軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

029 兄の威厳

「やったー上がったよっ! これでレベル7になったのかな~?」

レベルアップ後の全能感をクルクル回って表現している。3回の橋落としにより妹の目標レベルである7に達したので、とりあえず5階は終了だ。レベル8までここでやってもいいのだが、二人なら次の狩場に移動したほうが効率が良いだろう。谷底に降りてドロップアイテムを拾いながらこれからの予定を説明する。

「まず6階からはワーグという魔狼がでる。俺と華乃が着ている革防具は魔狼製だが、その魔狼だ」

「狼でしょ? オークより戦いやすい気がする」

「それなりにデカいし、素早いからオークより厄介だぞ」

魔狼は素早く持久力があり鼻も良く、遠くから嗅覚で感知してくる。対魔狼戦では囲まれる状況に持ち込まれるのを如何に防ぐかが重要となる。囲まれてしまったら逃げることは困難だ。とはいえ6階のMAPは開けた場所がほぼ無く、そうそう囲まれることは無い。

また魔狼は魔石と共に低確率で皮を落とすが、この魔狼の皮は頑丈で耐火性能もあり、店やギルドに売れば結構な収入源になる。冒険者にとって魔狼は人気のモンスターなのだ。ここら辺りが専業で食べていける最低ラインと言われている。

だが俺達はこの6階はスルーして7階を目指す。

7階の出現モンスターは変わらず魔狼が出るが、6階の魔狼よりモンスターレベルが1高く、7であること。さらにモンスターレベル8の魔狼リーダーがレアポップする。コイツは近くにいる魔狼を呼び寄せるスキル《遠吠え》を持つため、戦闘になったら最優先に止めを刺したほうがいいモンスターだ。

そしてこの魔狼達を従え、騎獣にしているオークテイマーも7階にポップする。魔狼の噛みつきに加え、オークが騎乗し、剣を振り回し攻撃してくるため魔狼単体より手ごわい。オークテイマーがいると魔狼の集団戦闘力が増すため、複数の魔狼を従えている場合は魔狼リーダーよりも倒す優先度は高い。

さらに7階の大部分は森林MAPで見通しが悪く囲まれやすいというリスクがあるので、魔狼の皮集めが目的なら素直に6階で狩るほうがいいだろう。

だが7階にいく理由もちゃんとある。

「とりあえず7階に行って試しに魔狼と戦ってみるか」

「魔狼狩るなら皮を集めて下半身防具も作りたいな~」

無理に皮集めをしなくても7階で狩りができるなら魔石とドロップアイテムで買える収入は十分得られるはずだ。それに。

「魔狼は試すだけにしよう。7階は調べたい場所があるんだよ。隠しMAPだ」

「そんなとこあるの?」

「あぁ。もしかしたら誰も行ったことがないエリアかもしれないぞ」

目を輝かせ「お宝あるかなっ!?」と、いつぞやの成金ソングを口ずさむ。その歌は恥ずかしいからやめなさい。

そんな他愛もない事を話しながらアイテムを拾い集め、いくつか吊り橋を渡って5階のメインストリートへ合流。

まずは6階を目指して移動しよう。

*・・*・・*・・*・・*・・*

相変わらず次の階へ続くメインストリートは人が多い。6階以上を目指す多くの冒険者が魔狼狩りを目的としていて黒系統の防具が目立つ。

「みんな魔狼防具してるね~。なんか実力者の仲間入りって感じがするよっ。まだダンジョン2回目なんだけども……」

「トレインで一気に上げたからな」

オークロードを独占できたのはかなり美味しかった。そうでなければもっと多くの時間を5階で過ごしていただろう。

他のプレイヤー達がいたとして、橋落としは利用しないのだろうか。すでにさらなる深層へ行っているのか、はたまた到達していないだけなのかは分からないが、結局一度もそれらしき人物とは出会わなかった。

30分ほど歩き、6階入り口の広場に到着。5階同様、屋台や売店、魔石やドロップ品の買取所があり、冒険者で賑わっている。違うのはベテランパーティーの割合くらいか。5階層までなら全員が前衛というパーティーもありふれていたが、この階くらいから弓や魔法など遠距離攻撃ができる後衛や回復要員が入ったパーティー構成をよく見る。いかにも初心者って感じの冒険者はもういない。

「あぁ! たこ焼き売ってる! あっちにはカフェテリアがあるっ!」

「6階は通過するぞ。でもまぁ……その前に軽く食っておくか。何が食いたい?」

そういえば妹は前回も今回もゲートを使用したから階層の入り口広間はここが初めてか。ダンジョン入り口から入ったことが無いというのも珍しいのかもしれない。たこ焼きが食べたいらしいので屋台でたこ焼きを摘まみ、トイレを済ませて7階を目指す。

