軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第8話 上黒川眞白の本質

「なぁ、聞いたかよ上黒川さんの噂」

「さすがに彼氏いるわけなくね? だってあの上黒川さんだぞ? 今まで誰に告白されたってバッサリ切ってたじゃん」

「そもそも男に興味ないって俺は聞いたけどな」

「それが男の幼なじみいるらしくてさ、しかも同じクラスに!」

「なんかこないだ、上黒川さんが顔真っ赤にして照れてたんだって、ソイツに」

「はぁ? ありえないだろそんなの」

「そうそう。噂の幼なじみがアイツで……」

「え、マジ? 普通じゃね?」

「あれが? ないない」

「でも上黒川さんの反応がガチっぽくてさ……」

昼休みの廊下。

歩いているだけで注目され、噂する声が聞こえてくる。

「(まさか、ここまで一大ニュースになるとは……)」

いつも俺と眞白が付き合っているという噂は疑惑どまりですぐに消える。

大体、眞白がすぐに「なわけあるか」と一刀両断するからだ。

しかし、

『…………そ、そんなわけないでしょ……? け、兼助と私がなんて……あ、ありえない、から……ほんと、ありえない…………から』

あの教室での眞白の反応が噂を確かなものに押し上げていた。

「(さすがに、ここまで注目されるのは疲れるな……)」

なんて、ぼーっと考えていると曲がり角で人とぶつかりそうになる。

「あっ、すみま……」

「あっ、ごめんな……」

つい最近もあったようなデジャブ。

「ま、眞白……」

「け、兼助……」

ぎこちない空気が俺たちの間に流れる。

「な、何よ。何か用?」

「いや、別に……なんもないけど」

「……そ」

眞白が目を伏せ、俺の横を通り過ぎようとする。

「ま、眞白!」

俺が引き留めると、眞白は立ち止まり控えめに振り返った。

「だ、だから何よ。用があるなら早く言って」

「用があるというか、えっと……」

言葉に迷っていると、他の生徒たちから見られていることに気が付き、眞白がピクリと反応する。

「っ! わ、私……もう行くから」

「あっ……」

眞白は足音を鳴らし、そそくさと立ち去っていった。

やはり、最近の眞白はおかしい。

いや、おかしくて当然なのだ。だって……俺と眞白は二回もシてしまったのだから。

「(……でも、あの眞白がここまで変わるとは……悪態の一つもつかれないなんて。いや、よかったんだけど。地位と名誉の回復には成功してるんだけど。いや、そもそも幼なじみに暴言吐かれないのが普通なんだけど! じゃなくて!)」

