ! 叩きまくれ!」

「いっくよぉぉ!」

声を上げながら華乃がスパイクメイスを振り下ろす。その風圧で砂塵が上がるほどの衝撃にもかかわらず、肉塊は潰れずに脈動が継続されている。予想通り俺達は攻撃ができるのに召喚儀式は中断されていない。

一方で12体のブラッディ・ナイツはアンデッドでは珍しく“ノンアクティブモンスター”だが、ブラッディ・バロンに攻撃を加えると襲ってくるため、この設定は意味を成さない。なので先手必勝だ。

まずは一番近くの土山へ。

《シャドウステップ》により残像でブレた足先を確かめるように踏み込み、そして一気に加速。ヴォルゲムート戦で使用したときよりもAGI上昇の伸びが大きく感じられる。今ならばこのスキルを粗方使いこなせそうだ。

その勢いのまま減速せずに土山の根元へ細剣を深く突き刺し、強く捩じり込む。すると土の中から低く唸るような声が聞こえた。まずは1体。

すぐ前方に目を向ければ土山からすでに大剣が突き出ており、それを利用して土を掻いて這い出ようとしている個体が見えた。再び加速して疾走し、出てきたところを突き刺す。トドメに丁度いい位置にある頭を蹴り飛ばして2体目。

右方、20m先にはすでに上半身が出ている個体がいた。足元に落ちていたボロボロの大剣を思いっきり投げ込むと、土山と共に上半身を吹き飛ばすことに成功。3体目。

更に右方には土山から手斧が突き出している。愚かにも向こう側を向いて出ようとしているようだ。当然そんな美味しい隙を見過ごすわけもなく、4体目も楽勝だぜと細剣を振り下ろす。が、半分土に埋もれながらも手斧で防ぎやがった!

「さすがは騎士。しかし――」

上半身を捩じって攻撃を防いだことには驚いたものの、下半身が埋もれてまともに動けない奴が俺の動きについてこられるわけもなく。再び死角へ回り込んで細剣を振るい、首を跳ね飛ばす。4体目。

すぐ後ろ。土山から抜け出したばかりの個体がこちらに来ているのが見えていたので、振り返って迎え撃つ。

大きな両刃斧を振り上げながら向かってくるブラッディ・ナイツ。その構えと逆方向からフェイントを入れつつ近づき、至近距離戦へ。速度では倍以上速い俺の動きには対応できないようで、常に死角を取る動きで翻弄し数回ほど斬ったところで魔石となった。これで5体目。

「はぁ……残り7体か。もう少しいけると思ったんだけどな」

土から出る前に12体のうち半分くらいは倒せると踏んでいたのだが予想以上に早く出てきてしまった。とはいえ、本来なら全員同時に戦わなければならなかった相手。5体減らせただけでも良しとしよう。

目の前にはショートソードにナイフ、弓、大きなメイス、鎌のようなモノまで持ったブラッディ・ナイツ達がいる。顔は崩れ、装備はボロボロ。それでも主であるブラッディ・バロンを守ろうとする意志が窪んだ目から垣間見える。持った武器の切っ先を向けているのも俺ではないようだし。

「ああああああああッ!」

背後には吹き荒れる砂塵もお構いなしに、声を上げて全力で攻撃を叩き込む華乃がいる。それでもまだ召喚儀式は止まることなく、肉塊は人型へと紡がれ、今まさにフレッシュゾンビになろうとしている。残り時間は半分ほど残っているが、やはり耐久力のある特殊ボスを時間内で倒すのは厳しいものがありそうだ。

それでも肉塊の表面からは血が噴き出ており、手足はあらぬ方向へ曲がり、一部は崩壊しかかっている。かなりのHPを削れている証拠だ。その様子をみてブラッディ・ナイツの中には雄叫びを上げたり忙しなく武器を振るい威嚇している個体もいる。

敬愛する主が叩かれまくっているのだからその反応も頷けるものはある。

「悪いな、後ろには通せないんだ。だからお前たちは――」

ここで俺の糧となってくれ。