「トイレって……汲み上げたのどうしてるのかな……」

「ダンジョンは半日も置いておくと吸収するからな。汲み上げる必要なんてないぞ。お前も緊急時はそこらでしてもOKだ」

「レディーがそんなことできるわけないでしょっ!」

プンスカと自分の口で言いながら頬を膨らませて抗議の構えを取る。本来なら通信機器や休憩施設などもダンジョンに吸収されてしまうが、低級ゴーレムの核を使った魔道具の発明により吸収に抵抗することもできるようになった。これが発見されるまでダンジョン内には簡易的な施設しか作れなかったらしい。

冒険者ギルド図書室のダンジョン図鑑にそんなことが書いてあったと 薀蓄(うんちく) を垂れながら7階を目指す。

魔狼の皮目当てのパーティーのほとんどはこの6階を狩場にするため、この階のメインストリートからは歩いている冒険者の数が少なくなる。走っても大丈夫だろう。

「時間が勿体ないから小走りで行くぞ」

「えぇ? 食べたばっかなのに~」

しぶしぶの了承を得て、えっちらおっちらと小走りで走りはじめる。他のパーティーも何組か走っているので特に目立つことは無い。肉体強化により軽く流す程度でもかなりの速度で走ることができるので爽快だ。

*・・*・・*・・*・・*・・*

「ふぅ、7階についたー! ……あれ? 6階と比べてお店が少ないね」

「魔狼狩りパーティーはみんな6階で狩りするから、この階は冒険者が少ないんだ」

少なくなったとはいえ、いくつかの屋台や休憩所はある。ただ値段はどこも通常の倍程度の値段となっている。缶ジュースなんて1本300円前後になっているが、ゴミ箱にある空き缶を見る限りそこそこ売れているのは驚きだ。

さすがに高いだろ……いや、これ利用できないか? などと考えながら先に進もうとすると。

「ちょっと休憩しようよ~。あ! あっちのお店見たいっ!」

「隠しマップにはお宝があるかもしれんぞ」

「えっ!? ……そ、それじゃしょうがないにゃ~」

現金な妹は宝で釣れ。そう心の妹マニュアルに書き足しながら隠しマップのポイントへ向かう。

この一帯には巨大な針葉樹林が無数に生えていて非常に見通しが悪い。この木を切り落としても消えてしまうので、木材としては使えない。天井は見上げるほど高く、ぼんやりと青白く光っている。あんな光で光合成できるのだろうか……いやこれは植物ではなくオブジェ扱いだし関係ないのか。

8階へ向かうメインストリートから逸れて数分も経たないうちに魔狼を発見。体長は尻尾を含め2mほどだろうか、濃灰色の長い体毛に覆われており骨格もガッチリしている。こちらを睨む目には知性を感じる。

「コイツにバクスタは取れそうにないな、足音と臭いで先に気づかれてしまう」

「くるよっ!」

相手は魔狼1匹のみ。警戒して向かってこないと思いきや、数秒ほど唸った後、突如こちらへ駆けてきた。最初の攻撃の狙いを妹に定めたようで、首元に牙を突き立てようと数メートル手前から飛びかかる。それを難なく躱し、すれ違いざまに魔狼の横腹に小太刀を突き刺して切り裂く。魔狼は「キャウン!」と一声鳴いて逃げようとするが上手く立つことが出来ないようで、すぐさま俺が詰め寄って止めを刺し魔石となった。

「魔狼1匹だけならなんとかなりそうかな。動きがすっごく良く見えたっ」

「一気にレベル上げたが、問題はなさそうか」

中学生の女の子だろうとレベルアップによる肉体強化は平等で、すでに妹の筋力や瞬発力、動体視力は一般男性のそれを余裕で上回っている。

あとは戦闘センスの問題だが、それもどうやら心配することもなさそうか。急激な肉体強化に慣れないということもなく、おどおどとしたり戦闘を怖がる様子も見られない。今も2本の小太刀を両手に持ちながらシャドーを切り裂いている。

もしかして戦闘狂なのかしらん。あとそのシャドー、おにぃちゃんじゃないよね? なんてどぎまぎしながら魔狼の魔石を拾い、MAPの南東方向へ移動を続ける。

向かう先は「ダンジョンエクスプローラークロニクル ゴーレムの鼓動」という最新DLCで追加されたエリアだ。それが存在していたのなら、ダンジョン攻略における新たな指針となりうる。