それに、妙にしおらしい眞白はなんか……かわいかった。

あの夜だって、眞白は……。

「アァーッ! わっけわかんねぇ! なんだよこのラブコメ超迷宮は! いや、俺から迷い込んでんだけど! 超自業自得なんだけど!!」

……あ、やべ。声に出てた。

周りにいた生徒たちが、「訳わかんねぇのはお前だよ……」という目で俺から距離を取っていく。

俺は色んな意味で頭を抱えた。

「……はぁ、どうしたらいいんだか……」

「――んじゃま、日光浴っしょ」

「……え?」

振り返るとそこには、なんか楽しそうに笑っている長谷がいた。

「ビタミンD出してこー」

「え、なんだお前」

「D~」

意味分からないことがまた一つ増えた。

中庭。

長谷と並んでベンチに座り、日光浴をする。

「ビタミンD、体内に出来てるカンジするっしょ~?」

「しねぇよ」

「……え、病気じゃん」

「作られてはいるだろうけど、実感は出来ないだろって」

「へ~」

「途中で飽きんな」

会話はひどいが、中庭の穏やかな雰囲気がすべてを包み込んでいた。

「ね~北っち」

「なんだよ」

「ましろんと付き合ってんの?」

「付き合ってないよ」

「……嘘だ~」

「嘘じゃないから。付き合ってないから」

まぁ、意地の張り合いの末に二回も朝チュンしているけど。

「え~でもさ~、付き合ってないのにましろんあんなに取り乱す? だってましろんだよ? あのましろんだよ?」

「…………」

まぁ、俺を煽って二回も朝チュンしたわけだし。

「どんなことがあっても、上黒川眞白は気高くあり続ける。そ~ゆ~のがましろんだったじゃん?」

「まぁ、そうだな」

「そんな子があんなに感情を表に出すなんて……やっぱ付き合ってるんでしょ~?」

「付き合ってないって」

「……やっぱつ」

「付き合ってないって!」

割り込んで言うと、長谷が興味深そうに「ふ~ん」と背もたれに寄りかかった。

そしてぼんやりと空を見上げ、何気なく呟いた。

「なんか、うらまし~な~」

「え?」

「だって、ましろんの心乱せんのって、それだけましろんの心に近づけたってことじゃん? やっぱ幼なじみだから? ま~なんにせよ、うらやまし~よ。ってかズルい」

「ず、ズルいって言われても……」

なんて返せばいいか、対応に困る。

「ま~さ? 前から北っちはうらやまし~な~って思ってたんだよね~」

「俺が?」

「そうお前が」

「急にお前って言うな怖いわ」

急な真顔もやめろ怖いわ。

「北っちって、別にましろんと仲いいってカンジじゃなかったじゃん? なんか兄弟っていうか……一番近くの他人? みたいな」

「全然わかんないんだけど……」

「とにかく、よくわかんないけどましろんと北っちは繋がってんだな~って思ってたんだよね~。何色の糸かは知らんけど。……やっぱ赤?」

「俺に聞かれても困る」

「ま、なんでもいいや」

ほんと途中で勝手に飽きるな、コイツ。

「それに加えて最近は、な~んかふたりとも怪しいし、距離近いし……と思ったら遠いし、見てて楽し~よね。どういう遊びしてんの?」

「遊んでないから」

「私も混ぜて欲しいな~と思いつつ、傍から見てんのもけっこ~楽しいんだよね~、ほんとにさ」

長谷は小さく笑い、続けた。

「ましろんってさ、パッと見最強じゃん? めっちゃ強そうじゃん?」

「そうだな。俺は女王だと思ってる」

「たはーっ、言い得てみょんみょん」

ずっとなんだコイツ。

相変わらず長谷は長谷だな……と思っていると、長谷は清々しい表情で「でもさ」と切り出した。

「強いんじゃなくて、強くあろうとしてるのがましろんのかわいいところで、好きなところなんだよね~、私は」

長谷の言葉が胸の中にスッと入り込んでくる。

「そ~ゆ~とこいっぱい引き出せる北っちは、やっぱうらやまし~よ」

なんとなく、長谷の言っていることがわかった。

だってそれは、俺も最近感じていることだから。

「そりゃ、ムラっともしますわ」

「……え、ムラ⁉」

「おっぱいの形もいいし、お肌すべすべだし。それにきっと、あのタイプはベッドでは弱弱しくも頑張っちゃうタイプだね……あ、ムラっとしたっしょ」

「し、してないわ!」

……いや、正直した。

というか、長谷の発言全部を俺は実際に知っているというか、眞白のベッドでの強がり方はかわいすぎるというか……じゃないじゃない。

「ま~さ、ましろんを大事にね。友達からのよろ~で~す」

そう言って、長谷は俺を置いてずかずかと行ってしまった。

本当に長谷は良くも悪くも適当で、掴みどころがない。

……ただ。

眞白を友達として大切にしていることはよくわかった。

「……ほんといい奴だな、アイツ」

▽ ▽ ▽

――とはいえ。

俺と眞白の噂は全く鎮火されることなく、むしろ火力を増して燃え続けていた。

ここ最近の眞白は一段と鋭さを失いかけていて、俺に対して悪態の一つもつかない。

というかそもそも、注目されすぎてほとんど話すことが出来ず、あっという間に日々は過ぎていった。

そんな、ある日のことだった。

「えっと……な、なんですか? 告白……とかじゃないですよねすみませんわかってました」

ダラダラと冷や汗が出てくる。

放課後、校舎裏。

俺の目の前には――ガタイがよくて、ちょっとチャラそうな三年生が七人。七人⁉

「お前が上黒川と付き合ってるって噂の幼なじみだよな?」

やっぱり、そのことか……。

「いや、付き合ってないんですけど……」

「嘘つけ。付き合ってんだろ?」

「いやいや、ほんとに……」

「同棲してるって聞いたぞ」

「許嫁なんだってな。それも高校卒業してすぐに入籍する予定で……」

「幼なじみで義妹なんだろ? ふざけやがって……」

「幼稚園に通う子供がいるらしいな」

「二人目も計画中なんだろ? 許せねぇ……」

噂に尾ひれつきすぎてんだろ……。

「なんでお前なんかが……どう見たって釣り合ってねぇのに」

「なんか弱みでも握ってんだろ? 最低だな」

「身の程わきまえろよ。ってか空気読めよマジで」

「とっとと別れてくんない?」

「お前、上黒川にふさわしくないんだよ」

こうやって、男にあれこれ言われるのはこれが初めてじゃなかった。

当然だ。別に仲睦まじくなくたって、眞白と幼なじみというだけで嫉妬される。

「(……はぁ、めんどくさいな)」

自然と周りの音を、声をシャットアウトする。

こうすれば、飽きてそのうち帰っていくから。

だから……。

「おい! 聞いてんのかよ!!」

一人に肩を掴まれ、ふらついてしまう。

――そのときだった。

「そこまでよ」

冷気を帯びていて、空気を切り裂くような鋭い声。

そこに立っていたのは、三年生たちを睨みつける女王のオーラを纏った眞白だった。