軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

131 新たな生徒会

ダンジョン20階にあるゲート部屋。隙間なく石材が敷き詰められているせいで暗く冷たい印象のあったこの場所は、いたるところに照明が付けられ、家具やベッドが置かれたりとやけに生活感が出ている。そんな場所にまだ声変わりのしていない少年の声が響く。

「これこれっ、やっぱこれがないとっ! あぁ~うっまぁ~い!」

すでに頬をパンパンに膨らませているにもかかわらず、テーブルに広げられたスナック菓子を次々に口へ放り込むアーサー。向こうの世界にもあったお気に入りの菓子らしく、大きな巻き角を上機嫌に振って喜びを表している。

無言で差し出されたコップに俺がコーラを注いでやると一瞬で飲み干して、また次を注げとばかりに 顎(あご) で使ってきやがる。アーサーには決闘の件で借りがあるのでパシリをやらされているが……そろそろ下剋上してもいい頃合いだと思っているがどうだろうか。

その隣ではリサが頬杖をつき、チップスをちびちびと食べながら微笑んで見ている。アーサーのむちゃくちゃな食べっぷりが面白いらしい。

「そんで、プレイヤーは全部で七人だって? え~と、今のところ誰がいるんだっけか。ボクと、災悪と、利沙ちゃんと~……」

「月嶋君と、ヴォルゲムート君ね~」

「……おい。ヴォルゲムートに“君”は付けなくていいだろ」

月嶋が言い放ったプレイヤー 七人(・・) 説。アーサーが指を折りながら俺達三人の名を言うと、続けてリサがもう二人の名を挙げる。これで五人だ。

仮に七人説が本当なら、残り二人の正体が分かっていないことになる……が、その前に。何故にヴォルゲムートを“君”付けて呼ぶのか意味が分からない。骨野郎で十分だと突っ込ませてもらおう。

「でも、なんで月嶋は七人って思ったのさ。もしかしてもう全員分かってるの?」

「私と月嶋君の固有スキルから推測した、と言ってたわね~」

こちらの世界に来たプレイヤーには、特定の固有スキルが 強制的(・・・) にスキル枠へ入れられている。それにはいくつかのステータスを上昇させるバフ効果があるものの、重要ステータスが大幅に下げられていたり、精神を蝕むような強烈なデバフ効果まで付いていて実に厄介。しかも削除はできず、もはや呪いと言っても過言ではない代物だ。

俺の場合は《 大食漢(たいしょくかん) 》という、常時 飢餓(きが) 状態になるスキルがセットされていた。こちらの世界に来た当初は空腹で精神力を持っていかれ、加えて極度の肥満状態。まともに動くこともできず、ダンジョンダイブどころか階段を上がるのすら厳しかったことを覚えている。

同様にリサには《発情期》、アーサーには《焼き餠》という固有スキルが備わっていた。俺はそれらの固有スキルを見ても関連性があるとは判断できなかったが、アップグレードさせたときのスキル名、《 暴食(グラトン) 》、《 色欲(ラスト) 》、《 嫉妬(エンビ―) 》を並べてみれば、さすがに鈍い俺でも“七つの大罪”の罪業名だと気づく。

逆に言えば固有スキルが“七つの大罪”をモチーフにしたのなら、固有スキルも罪業の数だけ種類がある、つまりプレイヤーも七人いると推測できるわけだ。だとすると新たな疑問が浮かんでくる。

「じゃあ、残りは……えーと?」

「私達以外の固有スキルは《 傲慢(プライド) 》、《 強欲(グリード) 》、《 憤怒(ラース) 》、《 怠惰(スロウス) 》の4つ。ちなみに月嶋君の固有スキルは《 怠惰(スロウス) 》だから~、所有者が分かっていないのは残りの3つね」