敵と遭遇しない時間は妹にゲーム知識とダンジョン情報を増やそうと、少しずつ説明することにしている。

「ゴーレム?」

「そう、【機甲士】ってジョブになればゴーレムを作って運用したりできるんだ」

「ええぇ!?」

DLC「ゴーレムの鼓動」の実装前にも情報が小出しにされ、話題を集めていた【機甲士】。派手なゴーレムに搭乗できることから、多くのプレイヤーが実装日を待ち望んでいた……が、いざ実装されてみると弱くて使い物にならないと酷評された不遇の上級ジョブである。

その理由としてまず、ゴーレムの戦闘力が微妙すぎる点。

ダンエクでは物理攻撃半減や無効なんてモンスターも数多くいるため、基本的に物理攻撃しか使えないゴーレムは使用用途が限られるのだ。

そして動きが遅い。搭乗すれば乗り物として使えるが、移動速度はそれほど速くはなく、むしろ自分で走ったほうが速い。そもゲームだったときは走っても疲れないのだから乗り物なんて要らないのだ。

最後に【機甲士】は《ゴーレムキャッスル》というスキルを使えば危険地帯にゴーレムの建築物を作ることができる。効果はHP、MP回復速度3倍。全状態異常回復。城内で1時間以上滞在すれば一時的にSTRとINTに5%ボーナスが付くというおまけ付きだ。

ゲームの時は正直そんなスキルは必要なかった。ポーションをガブ飲みしていたため、拠点を作ってまでHP、MP回復なんてしようと思わなかったし、危険地帯にわざわざ寝泊まりする必要もなかった。電気、水道、冷蔵庫、風呂、トイレ、ふかふかのベッド完備というが、そんなものゲーム内では単なる自己満足の領域で、飾り以外の何物でもなかった……

しかぁし! しかしである!!

これが現実世界となれば価値は逆転し、天空へ昇龍するほどの鰻登りである。「ぶっちゃけこれあれば家帰らずダンジョンダイブできるよね」である。いやむしろ住んでもいい。最低でも《ゴーレムキャッスル》は欲しい……欲しすぎる!

ということで妹に【機甲士】の概要と、それをこれから調べに行くのだと言うと。

「なっ……絶対いるよねっ、そのスキル!」

「だろ? だからそのジョブになれるかどうか、これから調べに行くんだ。もし隠しマップがあるなら、そこは優良なレベル上げポイントにもなるしな」

DLC「ゴーレムの鼓動」では新ジョブとMAPだけではなく、いくつものゴーレムがモンスターとして追加された。

ゴーレムは10cmほどの人形の形をした水晶の核からエネルギーを受けて起動している。深層のゴーレムの核は魔鋼で守られていたりするが、ここ7階のゴーレムは核がむき出しのため、そこを攻撃すれば簡単に倒すことも可能。弱点が明確なためレベル上げとしてはかなり美味しいモンスターなのだ。倒すと核を落とし、その核は【機甲士】がゴーレムを呼び出す際の触媒になるし、ダンジョンストアで売ることもできる。

DLCで追加されたMAPはいくつもあるが、その中で一番浅層にあるのがここ7階。つまりDLCが実装されているかはここまでこないと調べようが無かったわけだ。

「この先に落とし穴があるんだが、底に横穴があったらその先が隠しエリアになってるはずだ」

「ほぉ~」

森の中にやや小高い丘になっている場所がある。その頂上付近を調べると……落とし穴はあった。底まで5m以上はありそうで横穴があるかは降りて調べる必要がある。

「ロープを持ってきた。そこの木に結ぶか」

クライミングロープをリュックから取り出し、近くの木に結び付ける。ちゃんと固定されているか引っ張って確認する。大丈夫そうだ。

「見に行っていい?」

「いいぞ。横穴が奥まで続いてたら教えてくれ」

「は~い」

躊躇することなく自衛隊がするような懸垂下降でスルスルと底まで降り、横穴の有無を調べる華乃。まぁ無かったら無かったでこの辺りを回ろうかね。

「ん~? あったっ! おにぃ、横穴あったよ~!」

「よし、俺も降りる!」

続いて俺も降りようとすると遠くで遠吠えが聞こえた。この吠え方は魔狼リーダーっぽいな。普通の魔狼はこんな吠え方はしなかったはずだ。近くで誰かが戦ってるのだろうか。まぁ今は無視しよう。

俺も同じように懸垂下降で落とし穴を降りるが、重い体重のせいなのか残り2mほどで足を滑らしケツから落下してしまう。妹は横穴に夢中で見ていなかったようなので、兄の威厳は保たれたとホッとしたのも束の間。

「もうっ。おにぃはドジなんだから気を付けてよねっ」

しっかり見られていた。