つまりこういうことだ。

・成海颯太 《 大食漢(たいしょくかん) 》→《 暴食(グラトン) 》

・新田利沙 《発情期》→《 色欲(ラスト) 》

・アーサー 《焼き餠》→《 嫉妬(エンビ―) 》

・月嶋拓弥 《??》→《 怠惰(スロウス) 》

・ヴォルゲムート《??》→ 《??》

・不明 《??》→ 《??》

・不明 《??》→ 《??》

・不明スキル:《 傲慢(プライド) 》、《 強欲(グリード) 》、《 憤怒(ラース) 》

ヴォルゲムートはどれに該当しそうか。最初からやけに攻撃的だったから《 憤怒(ラース) 》っぽい気がするが、今となってはもう確実な答えなど望めず闇の中だ。

「でもさ。利沙ちゃんが《フレキシブルオーラ》を教えていないなら、今頃固有スキルを抑え込めず頭がおかしくなってるんじゃないの? ボクは精神攻撃耐性があったからまだ何とか理性は保ててたけどさ」

「うーん~……特に思い当たる生徒はいないわね。ソウタはどう?」

「月嶋以外でおかしいやつなんていたか。もしかしたらアーサーやヴォルゲムートのようにダンジョンに飛ばされている可能性も考えられるぞ」

ダンエクとこちらの世界のEクラスを比較しても、おかしな行動をする奴は月嶋くらいしか思い当たらない。他のクラスにいたとしても固有スキルが暴走すればその破天荒な行動くらい耳にするはずだが、そんな噂は入ってきていない。ならば消去法でダンジョンにいることになるが……

「そうなるとダンジョンダイブを続けていけば、いつかは出会うことになるのかしら。それも怖いわね~」

少し考え込むようにリサが憂慮する。俺達はゲームストーリーを乗り越えていくために今後も継続的にレベルを上げる必要があり、より深い階層に潜っていかねばならない。仮にそこで精神状態が悪いプレイヤーと出会ってしまえば即戦闘になりえる。

加えて月嶋が言っていた“願いが叶う”という特典。これのせいでたとえ精神状態がまともであっても殺し合いになる可能性が排除できなくなった。まったく、こんなスキルさえなければもっと気楽にこの世界を 謳歌(おうか) できたというのに……

気を重くして考えを巡らしていると、リサが水筒から香りの良い紅茶を注いでくれる。気分転換には丁度良い。早速手に取って飲みながら一息していると、リサは腕端末の画面を開いて再び神妙な顔をする。

「なんだ。また問題が起きたのか?」

「そういうわけでは……これもある意味問題なのかしら。決闘が終わっていくつか動きがあったわ。ソウタにも通知きてない?」

見れば俺の腕端末にも通知が来ていた。生徒会から全生徒へ向けて一斉通知があったようだ。アーサーも何かあったのかと顔を寄せてくる。

「次期生徒会長候補を世良さんに一本化するって。早速、任命権を行使して副会長に 周防(すおう) 皇紀(こうき) 君、特別顧問として月嶋君が入るそうよ」

対抗馬だった足利が棄権し、他の八龍が新たな候補者を擁立しなかったことで世良さんの生徒会長が事実上確定した。だがゲームであったときは、任命権を行使するのは夏休みが明けてからだったはず……いや、それ以前にこの人事は何事だ。

「何で月嶋が……って、世良さんが無理に引っ張ってきたんだろうな」

「どういうこと? それに周防と 桔梗(ききょう) ちゃんって犬猿の仲じゃなかったっけ。あんだけバチバチにやりあってたじゃん」

世良さんはあの決闘以降、月嶋を“勇者様”と呼び、周りが驚くほどに慕い始めた。月嶋の住む男子寮まで出向き、押しかけ女房のように世話する姿を周囲に目撃されている。それを聞くたびに俺のジェラシーゲージは鰻登りである。

一方の周防も敗北した月嶋から離れるようなことはせず、月嶋を慕う世良さんとも積極的に行動をしている。二人の中学時代からの因縁はどうなってるんだとアーサーが首を傾げるが、月嶋の持つ知識と力の前には些細なものと考えたのだろう。

だがこの三人が生徒会を動かすというのはどうなのか。八龍を抑えることはできるのか。月嶋にはこれ以上暴れないようにと約束はさせたものの、正直不安でしかない。

「……それと、第一魔術部と“聖女機関”が険悪な状態になっているようね。放っておくとそのうち問題になるかもしれないわ」

八龍のうち、いくつかの派閥が男子寮の前で張り込んで月嶋に接触しようと試みている。そのため世良さんは実家が運営する聖女機関から巫女を引っ張ってきて、護衛に当てさせたのだ。痺れを切らした第一魔術部は強引に護衛を突破しようとし、聖女機関と一触即発の状況となっていたらしい。

「第一魔術部といえば 一色(いっしき) 乙葉(おとは) がいたっけか。ダンエクだとこの時期の桔梗ちゃんとは仲が良かったのに、もう本性を現したの?」

「世良さんよりも月嶋君に関心が向いたようね~」

第一魔術部と聞いて、ゲームストーリーに登場する一色を思い出したアーサーが、眉を寄せて懸念を示す。

部長である一色は小柄で可愛らしく、いつも柔和な笑みをたたえているので一見すればヒロインと勘違いしそうになるが、その実、非常に苛烈な性格で野心的。加えて強烈な貴族主義思想を持つ厄介な人物だ。ゲームストーリーでもEクラスを抑え込んでいた主犯格の一人であり、赤城君とピンクちゃんが上位クラスを倒した暁には激しく衝突することになる。

それでもゲームストーリー通りならば、この時期の一色はまだ大人しく、次期生徒会長戦でも世良さんの後ろ盾となって親密な関係を築いていた。後々、赤城君の側に立った世良さん率いる生徒会と抗争状態になるにしても、今の時点ですでに険悪になっているのは早すぎる。とはいえ、あの決闘を目の当たりにすれば一色の興味が月嶋に移るのも不思議ではない。

「月嶋が勝手に自爆するだけなら楽でいいけど、それで済まないよね? 一色とか桔梗ちゃんの背後にはヤバ~いのがウヨウヨいるし、そいつらまで表に出てきたらゲームストーリーは本格的にめちゃくちゃになっちゃうよ」

「それも悩ましい問題ね~」

「……今のところ月嶋は世良さんの陰に大人しく隠れているしかないだろうな」

月嶋は本来なら己の力を見せつけた上で八龍を恐怖で支配し、こういった事態にさせないつもりであったようだが……それを完遂する前に俺達に敗北してしまった。おかげで今も八龍の手綱を握れていないままだ。となれば第一魔術部のように強硬手段を取ってくる派閥がでてきてもおかしくない。

さらに八龍の背後にいる奴らまで出張ってくるなら、ダンエクでいう学校内イベントをすっ飛ばして、中盤を超えるところまでストーリーが進んでいるのと同じ状況になる。まだ入学して半年も経ってない赤城君達がその状況でどうこうできるわけがなく、全て俺達が対処しなければならない。

だが月嶋が生徒会員となることで状況は確実に変わる。生徒会員は生徒にペナルティを与えられる権限を持つため、貴族であっても容易に手出しできなくなるからだ。世良さんもそれを狙って月嶋を生徒会に引き込んだ可能性もある。

これで一色達が大人しくなれば一件落着と――なるわけがない。

周防と月嶋がいる生徒会なんて不安でしかないし、その二人を隣に置く世良さんがどう動くのかも予測ができない。せめてリサが近くで見てくれれば……あれ。リサは生徒会に入らないのだろうか。

「ちょっと聞いておきたいんだが、リサは生徒会に誘われてないのか?」

「誘われはしたけど~断ったわ。ソウタ側にいるって完全にバレたわけだし、もう重要な情報は私の前では話さないと思うし。それに~私が世良さんの近くにいるのは避けておきたいの」

「桔梗ちゃんのラスボス化かー。周防も一応ボスだし、生徒会に入ったとしても居心地は最悪そうだなー」

ダンエクでは女プレイヤーでスタートするとストーリーの分岐次第では世良さんがラスボスになるルートもある。敵対すれば背後にいる聖女機関が敵となり日常生活においても身動き困難となる。リサの言う通り、万が一を考えて離れていたほうが無難だろう。

「早瀬さんも生徒会に誘われていたわよ……というより、月嶋君が誘ったみたいだけど断られたみたい。あんな冷たくされたら断るに決まってるのにね~」

「そりゃそうだろうけど、カヲルは生徒会なんて興味ないだろ。今は自分のことで精一杯なはずだ」

今回の決闘にはカヲルも巻き込まれ、散々な目に合わされていた。月嶋を止められぬ己の弱さを嘆き、涙を流す姿を思い出すと今でも心が痛む。それでもダンエクのカヲルにも劣らぬ芯の強さが垣間見れたことは救いだ。

あの強さがあるのなら、ゲームストーリー通りに赤城君達と切磋琢磨していけば本物のヒロインとなれるはず――だったのだが、そのゲームストーリー自体が怪しくなってしまった。八龍にも一目置かれ、生徒にペナルティを発動できる生徒会員がEクラスから輩出されたとなれば、上位クラスや八龍との抗争イベントが発生するかは疑わしい。

善し悪しは別にして自分を引き上げるライバルが現れないのなら、ゲームストーリーで描かれる成長ルートも期待できない。だからといって赤城君やカヲルの成長を諦めるという選択肢はなく、今後起きるであろう悲惨な未来を回避するためにもテコ入れは急務となっている。

「そのテコ入れだけど、早瀬さんが 仮面の人物(・・・・・) は誰か、連絡を取りたいと何度も聞いてきたわ。剣を教えて欲しいんだって」

「剣を? 赤城君ならともかくカヲルならリサが教えたほうが合っているだろ」

「災悪の剣は、いくらカヲルちゃんでも厳しいんじゃないかなぁ。あ~あ、魔法戦ならボクが手取り足取り教えてあげられるんだけどなー」

剣道を元に対モンスターや対人にも使えるように応用・改良した日本剣術、それがダンエクでのカヲルの剣だ。数多の激闘を経験し洗練された彼女の剣は強く美しく、多くの者達の目を惹きつけ 憧(あこが) れる存在であった。そんな存在になるはずの彼女に教えを乞われたからといって、対人戦を繰り返して身に付けただけの俺が出しゃばるのはどうなのか。

一方で西洋剣術の使い手であり日本剣術にも精通しているリサならば、カヲルの良さを最大限引き出しつつ剣の実力を向上させることが可能ではないかと言うと、リサは空を見て思案するようにそのときのカヲルの様子を語る。

「ん~それがね~剣を教えてもらいたいというよりは、もっと切実な感じがしたのよね~。私の勘だけど、あれはまるで――」

「あっ、きたかな?」

リサが何かを言いかけたとき、ゲートの紋様が紫色に光り、部屋全体が紫色に染まる。出てくるのは恐らくあの二人だろう、アーサーが待ってましたとばかりに立ち上がる。

「――っとぉ! たっだいまー! お米とお野菜いっぱい持ってきたよー!」

「炊飯器とコンロはこっちに置くねっ……よっと。お肉はたくさん取れたかなっ?」

両手に袋を持った華乃がツインテールを元気よく揺らして飛び出てくると、続いて大きな箱をいくつか抱えたサツキも入ってきてテーブルの上にそっと置く。

「食べきれないほど、い~っぱい取ってきたよ。 皐(さつき) ちゃん」

「わぁ~すっごーい! あれ全部が“マムゥのマンガ肉”なの!?」

「もーっちろん。実はボクまだ食べたことないんだけど、トカゲなんて本当に美味しいのかな」

アーサーが胸を張りながらキッチンテーブルの上に積まれた巨大な骨付き肉を指差すと、華乃が目をキラキラと輝かせる。あれは俺とリサとアーサーの3人で走り回って取ってきた、マムゥの肉だ。

マムゥは2~3mくらいの 獰猛(どうもう) な人喰いトカゲで、稀にドロップする肉は非常に美味。市場では100g数万円という価格で取引されているほど人気がある。しかし個体数は少なく、不利になるとすぐに逃げてしまうため倒すことはかなり難しい――とされているが、俺達は大量に群れている狩場を知っているので三人で仕掛けを作って囲い込み、一網打尽にしてきたわけだ。

ということでこれから何をするつもりかと言えば、焼肉パーティーである。現状としては先ほど話し合っていたように問題は山積し、考えるべきことも多々あるが、月嶋の暴走という難局を皆で手を取り合って乗り切れたことは自信と希望につながった。今日くらいは楽しんでおくのも悪くないと思って皆で準備し集まったのだ。

俺達はダンジョンを攻略していく仲間であり、今後の難局を乗り越えていくための運命共同体でもある。すでに未来は予測不可能な状態へ突入してしまっているが、俺達が力を合わせれば必ず乗り切れるはず――って、おいっ。まだご飯も炊けていないのにもう焼き始めてるのかよ。俺にも食わせろっ。